少子高齢化や中心市街地の空洞化が他の地域よりも顕著に表れる離島。そこで島民と共に課題に向き合う「地域おこし協力隊」を取材した。彼/彼女らが地域に果たす役割を学び、これからの地域のありかたを考えた。(武蔵大学松本ゼミ支局=市川 仁菜・武蔵大学社会学部メディア社会学科3年)

国上にある浦田海水浴場で話す髙井和道さん

自然豊かで農村風景が見られる一方、実用衛星打ち上げ基地があることから宇宙科学の最先端の島として知られる種子島。私たちは、種子島の北部に位置し、多くの出先機関が置かれ、島の政治・経済の中心を担う西之表市を訪れた。その西之表市で活動する「地域おこし協力隊」を取材した。

西之表市では2010年から協力隊を受け入れ、現在は12人の隊員が市内の校区にひとりずつ配属され3年という任期で様々な活動に取り組んでいる。具体的なミッションというものはなく、隊員が自身の経験やスキルを生かし自主的に地域課題に取り組むスタイルである。

西之表市北部の国上校区を担当する髙井和道さんは、長野県出身で元新聞記者である。地方の地域おこしについて取材した経験から、自分自身が地域で貢献したいと思うようになり、地域おこし協力隊に応募したという。

種子島に訪れた人は西之表港から宇宙センターを目指し、南へと流れてしまう。北部にも観光客が足を運んでほしいという島民の思いから「北部観光」を掲げ、西之表市北部の見どころを記者の経験を生かし写真や動画で地域の魅力をSNSで発信している。区の行事を撮影しプロジェクターで放映するなどもしている。

「SNSでは画像や動画を見てくれた人から反応があり、それをシェアしてくれるが、まだまだPR不足なのが課題。これから地域おこし協力隊のHPなどでもっと魅力を発信できたらいいですね」と髙井さんは語る。

小原宙子さんは種子島の東海岸沿いに位置する立山校区を担当する。小原さんの活動は、校区の役員や農家の事務的なサポートから地域の高齢者を支えるサロン活動、郷土芸能である「おつや口説き」の保存活動などもしている。

「地域おこし協力隊は市役所に籍を置いてあるため、教育委員会や社会支援課、経済観光課に何かサポートしてもらいたいときに市役所がまとめてくれる。市役所は各所に連携をとってくれる窓口のような機能をもつ」と話す。協力隊は、市役所の機能を生かし連携して地域活動を行う。

その一環として、昨年、教育委員会とともに、子どもたちを集め、島の郷土遊びを通じて島の自然や文化を学ぶ「ふるさとまなび~隊」という活動を行った。「島のこどもたちは高校までは島にいるが、その先は島から出ていってしまう。だから、島のおじいちゃんやおばあちゃんと交流しながら、自然や文化に触れた体験を島外に出たときに伝えられる種子島の代表になってほしい」と話す。

現在行っている活動から、未来のビジョンを見据える協力隊員もいる。住吉校区担当の青山光徳さんは社会性のあるマーケティングのキャリアを生かし、都市部から人材を呼ぶ事業を開発する試みをしている。

地域でビジネスを立ち上げたい人や離島で移住を希望する人を対象に都市部でセミナーを開催したいと話す。このセミナーでは、種子島の事業者や行政機関関係者、島外から人材を採用したい企業を集める。セミナー受講者に短期インターンとして、種子島を訪れてもらい、島内の課題を見つけ、自分でその課題を解決するビジネスをプランニングする。青山さんは「種子島をモデルとして都市部から人を呼ぶビジネスの組み立てをほかの離島でもやっていきたい」と話す。

担当校区の活動を話す小原さん(左手前)、私たち武蔵大学社会学部松本ゼミが掲げる今年度のテーマ「離島プロジェクト」の一環で、取材をした

市の担当者の田中利宗さんを含め7人の協力隊員の方とディスカッション方式で地域活動について話をしてもらったが、市と協力隊は連携をして島の課題に向き合っていた。西之表市の協力隊は自身のキャリアから得たスキルと地域課題をマッチングさせ地域の特徴を生かした活動を継続したり、新たなプロジェクトを起こしていたりしている。

しかし、地域おこし協力隊として島外からきた協力隊と島民との意識のギャップはあるという。種子島は農業や漁業の第一次産業が盛んであり食料には困らない、一年を通して温暖で住みやすく、地域の行事が多く島民のつながりは強いため、島民は少子高齢化や人口減少についてもあまり意識は高くない。

何か改革をしなくとも現状維持でいいというが、人口減少の推移を見ていくとやはり課題として取り組まないといけない。「いまは生きていけるとしても、自分の子の世代、孫の世代に島はどうなっていくのかと問うと、島民は自分のこととして考えてくれる」。島の未来を島民と食事の場やPTA会の場で話すとやはり島民もいろいろな思いや考えをもっているそうだ。

島には島ならではの課題があり、校区ごとでも異なる課題があり、生活する一人ひとりにペースがある。そのため一から島民の意識改革を行うつもりはなく、むしろ、協力隊は長いスパンで見て島民のペースに合わせ、島民のコミュニティに入り込んで何かを始めていけばいいという。

協力隊は、島民と交流しながら島のスタイルをベースに活動していくプロセスそのものを大切に地域課題にコミットしていた。校区での「個」の課題に取り組みながら、地域で新たなつながりや価値を生み出し、それ自体を島民と共有していく。

自分から地域に関わり、地域の人と交流して自分の個性を生かしながら自由に地域づくりができる協力隊の役割の重要性をわたしたちは改めて認識し、自分の住む地域と照らし合わせ地域のありかたを考えていかなければならない。

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