タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆農地法

「日本に帰ってからも電気柵を売ったんだ。あんたも見ているだろ。補助金を出す方だから。畑にソーラーパネルが設置されてるじゃないか。あれも違反かい」
「うーん」田山が唸った。「でも前例がないからだめです」
「前例は電気柵であるじゃないか」
「大きさが違うじゃ」田山は精一杯の反論を試みた。そして敏夫に向って「帰って相談するけど一但撤去はしなきゃいけんよ」と言って振り切るように背を向けて車に乗り込み帰って行った。

「どうしますか?」啓介が末広に聞いた。
仕事は続けよう。違法な事など何もやっていないんだから」
「でも青地にソーラーパネルを置いてはいけないんでしょう」啓介が言った。
「置いてはいない」末広が言った。
「でも空中に浮かんでいるとはいっても柱は有るじゃないですか」
「ではビニールハウスは農地に建ててはいけないか?」
「いけなくないです」敏夫が言った。
啓介がリズに英語で伝えるとリズが大きく頷いた。
「なんでいいのかね?」末広が敏夫を試すように尋ねた。
「農業施設だからじゃないですか」
「ソーラーパネルは農業施設ではないのかい」
「農業用ではないから違います」
「俺たちは畑でハーブとかキノコを作るんだぜ。ミントや椎茸は太陽光が直接当たっちゃなんねえんだ。それに冬になれば周りにビニールを巡らせてビニールハウスにするんだぜ」
「ほういうことだったら、田山さんに言ったらよかったじゃないですか」敏夫が言うと「地元に任せろっていったのはだれでえ」と末広が言った。「おれもいま思いついたんだけどな」

「それなら田山さんを追いかけて説明してきます」敏夫が軽トラの方に歩き出すと啓介が追ってきた。「俺も行く」
二人は山道を軽トラで下った。
「これ面白いよ」啓介が運転する敏夫に話しかけた。「面白い」敏夫もそれに答えた。
啓介が続けた「敏ちゃん。俺、朝から晩まで保険を売って来たけど、気が進まない時の方が多かったんだ。だけど今度はなんか」と言って息を吸い込んだ。「なんか平成エネルギー維新みたいな気がして来たよ」
「高杉晋作と坂本竜馬かね俺っち」敏夫が言った「田山さんは勝海舟?」
「親父は西郷隆盛」
「見てくれだけはな」
喋るうちに役所に着いた。役所の駐車場に入ると、ちょうど車から降りた田山の小さな背中が見えた。車の気配を感じて田山が振り返った。二人に気が付き言った。「規則は規則だから守ってもらわんと」眉間に縦皺を寄せているが、表情は先ほどより穏やかだ。「話を聞いてください。少しでいいから」敏夫が言うと、付いて来いと言う様に田山が歩き出した。追うように二人が続く。田山が役場の正門を入って左に曲がり、三人は薄暗い廊下を歩いて殺風景な会議室に入った。田山はパイプで出来た折りたたみ式の椅子を敏夫と啓介にすすめ、自分も折りたたみ机の向かい側に座った。
「よろしくお願いします。なにも分からんで」
敏夫が頭を下げると、田山は腕を組んでグレーの天井を見上げてから口を開いた。
「前例もないし、よく分からんだよ」
敏夫が言った。「単管パイプでビニールハウスを作るです。それはいいですね」
「農業施設ならいいね」
「その上にソーラーパネルを載せるです。それもいいですね」
「いいってこんだな」
「だからそれをやるです」
「しかし前例がないってこんだ」
「前例もなにも農転の案件ではないです」
「農転の案件かどうか、県にもきいてみるだ」
「それまで工事は止めてほしいだよ」

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