様々な特性を持つ人が一つの舞台をつくりあげることで、「みんなが笑顔で暮らせる明日」を目指して活動するNPOがあります。その代表を務めるのは、長年テレビ番組のプロデューサーとして、業界の第一線で活躍してきた齋藤匠さん。エンタメが持つ力とは?「みんなが笑顔になること。それが自分の使命であり天命」と語る齋藤さんに、活動についてお話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

エンタメ通じ、みんなが笑顔になれる空間を

視覚障がい、聴覚障がい、知的障がい、発達障がい、肢体不自由障がいのある人たちで『一人の手』を合唱。2017年に開催した「チャレフェス演劇祭」にて、チャレフェス歌劇団の演目「Alive」より

東京を拠点に活動するNPO「チャレンジド・フェスティバル」は、エンターテインメント(以下「エンタメ」)を通じ、障がいや様々な生きづらさを抱えた人と健常者とを橋渡しする活動をしています。

「楽しいことを、一緒に楽しくできたら良いね、という感じ。毎年障がいのある人と健常者とが一緒になって、ミュージカルや朗読劇などを行っている」と話すのは、「チャレンジド・フェスティバル」代表の齋藤匠(さいとう・たくみ)さん(55)。

「チャレンジド・フェスティバル」代表の齋藤匠さん

「みんなで一緒にイベントをつくりあげながら、障がいのある人・ない人、出演者・スタッフ・お客さん、それぞれの立場で気づきが生まれてほしいと思っている。なかには、障がい特性を理解しづらいこともあるし、衝突もある。それをダメとするのではなく『じゃあどうしたらいいだろう』をみんなで考えながら、互いに自然体で、みんなが笑顔でいられるような空間を、エンタメを通じて一緒につくる。これまで様々なイベントを企画してきたが、目的はただ一つ。『障がいのある人もない人も、誰もが生きやすい場所にしたい』ということ」。

きっかけは市民ミュージカル。「支援するつもりが、支援されていた」

今月22日、23日に開催される「チャレフェス文化祭2018」に向けての練習風景。チャレフェス版「ブレーメンの音楽隊」のミュージカルを披露する

テレビプロデューサーとして、数々の有名番組をプロデュースしてきた齋藤さん。「長年エンタメ業界で生きてきて、エンタメを通じてみんなを笑顔にすることが使命であり、天命だと思っていた」と語ります。

そんな齋藤さんが障がいのある人たちと出会ったのは、父親として関わったPTAでの活動でした。

「ある時、市民が300人ほど参加する市民ミュージカルに参加した。そうすると、10人ぐらい言葉がうまく発せなかったり、突然叫んだりする子どもたちがいた。PTA会長として子どもの行事に携わる機会は何度もあったし、学校に特別支援学級もあったけれども、障害のある人たちと触れ合う機会は、その時まで全くなかった」

2017年開催の「チャレフェス演劇祭2017」では、グランドフィナーレで出演者・観客全員で『手のひらを太陽に』を大合唱

「その後、今度は知的障がいのある人たちのミュージカルにスタッフとして参加した。裏方として参加するつもりが、たまたま配役が足りず出演者として参加することに。これがターニングポイントだった」と当時を振り返る齋藤さん。

「裏方だったら障がいのある人たちとの接点はそう多くなかったはずだが、出演者になり毎週稽古を一緒にやることに。本番までの3ヶ月間、稽古の中で徐々にみんながなついてくれて、体の大きな子どもたちが10人20人で寄ってたかって乗っかってくるものだから、肉体的にすごく疲れた(笑)。しかし、練習が終わって月曜日になると、すごく清々しい気持ちで新しい1週間を迎えられている自分がいた。『あ、支援しているんではなくて、支援されているな』と感じ、そこから活動に携わるようになった」

当事者だけでなく、お母さんたちの存在もまたパワーをくれた

音楽朗読劇「ブレーメンの音楽隊」で熱演する、障がいのある子を持つお母さん。2016年に開催した「チャレフェス音楽祭2016」で

知的障がいミュージカルに参加するようになって2〜3年が経つと、当事者の子どもたちだけでなく、彼らのお母さんたちとも親しくなった齋藤さん。彼女たちの存在を希望に感じたといいます。

