種子島の玄関口、西之表市では毎年秋に芸術祭を開催している。高齢化が進み、観光客が最盛期と比べると半減するなか、商店街に若者を呼び込もうと始まった。地元住民とアーティストの共同作品がまちを盛り上げる。(武蔵大学松本ゼミ支局=井島 由佳・武蔵大学社会学部メディア社会学科2年)

まちづくり委員会 くろしおの芸術祭実行委員長の平川浩さん

「そういう要望には何でも来い、という状況で軽く受けました」―。今回お話を伺った一人、まちづくり委員会くろしおの芸術祭実行委員長の平川浩さんはそう話す。平川さんが言う要望とは、くろしおの芸術祭がスタートするきっかけとなる「時の芸術祭」を開催してくれないかという依頼について。

「時の芸術祭」は2009年の皆既日食に合わせて西之表市が鹿児島市と共同で開催するイベント。これをきっかけに定期的にアートイベントを開催し、商店街を観光地にして、人を呼び込もうという企画がくろしおアートプロジェクトだ。

当時青年部長を務めていた平川さんは高齢化が進む商店街に危機感を抱いていた。かつて100人はいた子供たちも今では十数名にまで減少している。

種子島島内に小中高校まではあるが、大学・専門学校はない。高校卒業後、進学を希望する若者は島を出ていかなければいけない現状がある。

そうして一度島を出た若者が再び島に戻ってくることは少ない。高速船などの交通の整備に加え、屋久島の世界遺産登録で、最盛期には年間30万人は訪れていた。しかし、現在は15万人にまで落ち込んでいる。プロジェクトにより商店街が観光地の一つとなり、写真を撮ることを目的とした人が集まるようになればいいと語る。

たくさんの人が描いた魚の絵でできたまぐろが壁面を彩る

プロジェクトの始まりである「時の芸術祭」は鹿児島のNPO団体ギフトの主導で行われた。「明後日朝顔プロジェクト」の一環で種の形を模した船を海上で皆既日食のように重ねるパフォーマンス。

空き店舗や既存店舗に作品を展示する企画には二十数名の若手アーティストが参加した。作品を制作するためにこの地に滞在中のアーティストと、商店街の現状について意見交換した。これがきっかけで、継続的なアートプロジェクトがスタートしたのだ。

2010年2月の「流木編」では種子島に流れ着いた大量の流木を使って商店街の空き地に流木動物園を作った。市内の幼稚園・保育園で流木を使ったメダルづくりや、流木スポーツ大会も開催した。

7月には「アエールボックスアート編」として、鹿児島でアンテナショップを開き、特産品とともにプロジェクトに参加したアーティストの作品を展示し、種子島をPRした。

12月には子ども向けの企画として、「WithKids編」が行われ、パラパラ漫画や行灯づくりが催された。その後、くろしおの芸術祭と名を改めて毎年秋に開催するようになる。

アーティストと住民が一緒に板に魚の絵を描き、商店街へ人が流れていくようにと、その作品を壁面に配置した。癒しをテーマに住民がデザインしたアートベンチも作られた。昨年は店の歴史にスポットを当てる壁ギャラリーが設置された。

くろしおの芸術祭はプロジェクトのコーディネーターの田村薫さんを懸け橋に、韓国釜山のアートプロデューサー、ジン・ヨンソブ氏を筆頭とする様々なアーティストを招いて開催される。通訳が入るまでは言葉の壁がある中で、手探りで意思疎通を図った。平川さんは「お金よりもここのコミュニケーションが好きだって言ってくれている」、そう嬉しそうに話した。

このプロジェクトを進めてきたことで、まちづくりに多くの人が関わるようになり、描く魚の数は300枚、500枚、100枚と年々増加し、今では壁面に貼るスペースも限られている。

くろしおの芸術祭への参加者は、毎年増えている。その8割を島民が占める。手広く事業を拡げてしまえば、何をしているのかわからなくなる。まずは商店街に焦点を当てて取り組んでいるのだ。魚を描くことで街に興味を持ち、自分の作品が街のPRに役立っているという自覚が誇りになると思う、まちづくり委員会員である竹下秀樹さんは語った。

商店街振興協同組合の理事も兼任されているまちづくり委員会員竹下秀樹さん

順調に継続・発展してきているように見えるアートプロジェクトだが、直面する課題も少なくない。商店街の人口減少により、運営陣は一人で何役も役職を掛け持ちしなくてはいけない。

当たり前だが役員にも仕事がある。仕事をしながら時間を削って取り組んでいるのだ。運営予算は市や県から出る補助金を頼りにしていたが、今年からは補助金をもらえなくなった。

さらに、PRやより多くのアーティストたちを受け入れるための街の受け皿が小さいといったことが課題となっている。

課題はあるが、芸術祭の成果もある。作品制作だけでなく、運営陣の補助の希望者が現れた。作ったベンチでお年寄りが会話に花を咲かせている。訪れた観光客からの反響もあった。このアートプロジェクトは、人が集まる商店街、商店街を観光地にするという目標に確実に近づいている気がする。

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