新卒1年目の別府大河さん(24)はプロジェクト単位で異なる「チーム」を組んで仕事を行う。アーティストのプロデュースや企業ブランディングなど複数の案件に関わっている。出身は、一橋大学商学部。周囲の友人が大手企業に就職していくなかで、自分の心に正直で居続けられるチーム、信頼できる人と共に働く道を選んだ。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

今年4月に社会人になった別府さん

別府さんは恩師であるアーティストインキュベーターの四角大輔さんのもとで働いている。四角さんはレコード会社時代、絢香やSuperflyなどをブレイクさせたアーティストプロデューサーとして名を馳せ、過去に7度のミリオンヒットを成し遂げた人物。現在は、学生の頃から夢だったニュージーランドに移住して、原生林に囲まれた湖畔の森で、オーガニックでサステナブルな半自給自足の生活を送っている(オルタナSでの四角さんの以前のインタビューはこちらから)。

学生時代から四角さん(右)とともに働いてきた

一つのプロジェクトには、プロデュース、マーケティング、PR、ブランディングなどそれぞれの分野で活躍するクリエイティブな人が集まり、チームを組む。常時複数の案件にかかわっているが、その一つには、今年3月に本格デビューしたシンガーソングライターの尾崎裕哉さんのプロデュースという仕事もある(オルタナSでの尾崎さんの以前のインタビューはこちらから)。

収入は四角さんが代表を務める会社から得ているが、プロジェクトごとに仕事を行うので、いわゆる「就業規則」はない。別府さんはこのような働き方をしているが、大学に入った当初は、「固定概念に縛られていた」と振り返る。

「一橋大学に入ったから将来はもうほぼ安泰。だけど、社会人になったら家と会社を往復する人生を送ることになる。人生を楽しめるのは大学生のうちが最後。そんな幻想を本気で抱いていた」という。しかし、その価値観は大学1年のときに友人と行ったインド極貧バックパック旅行で壊される。

「ボロボロな服を着た裸足の少年が、目を輝かせてクリケットをしていた。そのときの自分は、幸せになるためには◯◯大学に出て、◯◯企業で働いて…、といろんなもので武装しないといけないと思っていた。だけど、なんだそんなものなくたって幸せじゃん、って」。

インドで別府さんが撮影した写真

■留学先でメディア立ち上げ

四角さんとの出会いは、別府さんがインタビューをしたことがきっかけ。別府さんは2年生の前半から、ウェブメディアのインタビュアーとして活動していた。旅を切り口にあらゆる領域の最前線で活躍する人たちに話を聞いて記事を書いていたが、その一環で四角さんに取材を申し込んだ。

このインタビューを機に四角さんと親しくなり、四角さん主宰のクリエイティブチームの学生インターンとなる。大学3年の夏休みから、デンマークへ1年間交換留学生として行ったが、その留学中も連絡を取り合った。

留学して3カ月ほどが過ぎたとき、別府さんは寂しさから日本に帰りたいと四角さんに打ち明けた。常日頃から、「自分の心の声に正直に」という教えを受けてきた四角さんなら背中を押してくれるはずだと思っていた。

だが、四角さんから返ってきた返事は、「俺がめったに言わない言葉を言うね。がんばれ」。「SNSとかすべてのノイズを消して、どんなことでもいいから自分の心に引っかかったことを片っ端からやってみて」とアドバイスを受けた。

そうしてデンマークに留まり、四角さんのアドバイスもあって半年後、別府さんは自身でウェブメディアを立ち上げた。デンマークの教育や社会制度、エネルギーへの考え方、クリエイティブのあり方、ピースな世界の作り方などをテーマにしたインタビューメディア「EPOCH MAKERS」(エポックメーカーズ)だ。

別府さんがデンマーク留学中に立ち上げたEPOCH MAKERS

社会人になった今でも、このメディアはライフワークとして続けている。「四角大輔さんはぼくのプロデューサーでもあるので。お互いプロデュースしあう、そんな関係で」別府さんは楽しそうにそう語った。

■帰国直後に「カバン持ち」

デンマークで撮影した子ども

デンマークから帰国後、四角さんとの関係は一層深まった。帰国したその足で会いに行き、付き人をやることに。可能な限り打ち合わせに参加して議事録を取るなど、その場でやれることをやってみたという。

そして学生のうちに、四角さんのアシスタントプロデューサーに就任した。大学を卒業した今、四角さんの右腕として、全プロジェクトに関わる形で一緒に仕事をしている。

周囲の友人が大手企業に就職していくなかで、一人違う道を選んだが、その表情からは焦りや不安は見えない。むしろ「大きな会社で働くことは友達に任せている。いつか一緒に仕事することはわかっているから。純粋に自分にはできないことをしている友達をリスペクトしてる」という。

一方、自分はというと、学生時代から四角さんを始め、日本や世界の最前線で活躍する様々な人たちと接してきたことで、そんな人たちの自由でクリエイティブな感覚が自分の基準になっていること。そして、利害関係なくフラットに信頼してくれる縁があることで、「すごく極端に言うと、ぼくが死にそうになったら誰か助けてくれるでしょう(笑)。そしたらぼく、その人のためになんでもやりますもん」と言う。

進路の決め方については、「意味や目的ありきで頭でっかちにならないないほうがいいんじゃないかな」と話す。「就活で有利だからという理由でボランティアをしたり、インターンするのではなく、目の前の人を助けたいとか、ワクワクが抑えきれないというピュアな気持ち、そういった自分の直感を信じたほうが自分含め、周りの人たち、ひいては世界もいい方向に動くことのほうが多いように思う。そして、結果的に、意味は後からついてくる。少なくともぼくの人生はいつもそうなので」。

では、どうやって自分の感情に向き合うのか?身体の変化を拠り所にすれば見えてくると言う。感動して涙を流したり、鳥肌が立ったり、頭の後ろがじわっとしたり、腹落ちしたり、手汗や脇汗が出たりするが、それは自分の感情が動いているという証拠。

それを逆手にとって、自分の身体の小さな変化を見逃さず、自分の心の変化に耳をすませばいいとアドバイスする。そして、「人間は環境に依存するので、自分の感情や直感に従って環境を変えていく。そしたらおのずと自分の居場所が見つかるんじゃないかな」と彼は最後に語った。

*このシリーズ「オルタナティブな若者たち」では、大学卒業後、移住や起業、世界一周など、一風変わった進路を選んだ若者を紹介しています。

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