「普段はあっけらかんとしているお母さんたちが、みんなで飲みにいくと、だんだんと障がいのある子どもを持つ心の内を打ち明けてくれるようになった。『障がいのある子どもが生まれた時、自分を責めたし、旦那やお姑さんにも咎められた。でも、支えてくれる人がたくさんいて、今となっては、生まれてきてくれてありがとうと思う』とか『この子がいるから我が家は本当に明るい』とか。当時はリーマンショックの直後。不景気な社会で、お母さんたちの言葉が僕にはとても希望に聞こえた。子どもたちの笑顔のために、大人ががんばろう。そんな思いが、お母さんたちの話を聞けば聞くほど、強くなっていった。
障がいのある子どもたちとそのお母さんの存在が、先を歩むパワーを与えてくれた」

活動の目的は同じなのに、みんながバリアを張っている

知的障がいのある子どもとそのお母さんたちと一緒に活動を始めた齋藤さん。当時の思いを次のように語ります。

「この問題は、当事者やその家族だけの問題ではない。良い意味で障がい者を『晒し者』にしようと思った。ミュージカルを見てくれた100人のうち、10人にはきっと何か心に響いてくれるに違いない、と」

そして、2011年には、齋藤さんと知的障がいのある子どもたち20人ほどから成るユニット「タクちゃんwithチャレンジド・ダンサーズ」を結成。「少人数であればいろんな場所で歌と踊りを披露できる。そして、それを見た人に何かを感じてもらうことができる」。そんな希望に溢れていた矢先、3月11日に東日本大震災が発生します。

齋藤さんが障がいのある人たちと結成した「タクちゃんwithチャレンジド・ダンサーズ」。この日はライブハウスでの初ステージ。ライブハウスにメンバーは大興奮で、お客さんを巻き込んで感動溢れるステージを創り上げた。「彼らは人を楽しませる天才」と齋藤さん

「震災後、タクちゃんwithチャレンジド・ダンサーズも各地のチャリティーイベントに呼んでもらった。イベントには僕たちの他に、地域のいろんな団体がエントリーしていた。視覚障がい者や聴覚障がい者、ダウン症の方、地元の高校生や大学生、社会人バンド…。みんな同じ目的で歌ったり踊ったりしているのに、接点を持たず、みんながそれぞれ別々にやっているということに違和感を覚えた」

「ダイバーシティとか共生社会という言葉をよく見かけるようになったが、本当に乱暴なぐらいズバッと言わせてもらうと『身体障がい者』とか『視覚障がい者』とか『発達障がい者』といったように、障がい者は完全に『障がいごとの障がい者』という分野にカテゴライズされていると感じた」

「いろんな活動をしている団体があって、それぞれ思いは一緒のはずなのに、活動がそれぞれ点と点でつながっていかない。じゃあ、様々な特性の人たちが一同に集まり、一緒に準備して一つのものを作り上げよう!と思った」

AKB48楽曲の振り付けで、みんなが一つに

その後、障がいを限定せず、ありとあらゆる人たちを対象にしたフェスティバルの開催を決めた齋藤さん。1年目の2013年には代々木公園(東京都渋谷区)で、2014年は日比谷公園(東京都千代田区)でフェスティバルを開催しました。

2013年、代々木公園で初開催した「チャレンジド・フェスティバル2013」。オープンエアーの空間で、ダンスやミュージカルを披露した

「最初は『絶対うまくいかない』という声もあった。でも、テレビプロデューサーとして、大きな番組を作ってきた自負もあった。1年目の開催で手応えを感じ、毎年続けようと思った。2014年当時、僕は本業のテレビプロデューサーの方で『AKBINGO』というAKB48の初の冠番組を制作していた」

