タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆組織ってなんだろう。
 
「組織ってなんだろうね?」桐島が桃山に尋ねた。
「一杯やるか?」それには答えないで桃山が言った。
二人は目黒駅に向かう、権の坂の途中の縄のれんを潜った。
店は繁盛していた。そして客のほとんどがネクタイ姿のサラリーマンだった。 彼らはみな寄り合って来店しているらしく、一人で杯を傾けているような人は一人もいなかった。そこには大組織から分派した小組織があった。
そしてこの組織は組織の最小単位で、それが個々になることは消してないだろうと桐島は思った。
「お前、一人で飲むことってないのか?」桐島が桃山に尋ねた。
桃山はハッピ姿の女の子に促されてカウンター席に座りながら言った。

「そういえばないね。会社では皆と一緒、飲み屋でもゴルフ場でも一緒だ」
「うっとうしくはないかい」
「うっとうしいね。だけど一人でいると何か不安だね」
「人間が群れの動物だとすると、当たり前のことだね」
「人間が群れの動物だと断定はできないよ。チンパンジーやボノボは群れるけど、ゴリラやオランウータンは家族単位だよ」
「そうか、では人間はチンパンジーに近いのかなあ」と桐島が言った。
「では全員が組織に入るべき?」桃山が尋ねた。
「いや、はぐれて組織を狙うやつもいるね」
「では皆、組織志向なんだね」
「要は組織を乗っ取るか、組織を作るか、組織に入るかなんだよね」桐島が慨嘆していると、先ほどの女の子が注文を取りに来た。
「まず生ビール」と桃山が注文した。
「生二つ入りました」女店員が帳場に叫んでから、奥に戻るのを見ながら桃山が言った。
「あの子も組織の子なんだね」
「あの子は組織でお前も組織だ。そして俺は違う」
「組織は会議だ」と桃山が言った。
「朝から晩まで会議をしていることがある。つまり働いていないんだ」
「俺は一人だから会議はないが、会議を取材したことがあった。確かに生産的ではなかったな」
「会議ってより上意下達。あるいは皆が同一組織の一員だってことを確認し安心するんだな」
「上司は部下が逆らっていないことの確認。部下は上司に気に入られていることの確認だ」
桐島が言った。「以前ある市が、どうしたらよい市政ができるかを皆で議論したそうだが、どうしたら よい市政ができるかではなく、どうしたら争いのない組織になれるかの議論に変わったしまったそうだ」
「つまり生産性には皆興味がなく、いかに安泰であるかが関心事なんだ」
「だから組織はいずれ崩壊するんだ。大会社だって行政だって改革なしに50年は続かないんだ」
桃山が言った。「組織は肥大し続けて、ある日音を立てて崩れるんだ」

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