鹿児島南埠頭からフェリーで約3時間半、豊かな自然に囲まれた人口約3万5千人の島、種子島。現在この地で、島外から来た一人の挑戦者が種子島初のコミュニティFMの開局を目指し奔走している。武蔵大学メディア社会学科松本ゼミ一同はこのほど、その動きを取材するためこの島に降り立った。(武蔵大学松本ゼミ支局=堀口 日菜乃)

NPO法人ガジュマル種子島理事長 副島龍策(そえじま りゅうさく)氏

取材したのはNPO法人ガジュマル種子島。この団体は2012年に地域密着型コミュニティFMである「FMたねがしま」の開局に向けて設立された。今回は団体を立ち上げた理事長の副島龍策氏に話を伺った。副島氏は東京の芝浦出身。この生まれも育ちも種子島島内ではない彼がどのようにしてNPOの立ち上げに至ったのか。

副島氏が種子島を初めて訪れたのは今から19年前、21歳の頃だ。サーフィンのメッカとしても知られている種子島には毎年多くのサーファーが訪れているが、彼もその中の一人であった。東京から来た彼にとって、「ラジオはあること」が当たり前な媒体であった。そのため、彼は東京では気軽に聞けるラジオ番組が種子島では聞けないことに衝撃を受けたという。

副島氏はプロサーファーとして生きていくことを諦めた後、海外に渡り、そこでラジオが流行や話題を生み出す役割を果たしていることを間近で体感した。ラジオの影響力を知った彼は、友人らと「日本でラジオ番組をやってみたい」と話していたというがこの時はまだ具体的な案はまだ出ていなかった。

日本に帰国後、東北での震災をきっかけに「コミュニティFM」という存在を知った。彼は友人らと種子島で初めてのコミュニティFM開局に向けて動き出した。

コミュニティFMとは各自治体にある超短波(FM)放送局のこと。主に地域情報を流し、番組の製作過程に地域住民を巻き込むこともある。地域振興や福祉、まちづくりに貢献する拠点としても機能する。災害時には被害状況などの情報を発信する。

「地域の人々に話題を提供したい」と副島氏は意気込む。もちろん、島外の人が聞いたときに種子島を好きになってもらえるような、種子島ならではの魅力をアピールすることも忘れない。

島民が気軽に情報を発信、共有できる場にすること、島内で長く広く愛されるコミュニティFMになることが目標であり、目指すべき形だ。

現事務所には様々な機材が置かれている

しかし、ゼロから大きな計画を軌道に乗せることは生半可なことではない。当初は2017年3月に開局予定だったが、その道のりは険しい。

活動を開始してまもなくは話をきちんと聞いてもらえないことも多々あったという。そして今最も苦労していることは資金集めや放送場所をどこにするのかといった問題である。

クラウドファンディングを始めるも、種子島には年配の方が多くクラウドファンディング自体がまだ浸透していない。災害時に備え、放送の本拠点は海から離れた海抜の高い位置にしなければならない。

後々には、西之表市だけでなく種子島全体に向けての放送も視野に入れている。そのため、島民に馴染んでもらえるよう、商店街へのサテライト設置を考えているがなかなかそのための良い空き店舗が見つからない。

空き店舗自体はある程度はあるのだが、店をたたんだ後も空き店舗の奥や2階を住居として使っている人も多い。今後のボランティアスタッフの募集や採用したスタッフの研修などの不安もある。具体的な話を進めるたびに、新たな問題が浮上する。こうした状況の中で現在は、来年夏(2018年夏)の開局予定に変えた。

副島氏は島外からやってきたからこそ、島内の様々な人を巻き込んで、みんなで一緒に作り上げていきたいという思いが強い。その一環として、行政との関わりも重要だ。しかし、そのことが開局が遅れる一つの要因でもある。だが、開局後、よりスムーズに活動していくには必要不可欠なことであるととらえる。

NPO法人ガジュマル種子島はコミュニティFM開局に向けた活動だけでなく、毎年「海の日」に種子島でビーチフラッグ大会の開催も行っている。地元の小学生40人~60人が参加する。

元々プロのサーファーを目指していたこともあり、東北での震災後も必要以上に海を怖がらないで欲しいという思いからこのイベントを開催するに至った。このイベントは昨年で5回目を迎えた。

「テレビのニュースを見ているとポジティブな話はあんまり出てこないですよね」と副島氏は語る。コミュニティFMでは出来るだけポジティブな、明るくなるような話題を届けることをしたいという。

「桜がきれいだねとか、梅雨が明けたねとか。地域の世間話でもいい。特別なことはしなくていい。ありのままを伝え、楽しい番組を作りたい」

出てくる言葉に特別なものは何もない。地域に寄り添うこと、愛されるラジオ局にすることを目標として掲げているからにはそれで充分なのだと感じた。

ゆっくり、しかし確実にその日は近づいている。試験的な放送を行ったり、行政との連携を図ったり、地域への宣伝も余念がない。まだまだ道半ばではあるが、地域に根付くコミュニティFMとはなんたるかを見ることができた。これから開局に向けて、そして開局後のFMたねがしま及びNPO法人ガジュマル種子島に注目していきたい。

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