「当時、AKB48の『心のプラカード』という歌が出て、みんなで振り付けを覚えて、ビデオを撮って送るという企画があった。ちょうどいいなと思って、イベント期間中の2日間で、振り付けをみんなでその場で覚えて、一緒に踊る様子を撮影した。未だにこの映像を見ると、本当にみんなが笑顔。障がいのあるなしも関係ない。障がいの特性も関係ない。同じ一つの曲に乗って一緒に踊りながら、ただ笑顔だけがそこにあった」

2014年に日比谷公園で開催した「チャレンジド・フェスティバル2014」で、AKB48の楽曲『心のプラカード』を皆で踊り、ビデオで撮影する企画。歌や踊りを通じて、みんなが一つになった瞬間

「学校で障がいや違いについて学んだり、講演で話を聞いたりすることも大事かもしれないが、それよりも一緒に歌ったり、踊ったり…楽しいことを一緒にやることは一発で伝わる。見えない、聞こえない、車椅子、そんなの関係ない。『エンターテインメントこそが、心のバリアフリーを推進する』と確信し、それから毎年、試行錯誤しながらフェスティバルを開催している」

「みんなで笑顔」ではなく「みんなが笑顔」に

昨年開催した「チャレフェス演劇祭2017」閉会後に、出演者やスタッフの皆さんで記念撮影。下段中央にいるのが齋藤さん

「長くテレビ業界にいるので、リアルな反応やリアルな笑顔こそが本当にかけがえのない、心を突き動かしてくれるものだと強く感じる」と齋藤さん。

「社会に気づきを与えるために、一番近いところにいるのは、障がい者とそのご家族。障がい者をいい意味で晒し者にするのは、間違いじゃないと思う。世界平和を作るために『みんなで笑顔』ではなく『みんなが笑顔』になれる活動を、これからも発信していきたい」

どんな障がいがある人も楽しめる空間づくりを応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「チャレンジド・フェスティバル」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

「JAMMIN×チャレンジド・フェスティバル」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、「チャレンジド・フェスティバル」が主催するイベントにて、どんな障がいがある人も空間を楽しめるよう合理的配慮や情報保障に必要な機具や人材を用意するための資金になります。

左から「抱っこスピーカー」、「手話通訳」、「要約筆記」(写真右上)、「車椅子用スロープ」(写真右下)。いずれも「チャレフェス音楽祭2016」より

「僕たちが主催するイベントでは、どんな障がいがあっても楽しんでもらえるように様々な工夫をしている。具体的には、聴覚障がい者のために舞台に手話通訳の配置や、音声や手書きで内容を伝える人員や機材を設置、視覚障がい者のために点字パンフレット、自宅に帰ってから聞くことができるCDパンフレットなどの用意。他にもミュージカルや歌は音を楽しんでもらうものなので振動で音を感じられる『抱っこスピーカー』の貸し出し、音声ガイドによる公演内容や状況の解説や、視覚障がいのある方が駅から会場まで迷わず来られるようにサービス介助士の駅までのお迎えサービスなども行っている」(齋藤さん)

「JAMMIN×チャレンジド・フェスティバル」1週間限定のチャリティーアイテム。ベーシックTシャツのカラーは全8色、価格は3,400円(チャリティー・税込)。写真は七分袖Tシャツ(3,724円(チャリティー・税込))。他にキッズ用Tシャツやマルシェバッグなども販売中

JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、大小様々な不思議な生き物たち。同じ一つの明るい太陽の下、多種多様な一人ひとりが笑顔で明るく、元気になれる空間をイメージしたデザインです。

チャリティーアイテムの販売期間は、10月15日〜10月21日までの1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページではエンタメで誰もが楽しく生きられる社会を目指す齋藤さんのより詳しいインタビューを掲載中!こちらもぜひチェックしてくださいね!

「エンターテインメントの力」で、障害者と健常者をつなぎ、みんなが笑顔で暮らせる社会を創る〜NPO法人チャレンジド・フェスティバル

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年9月で、チャリティー累計額が2,500万円を突破しました!

【JAMMIN】
ホームページはこちら
facebookはこちら
twitterはこちら
Instagramはこちら


【編集部おすすめの最新ニュースやイベント情報などをLINEでお届け!】
友だち追加