本を自分で読むことが難しい人たちのために、情報を音声にして提供する音訳者のグループ「全国音訳ボランティアネットワーク(以下音ボラネット)」は6月4―5日の2日間にわたり都内で10周年記念総会を開催し、各地から250人近い関係者が集まった。同団体は、伊藤忠記念財団が読みに困難がある子どもたちを対象に製作している電子図書にも音源を提供している。(オルタナS編集長=池田 真隆)
音訳は、読み手が感情を込めて表現する「朗読」とは違い、文字の他に図や写真などを含めて正確に音声化することが求められ、「障害者の目の代わり」として重要な役割を持つ。1950年代に始まった本の音声化は、主に各地のボランティアによって進められてきた。
しかし、団体間の横のつながりが欠けており、同じ本を複数の団体で音声化するなど様々な課題もあった。そこで音訳者が情報を共有することによって、より質が高く幅の広いサービスを提供することを目指し、2007年6月に全国の音訳ボランティアが集まり音ボラネットを設立した。
現在では北海道から沖縄まで220人の個人会員と189団体が所属する組織となった。会員が分担し、月刊誌の全文音訳や日本・世界の名著の音訳化に加え、個人からの依頼に対し、テキストデータを提供している。
大学受験のための参考書や医学などの専門書を音訳してほしいという個人からの依頼にも応えている。専門書は用語が難解なことも多く下調べに時間がかかるために、敬遠されることがあるという。「私たちが断ったら、その人は読書を諦めなければならない」、音ボラネットの藤田晶子代表は全国の仲間に呼びかけ、一人ひとりの「目の代わり」を着実に努めている。
音ボラネットは、伊藤忠記念財団が製作した電子図書「わいわい文庫」にも2010年から協力している。これまでに同財団が製作した348作品の内、「11ぴきのねこ」「注文の多い料理店」「魔女の宅急便」など絵本や児童書160作品の音訳を行った。
藤田代表は、「長い作品は10時間を超える場合もあるが、わいわい文庫の場合、途中で声が変わってしまうと子どもたちが違和感を持ってしまうため、一人で一冊を担当している」また、「子どもたちに物語を楽しんでもらうためには、句読点など正確に読み上げるだけではたどたどしくなってしまうこともある。一定の感情を入れることも必要であり、大人向けの作品より難しい点も多い」と話す。
伊藤忠記念財団電子図書普及事業部の矢部剛部長は「これから言葉を覚える子どもたちへ提供する音声は、より正確で温かみのある肉声がふさわしいと考えている。利用者からのアンケートからも、文字の拡大や文字と地の白黒反転以上に、肉声による音訳が障害のある子どもたちの読書支援に効果が高いという回答を得ている」という。
「全ての人たちへ読書を届けるためには、これからも音訳者の力が必要。音訳は手話や点字と違い、定型や資格認定制度がある訳ではなく個人が技術を高めていく努力にかかっている。高齢化が進んでいる音訳団体も多く、読み手を見つけ育てていくことが今後の課題」と藤田代表は締めくくった。
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