タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう
なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)
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◆沈まぬ太陽
皆もそれに頷いた、小室もいつの間にか左側に寄ってくると末広に向って「そやなあ。そやなあ」とうなずいた。しばらくすると放送が流れて、ベルトを締めるときになると約20人は全て左側の窓際に一列に座っていた。機はエンジン音を低め、下降して島のように点在するいくつもの緑の塊を舐めるように滑空して、滑走路の端で車輪を少し弾ませて再び僅かに浮き上がり、ドスンと着陸した。
ナイロビのビル群が狭く小高く見えると機は逆噴射の音を轟かせ、一回沈むようにして止まった。「小室さん着陸しましたよ」
「知ってるわい」
「怖かったですか」
「ああ、わし飛行機は苦手なんや。そうかてなもう着いたんやからこっちの物や。暴れまわるぞ」
所長が手荷物を下げて先に立ち、技師たちが正装して後に続いた。小室は風呂敷包みを抱え、末広が最後を歩いた、タラップが付けられ出口が開くと、彼らは一列になって階段を降りた。アフリカの大地は赤かった。
強い太陽が前を歩く人々の背を照らし、花の香りと汗のにおいが漂っていた。小さな飛行場の金網には無数の顔が張り付いてその全てがこちらも見ていた。
小室が振り向いた、ノックアウト寸前にボクサーがセコンドを見るあの頼りない目だった。そして末広も所長を眼で追った。所長は慣れた足取りで税関のゲートに近づいて行き、ゲートの外の顔に手を振った。
その先には日本人らしい日に焼けた笑顔があった。所長は素早くケニアの紙幣をパスポートに挟んで、入国審査ゲートに向い後に続く4人を指差し審査官にそのパスポートを手渡した。審査官は所長のパスポートを開くとにやりと笑ってから紙幣を素早く抜き取り、顎をしゃくって通れという素振りをした。二人の技師も末広も小室にも同じしぐさをした。入国審査が終わると旅行者の荷物が次々にベルトコンベアで運ばれて出てきた。約20人分の荷物だから50個もなかった。
末広の荷物は手荷物以外には二つでその一つは余り大きくないボストンバッグだったが、それは出てこなかった。末広がいつまでも空になったベルトコンベアーを眺めているので、所長が言った。
「出てこない荷物があるの?」
「あります」
「何が入っているの、着替えとか歯ブラシとか」
「諦めなさい。ナイロビでも買えるから」
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