駐車場を拠点に企業、NPO、個人などをまぜて地域を活性化していく政治起業家がいる。市営駐車場を借り上げ、森をコンセプトにリノベーションし、二拠点生活に関心がある人向けのシェアスペースを展開する。事業の成果を、政策提言につなげる「政治起業家」という生き方を選んだ佐別当(さべっとう)隆志さん(40)に話を聞いた。(オルタナS編集長=池田 真隆)
佐別当さんが事業を行うのは、東京から新幹線で1時間掛からない静岡県熱海市渚町。同町は、熱海駅から徒歩14分の場所に位置する。このほど目の前に海を眺める駐車場を市から借り上げた。車13台分のスペースで、全面に芝生と木を植えて、子どもから大人まで楽しめる憩いの場へとリノベーションする予定だ。
リノベーションした駐車場はシェアスペースとして、都心と渚町で二拠点生活をしたい人向けに提供していく。ドレスコードとなるデザイン審査を通過したトレーラーハウスとキャンピングカーに限り、月4万円程度で長期駐車可能とする。打ち合わせができるように改装した大型バスなども設置予定で、車を利用しない時はシェアサービスを活用し、車を持っていない人向けに貸し出す。車の中をオフィスとして使ってもらい、民泊も行う。
こうした事業を展開するために、佐別当さんはプライベートカンパニーを自身の誕生日である5月24日に立ち上げた。社名は、多様性のある人たちをつなげる交差点をつくりたいという思いから、「mazel(マゼル)」とした。
■「トヨタ×ウーバー」を参考に
「個人でも企業に属さずに働ける時代になった。それに応じて、ITサービスは変化しているのに、昔からある法律の規制を受け生産性が下がる結果になっている」と佐別当さんは指摘する。
個人どうしが保有する遊休資産を貸し合う、シェアリングエコノミー事業では、不特定多数の個人間でのやりとりが行われるため、「個人の特定が難しいこと」や「トラブルが起きた際の責任の所在が不明確」などの理由から政府が慎重な姿勢を見せている。
広がりをみせている民泊やライドシェアなどに関しては、「既存産業を壊してしまうのでは」という声も政府から出ているという。
佐別当さんは、「必ずしも大企業と対立するわけではない」と前置きし、「トヨタ自動車がウーバーと連携したように、シェアリングエコノミー事業者と連携することで、拡大していく道がある」と強調する。
■自宅・会社でも「シェア」
佐別当さんが「シェア」に可能性を見出すようになったきっかけは4年前。都内にある自宅を、Airbnb(エアービーアンドビー)に登録した。「Miraie(ミライエ)」と名付け、ゲストハウスとして貸し出した。今日現在も、一つ屋根の下で、定期的に変わる数人のシェアメイトと家族と暮らしている。アーティストを呼んで、自宅でイベントも開いている。
「海外からの観光客や地域住民が自宅に遊びに来てくれることが自分にとって衝撃的な体験だった。苦労することもあるが、それ以上の価値がある」と話す。
勤務先のソーシャルメディアの運用・構築を行うガイアックスでは、ブランド推進部に所属している。今年、本社を東京・五反田から永田町へ移転したプロジェクトの責任者を務めた。移転先は、地下1階、地上6階建てのビル1棟。空き家となっていたオフィスをリノベーションした。オフィス名を、「GRID(グリッド)」と名付けた。
「企業が単独でオフィスを独占するのは古い」という考えから、シェアに特化した作りにした。ガイアックスの社員が働くフロアは2階のみで、残りのフロアには、シェアオフィスや誰でも使えるフリースペース、カフェなどがあり、建物内の居住者が気軽に交流できるようにした。
毎月、施設の固定費として1400万円ほど掛かるが、シェアオフィスやイベントスペースとして貸し出していることで800万円ほどは回収できているという。将来的には固定費の持ち出し0円で運営していくことを目指す。
さらに、昨年、ガイアックスはシェアリングエコノミーを推進していくための業界団体であるシェアリングエコノミー協会を立ち上げた。佐別当さんは事務局長としても働いている。今年、内閣府からシェアリングエコノミー伝道師にも任命された。
シェアリングエコノミーを推進していくために、政府関係者と検討会議を重ね、来月には、「本人確認」や「サービス利用者の保険加入」などをまとめたシェアリングエコノミー事業者向けの認証制度を開始する。規定を遵守している事業者には、認証マークを付与していく。
佐別当さんはガイアックス、シェアリングエコノミー協会、新会社マゼルと3枚の名刺を持ちながら働く。これらの事業の親和性は高いことから、同社の上田祐司社長からプライベートカンパニーを立ち上げることの許可をもらった。
■駐車場で、音楽フェスも
熱海市の高齢化率は45%を超え、5軒に1軒が空き家という状況だ。少子高齢化の先進地域の一つではあるが、佐別当さんは、「ポテンシャルは、鎌倉にも軽井沢にも負けないものがある」と言い切る
その理由は、昔ながらの街並みや路地裏の商店街が残っていることだという。商店街を歩けば、スマートボールや歴史博物館、さらには文豪の別荘など、一昔前の日本の暮らしに好感を持つ人には好まれるスポットが多く見つかる。新幹線が止まるため、インバウンドも期待できる。
さらに、公園が少ないことで、このシェアスペースが子どもたちにとって貴重な遊び場へとなる。従来の駐車場の概念を破り、「キャッチボールも、バーベキューも、音楽フェスもできるようにしたい」と話す。
この施設のオープンは今夏を予定している。現在、クラウドファンディング「Makuake」で立ち上げ資金100万円を集めている。資金提供者への特典として、宿泊券などがもらえる。
シェア系サービスは個人間が交流するため、そのようなコミュニケーションに慣れない人からの批判は自然と生じるもの。自宅をゲストハウスにしたときは、価値観の違いから衝突し、オフィスをシェアオフィスにしたときも、「社員なのに会議室が使えないのは困る」などの批判を受けてきた。
一方で、さまざまなシェア系サービス事業者との出会いが生まれ、それが今の仕事に生きていることも事実だ。佐別当さんは「信頼できる仲間と進みたい」と力を込める。
・クラウドファンディングで挑戦中の企画「駐車場が公園に?海から1分、熱海にグランピングカーが集う多世代シェア広場をつくる」はこちら
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