精神障がい者を積極的に雇用して、社会進出のキッカケとなるレストランが東京中野区にある。コミュニティレストランキッチンそらである。

店主である中川弥生子さんに、なぜ起業しようと思ったのか、起業してうれしかったこと、精神障がい者と協働するとはどのようなことなのか、お話を伺った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q.起業しようと思ったキッカケは何ですか?

中川「始まりは乙武洋匡さんの五体不満足を読んだことです。本を読み終わって誰かのために自分もありたいと思いました。ちょうどその時身近にあった問題として高齢者の方の家事援助の需要がありました。さっそくボランティアとして認知症の方の介護を始めました。そうしてボランティアをしばらく続けたあと、ヘルパーの資格を取って民間で働くようになりました。精神障がい者ヘルパーの資格を取り終えたあと、初めて精神障がい者の方の在宅へ派遣されました。みなさん症状は重く、家事援助が必要で一人では外出できない方が多かったです。しかし、精神障がい者の方とお話しすると多くの方が『働きたい。誰かのために自分も働いてみたい』と言っていました。このような想いを何とか実現できないかと思ったのが起業しようとしたキッカケです。」


社会には企業が障がい者を雇って障がい者雇用率を達成しないといけない障がい者雇用促進法という法律が存在する。しかし、以前は身体障がい者と知的障がい者だけが算定人数として数えられていて、精神障がい者をいくら雇っても人数にカウントされていなかった。しかし、平成18年からこの法律が改正されて今では徐々に精神障がい者の雇用状況も増加している傾向にある。


Q.キッチンそらの特徴は何でしょうか?

中川「基本的に全てのことを精神障がい者の方と話しあって決める点です。精神障がい者の方は長時間労働が苦手です。ですから、労働時間を短くしたり、また働く内容もその人にあった範囲でお願いしています。トップダウン式ではなくて、フラットな関係でみんなで話し合いながら決めることを大切にしています。いかにして障がい者の方がここで働きたいという思いを継続させるようにできるか工夫することが今の私の仕事です。」


キッチンそらではメニューが1週間ごとに変わる。仕事の工程も変わってくるのでやはりそれは障がい者の方にとってかなりの負担になる。しかし、それでも彼らは懸命に努力をする姿勢は崩さない。それは中川さんも心配するほどの頑張りようである。ここで働けていることで誰かのためになっているということを実感するたびに彼らの仕事に対する想いは熱くなるばかりである。


Q.レストランで働いていてうれしい瞬間はどのようなときですか?

中川「全国からの励ましのお電話をいただいたときはうれしかったです。やはり精神障がい者の雇用率が増加しているといっても、多くの方が作業場で働いています。作業所の雇用環境はなかなか厳しいものがあります。事前に決められている機械的な作業を毎日こなし、その労働時間に見合わない賃金しかもらえません。一般雇用と同等に精神障がい者を雇用している企業は少ないです。それでもこのキッチンそらで私が頑張り続けている限り、精神障がい者の方が自分でも働けるのだという自信を持って、社会進出へのステップとして成長していくことを応援できます。彼らと協働できていることが私のやりがいでもありますし、うれしさでもあります。」


精神障がい者を雇用している企業に国から奨励金として支払われる制度がある。しかし、まだこのキッチンそらではその奨励金の申請はしていない。もちろん、奨励金無しでは経営面での負担はあるが、それでも中川さんは雇用賃金を低くすることはしていない。どんなに経営が苦しくても何とかして彼らの労働に見合う賃金を払うと決めているのだ。精神障がい者の一般雇用が増えれば彼らにも自信はついてくる、そう信じて中川さんは雇用し続けるのである。


Q.これから社会に出る若者がどう障がいがある方と向き合っていくべきだと思いますか?

中川「障がい者の方への理解を深めてほしいと思います。障がい者を健常者と区別し過ぎな気がします。そもそも健常者と障がい者は何の違いもありません。健常者だって明日突然障がいを持つ可能性があるのです。だからこそ、障がい者のことを知ってほしいです。偏見は知らないから生まれてくるのです。精神障がい者=危険人物と考えるのではなく、彼らを理解してほしいです。彼らの真っ直ぐな思いやりに触れてほしいです。」

キッチンそら店主の中川弥生子さん


















取材を終えて・・

コミュニティレストランキッチンそら、ここはまさにパワースポットのような場所である。

そのパワーはこのレストランの天井から出ているのかもしれない。ここの天上は色が変わる。

青空だったり、夕空だったり、そして幻想的な空になったりもする。

そして、そのパワーに引き寄せられてあったかい人々が集まってくる。中川さんがこのレストランを開業するために学んだ社会起業大学の面々もそうである。中川さんを応援しようと足繁く通う。そして、中川さんは彼らに満面の笑みとサービスで感謝を伝える。しかし、もっとうれしく感じているのは中川さんよりも彼らの方ではないだろうか。

来る人が自然と温かな気分になれる場所。
それは奇麗な空の下、笑顔が生まれる素敵な空間であるゆえんに違いない。


コミュニティレストラン キッチンそら

社会起業大学


オルタナS 特派員 池田真隆