障がい者が働いて得る1カ月の平均工賃は15,033円。時給に換算すると193円です。大企業による障がい者の義務雇用が増える中で、その7割近くは身体障がい者であり、知的障がい者や精神障がい者の雇用は依然として低く、厳しい実態があります。

「知的障がい者の所得を増やし、親も子も互いの尊厳を守れる作業所を作りたい」。そんな思いを胸に一人の父親が立ち上がり、知的障がいのある人たちが働ける胡蝶蘭栽培の作業所を今年8月にオープンしました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

■「親目線」の作業所

知的障がい者の人権を守る活動をしているNPO法人Alon Alon(アロンアロン)代表理事を務める那部智史(なべ・さとし)さん(48)。活動の中でも特に力を入れているのが、知的障がい者の所得向上です。

Alon Alon代表理事の那部智史さん。自身にも知的障がいを持つ息子がいる

那部さん自身、重度の知的障がいを持つ息子がいます。親として、子どもの所得をどう守れば良いのか。息子の将来を思いながら、様々な福祉作業所を見て回ったといいます。

「いろんな作業所を見て回ったけれど、どこもお金が回っていないのが現状。最初は毎週のように遊びにきていた親御さんたちも、予算が切り詰められた場所で安い賃金で働く我が子を見て、いたたまれなくなってしまい、次第に足が遠のいてしまうような状況がある」と指摘します。

那部さんが中心となってオープンした就労継続支援B型事業所「Alon Alonオーキッドガーデン」

それでも、子どもは親に会いたくて「会いに来るって連絡はなかった?」と、作業所の職員に毎日のように尋ねます。その話を聞いた時、那部さんは涙が出たといいます。

「親が親として、子が子として、それぞれの尊厳を守れるような施設を作りたい」と、2017年8月、千葉県富津市に、胡蝶蘭栽培で知的障がい者の月額工賃10万円を目指す就労継続支援B型事業所「Alon Alonオーキッドガーデン」をオープンしました。

■社長業の経験から、胡蝶蘭栽培に着目

息子が知的障がいを持って生まれてきた時、「このまま家族全体が不幸になる」という思いにとらわれたという那部さん。不幸から抜け出したい、とにかくお金を稼ごうとサラリーマンを辞め、ベンチャー企業を立ち上げました。

やがて仕事は軌道に乗り、2、3年後には5社ほどの子会社を持ち、社員100人を抱えるまでに成長。社長をしていた那部さんは、取引先の企業から慶弔で胡蝶蘭を贈られる機会が多くあったことから、商売としての胡蝶蘭栽培に着目したといいます。

「贈られたら、祝い事があった際にはこちらからも胡蝶蘭を贈り返す。ダブルでおいしい商売だなとは思っていて、これを息子の仕事にできたら…と思った」と当時を振り返ります。

その後、会社をすべて売り渡し、その資金をもとに不動産投資業を開始。会社を経営していた頃から付き合いのある銀行や取引先の人たちの応援も受けながら、多額の設備投資をして「Alon Alonオーキッドガーデン」を建設しました。

Alon Alonが販売する胡蝶蘭(ハイグレードタイプ)3本立。価格は3万円(税別)

「お金で幸せになれるわけではないけれど、お金で不幸になることはある。健常者が支配している世の中で、喜ばれる花を栽培して高く売るのは、健常者の立派な仕事。1,000億円市場といわれる日本の花マーケットで、そのうちの3割、300億円を障がい者が担えるようになれば、新しい未来が拓けていくのではないか」と思いを語ります。

■最新の技術と細分化した手作業で品質を管理

「Alon Alonオーキッドガーデン」には、最新のクラウドコンピューティングシステムが搭載されており、温度や湿度、光の量など、胡蝶蘭栽培に必要な環境をAI(人工知能)で徹底的に管理。人間の経験や勘に頼らずとも高品質な胡蝶蘭を栽培することが可能だといいます。

最新のシステムを取り入れた温室は、遠隔からの操作はもちろん、一度プログラムしてしまえば自動での制御が可能だ

機械では行えない剪定や花芽を摘む作業など、人手がかかる作業は細かく細分化され、知的障がい者の人たちが役割分担をしながら行います。

「役目を細分化し、働く人たちの適正や希望を見極めながら一人ひとりのミッションを決めていく。苗の状態から出荷までには約半年かかるが、一つの胡蝶蘭が完成するまでにはたくさんの人の手がかかっている」と那部さん。

鉢上げされた花の向きやバランスを調整して胡蝶蘭を仕立てているところ

「Alon Alonオーキッドガーデン」は来月11月から本格的に稼働し、20名の作業員たちと共に胡蝶蘭の栽培・出荷の作業が始まります。

「まずはしっかりとケアを行いながら余裕を持った運営をしていきたい。目標だった月額10万円のお給料もしっかり保証していきたい」と那部さんは話します。

■知的障がい者の所得向上を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、Alon Alonと1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

集まったチャリティーは「Alon Alonオーキッドガーデン」で栽培する胡蝶蘭の苗の購入資金として使われます。ここで働く知的障がい者の人たちの雇用を安定させ、月額10万円の工賃を約束するために年間2万株の苗が必要ですが、まだまだその株が足りていません。今回のチャリティーで、必要な株のうち200株分の購入資金・20万円を集めることを目標にしています。

「JAMMIN×Alon Alon」1週間限定のチャリティーデザイン(ベーシックTシャツのカラーは全8色。他にスウェットやパーカー、7分袖Tシャツ(レディースのみ)などあり)

JAMMINがデザインしたTシャツには「Alon Alonオーキッドガーデン」の管理棟であるガレージと、このガレージ前にある木が描かれています。建設当初、図面上は切り倒される予定だったこの木は、スタッフ満場一致の意見で残されることになりました。現在は「除くのではなく巻き込んで、みんなが主役になれる社会を」というAlon Alonの思いを表すシンボルツリーとなっています。

Tシャツ1枚につき700円が、Alon Alonへチャリティーされます。販売期間は10月23日〜10月29日までの1週間。JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、那部さんの活動への思いや、胡蝶蘭栽培についてより詳しいインタビューを掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

胡蝶蘭栽培を通じて、知的障がい者の所得倍増を目指す〜NPO法人Alon Alon

山本 めぐみ(JAMMIN):
京都発チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」専属ライター。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。

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