タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆電園復興スタート

「社長~、トシちゃん」啓介は丘の上の末広に向って叫んだ。
ブカブカのオーバーオールデニムに茶色のヨレヨレのウインドブレーカーを着た大きな末広とグリーンの農業用つなぎの敏夫が手を振った。不毛の農地にパイプが打ちこまれていて、一部にはもうソーラーパネルが載っていた。ソーラーパネルの北側は赤松の防風林で、その後ろはまだ雪を頂く権現岳が白くそびえていた。真昼の陽光が山ひだに陰影をつけそびえていた。

歩みを進ませると、雑木林の笹薮で、グリニッシュとイースターが笹を食い千切りながら食っていた。あっ、バースデーが駈けてくる。三角形の小さな耳が後ろにピタリと寝ている。嬉しいのだ。バースデーが跳びついてきた。ジーンズのパンツと赤のチェックのネルのシャツが泥だらけになった。いいんだ。俺は田舎の百姓だ。泥だらけの何が悪い。バースデーの顔を両手で挟んで左右に振った。「Good girl! Good girl」

いい子だ、いい子だ。挨拶がすむとバースデーが先に立って丘を登る。何回か振り向いては、早く、早く、と言う様に尻尾を振る。すると山の上の方から軽トラックが揺れながら下ってきた。リズがランチを持ってきたのだ。

敏夫もすこし下って来て啓介の方を抱いた。二人が末広の所にやってくると、リズが啓介を抱きかかえ頬にキスをした。大災害の後の沈みきった日本にも、確実に初夏は巡って来たのだった。四人はソーラーパネルがまばらに載ったシロツメクサの畦道に座って、食パンに厚いチーズが挟まれただけのサンドウィッチを頬ばった。リズがバースデーにチーズを一枚やった。コーヒーがポットから茶碗に注がれると、敏夫が立ち上がって雑木林の中に入って木の葉を千切ってきた。「あおいもんも欲しいじゃあ」コシアブラの葉だった。敏夫に配られた葉っぱをチーズサンドで包むと、少しましに見えた。
そして少しうまくなった。

末広が口を開いた。「電力会社に連系の申し込みをしておいたから、再来週には電線が繫がるだろう。それまで214枚のパネルを架台に載せるんだ。パネルは一枚250ワットだから、全部で53.5キロワットになる。一キロワット40円で電力会社が買ってくれるから、月に30万円位の売り上げになる」

「年260万円にもなるんですか」
「こんなやつを100基作ったら2億千万円になりますね」
「作る金があればね」
敏夫が笑った。
「じゃあこれが完成したら仕事は終わりですか?」啓介が聞いた。

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