美魔女を筆頭にアラフォー女性に勢いがある一方で、同世代の中年男性に目を向けると何だか元気がない。しかし40代は組織で管理職を担う人も多く、この世代の男性が今の日本経済を支えていると言っても過言ではないのだ。そんな彼ら、特に日本企業の99%を占める中小企業で働く中年男性を応援したいと、これまでにない斬新な手法でセミナーを展開するプロデューサーが大阪にいる。ブランディングの専門家であるエサキヨシノリ氏(45歳)に、「中小企業系オヤジを唄で応援するPassion Lives Here Band 」のライブセミナーについて、話を聞いた。(オルタナS関西支局特派員=土井未央)

ハンチング帽がトレードマークのエサキ氏

■情熱ブランディングプロデューサーとして

Passion Lives Here Bandは、中小企業とオヤジ、そして情熱をテーマに生演奏を聴かせるライブ活動を行っている。ボーカルのエサキ氏を筆頭に、ギター、ベース、ドラム、ウクレレなどで構成され、デザイナーや行政職員など、日頃から中小企業支援に携わる社会人がメンバーのアマチュアバンドだ。

ただし、バンド活動はあくまでも生演奏を取り入れたセミナーなのだと言い切るエサキ氏。日本と外資系2つの広告代理店勤務で約10年間培ったプロデュース力を、大阪の中小企業支援に活かそうと2004年に独立した同氏は、日頃から情熱ブランディングプロデューサーと自ら名乗り、日夜企業ブランディングやコンサルティングに奔走している。また、営業力やコンセプト作りなど、具体的なノウハウを理路整然且つ熱く語るスタイルが評判の、人気セミナー講師でもある。

「ほとんどが中小企業経営者やクリエイターなど個人事業主を対象とし、ブランド力やモチベーション向上がテーマです。大阪には優れた技術を持つ中小企業が無数にあり、東京に次いで独立クリエイターの数も多い。でも不器用な人も多いんです。そんな彼らにも胸の内には必ず誇りや情熱があるはずで、ブランディングを通して自分の価値を認識し、それを自らの言葉で伝えることが大事だと説いています」

そんなある日、ある中小企業の経営者から投げ掛けられた問いかけが転機となる。

■自信を失う、同世代のオヤジたち

大阪の中小企業やクリエイター支援施設で定期的にセミナー講師を務めている

「『情熱がないんやけど、どうしたらええねん』と言われました。情熱なくして、経営なんかできる訳ないのに。考えてみると、余裕がなくて内なる熱を感じられなくなっているのだと気付きました。特に40代は、かつての高度経済成長期を生きた親世代のように右肩上がりにはいかず、自信を失っている後継者も目立ちます」

そんな人たちに、情熱やブランディングをいくら語っても響かない。悩んだあげく、エサキ氏は右脳と五感に働きかける音楽という手法に行き着く。2009年12月、ライブセミナーを通して中小企業系オヤジを応援する『Passion Lives Here Band 』の誕生だ。

「1曲1曲がセミナーのレジュメだと位置付け、曲作りに励みました。かつて学生時代に友人とバンドを組んだり、詩を書いたりしていた程度の素人芸。やってみると自分が作っているというより、これまで出会った多くの中小企業経営者の思いを詞に書き起こしているような感覚でしたね。曲が完成すると、通常のセミナー同様にプロジェクターで歌詞を読めるスライドも作り込みました」

ものづくり企業経営者の不器用さを歌った「ファクトリーマン・ブルース」。身だしなみやトークなど社長ブランディングを説いた「モテろ!社長」。突然、部下から辞表を突きつけられた社長の変化をテーマにした「鍵穴」など、今ではオリジナル曲が140曲に上るという。どの曲もエサキ氏が青春時代を過ごした80年代のポップスやロックに通じ、懐かしく耳に残る。そのメロディに、時に涙を流す経営者もいるというから、確かに中年男性の心を揺さぶっているようだ。

■大阪から日本全国に熱伝導

ライブセミナーにプロジェクターは欠かせない

小さなライブハウスからスタートしたバンド活動も、2011年からはものづくり工場へ舞台を移した。「不況の煽りによる工場稼働率の低下、社員のモチベーション低下や社員同士のコミュニケーションが希薄など、中小企業が抱える課題を踏まえ、最初から工場でライブができないかと考えていました。ライブをネタに、社員はもちろん、その家族や取引先までもが集まるようなイベントにしたくて。」

生産機器の部品工場や印刷工場などで開催するファクトリーライブセミナーは4時間に及び、声を枯らすまで唄い続けるという。オリジナルの社歌を贈るなど、その奮闘が口コミで評判を呼び、今年は大阪を飛び出し、長崎県の印刷業組合や東京・両国国技館で行われた全日本製造業コマ大戦の前座でも演奏した。その様子は全てfacebookページなどで動画配信し、CDなど、関連グッズも増えつつある。また、ライブを開催するたびに、中小企業系オヤジを応援するという主旨に賛同するバンドメンバーも増加しているという。

■増え続けるバンドメンバー、情熱は全ての人に宿る

ライブ終了後に記念撮影、笑顔が弾ける

「演奏班の他に、設営や警備、バーベキュー班、クリエイティブ班など男女合わせて総勢40人近くに。活動は基本的に全てボランティアですが、面白いことにメンバー同士で一緒に仕事をすることも増えている。同じ思いを持って活動する一体感が、得難い信頼関係を生んでいます」

応援している人間が元気でなくては、中小企業系オヤジを笑顔にすることなんてできない。そんな彼らの情熱がメンバーやファンを増やし、見る者全ての心に熱を灯す。その熱伝導は確実に、日本中へと広がり、今後は海外でのライブセミナー開催も視野に入っている。「世界を舞台に活躍する日本の中年男性を応援しにいきたいですね」

ただし、今後の活動については「計画は作らない。中小企業のオヤジを応援し、その情熱のブランディングをサポートするという大きな軸さえ揺るがなければ、実はどんな手法でも構わないと思っている」と話す。そんなエサキ氏の語り口はライブで見せる姿とは別人のように至って冷静。最後に、彼自身の情熱について聞いてみた。

「もちろん、僕なりの情熱はありますよ。情熱は真っ赤に燃えるようなものではなく、作りこむものでもなく、自然と湧き出る温泉みたいな熱なのだと思う。それは心臓の鼓動や体温のように、人に必ず宿るもの。中小企業系オヤジだけのものでなく、静かな人、癒し系の人、情熱はどんな人にだって確かに息づくものだと信じています」

2枚のオリジナルアルバムの他、メンバーが作ったグッズ類

オルタナS関西支局では、東京に次ぐクリエイティブ産業集積地である大阪で「これまでの常識とは違う働き方をしている」「新しい課題や分野にチャレンジしている」「社会課題の解決に取り組む」魅力的なクリエイターを取材し、記事を連載してきます。多様なクリエイターの生き方を通して、オルタナS読者が将来を考える際のヒントにしていただければ幸いです。お楽しみに。