登場人物の動作や情景を言葉で伝える映画の音声ガイド制作者と弱視の天才カメラマンのつながりを描いた『光』が5月27日に全国公開する。同作品は、第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にノミネートされ、日本唯一のパルムドール候補だ。監督を務めた河瀨直美さんに話を聞いた。(聞き手・オルタナS副編集長=池田 真隆)
――視覚障がい者向けの「音声ガイド」から着想を得たとのことですね。
河瀨:前作の『あん』に対して、音声ガイドを作りたいと制作者の方から連絡をもらいました。18歳のころから映画に携わってきましたが、それまで音声ガイドという存在は知りませんでした。
実際に、制作者の方からいただいた原稿を読んだのですが、監督の私よりもこの映画のことを考えてくれていると思いました。この人に会いたいな、この人が主人公の映画を撮りたいなと思いました。
――映画では音声ガイド制作者と弱視の天才カメラマンとの交流を描いていますが、物語はどのように考えましたか。
河瀨:映画というコミュニケーションツールを使って、音声ガイド制作者と映画を観る人のつながりを描きたいと思っていました。私は脚本を書くとき、最初に最後のシーンから手を付けます。最後のシーンがちゃんとあって、あとはそこまで、旅をしながら、つなげていくイメージです。
――最初に最後のシーンを決めるとのことですが、最後のシーンはどのように考えていますか。
河瀨:このラストで観客は納得するかどうかで決めます。
――それは、監督として納得するかどうかという意味でしょうか。
河瀨:いえ、一人のお客さんとして納得するかどうかです。
――今回の作品で伝えたいことは何でしょうか。
河瀨:人は完璧じゃないからこそ、人と人がつながっていくことの大切さを感じてほしいです。映画では、視覚障がい者と音声ガイド制作者という特殊な仕事をしている人を取り上げていますが、人と人はどうつながるのか、実際に観た人が自分自身に置き換えて観れるような・・。
つながっていくためには、反発や誤解が起きます。映画の中では、音声ガイド制作者役の美佐子が、弱視の天才カメラマンの雅哉に向かって、「想像力がない」と言ってしまいますが、それは相手の立場に寄り添えていない証拠。美佐子は、雅哉が感じている目が見えなくなることへの恐怖をその時点で理解していない。相手の立場に立つことは、とても難しいですけどね。
――映画でメッセージを伝えることで、困ったときはどうしていますか。
河瀨:あまり余計な情報を入れ過ぎずに、本当に自分が伝えたいことだけを選ぶようにしています。迷う原因は、誰かと比べたり、自分にはない情報に触れたりすることにあります。
それらを全部いったん排除して、自分の心に問いかければ答えは出てくるはず。ちゃんとここ(胸に手を当て)に答えはあるはず。それが誰かに認められなくても、自分が納得することが大切。そこを意識して伝えていけば、大丈夫だと思います。
――今後、映画で取り扱いたい社会問題は何でしょうか。
河瀨:不妊治療を取り巻く出来事ですかね。結婚はしたくない、恋愛は面倒くさいと思う人が増えています。一方で子どもだけは持ちたい思う人たちもいます。家族の形はどんどん変わっていて、何が答えかは分からないけど、自分が納得する幸せを見つけられる映画にしたいです。
河瀨直美:
1989年大阪写真専門学校(現ビジュアルアーツ専門学校)映画科卒業。1997年劇場映画デビュー作「萌の朱雀(もえのすざく)」で、カンヌ国際映画祭カメラド−ル(新人監督賞)を史上最年少受賞。2007年『殯の森(もがりのもり)』で、審査員特別大賞グランプリを受賞。2009年には、カンヌ国際映画祭に貢献した監督に贈られる「黄金の馬車賞」を受賞。2013年にはコンペティション部門の審査委員を務める。最新作『あん』は国内外で大ヒットを記録、現在DVD、BD発売中。故郷の奈良においては「なら国際映画祭」をオーガナイズしながら次世代の育成にも力を入れている。ツイッター:https://twitter.com/KawaseNAOMI
・映画『光』公式サイトはこちら
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