「自立援助ホーム」をご存知ですか?虐待など家庭での様々な事情により親元で暮らすことが難しく社会的養護下にある15歳から20歳までの子どもたちが、仕事や学校に通いながら自立に向けてのステップを踏む場所ですが、児童養護施設とは異なり、生活する子どもたちに求められるハードルは高くなるといいます。自立援助ホームを運営するNPOに話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
自立援助ホームとは
自立援助ホームは、原則15歳から20歳(※専門学校、大学等に進学をする場合は22歳まで入居することが可能)までの義務教育終了後に施設や家庭を出て働かなければならない青少年に暮らしの場を与える施設です。
「自立援助ホームで暮らす子どもたちは、就労し社会へ一人立ちする自立支援が目的。国からは一人につき1万円程の生活費(事業費)の助成があるだけで、十分な補助金はない」と話すのは、千葉県市原市で自立援助ホーム「みんなのいえ」を運営するNPO法人「光と風と夢」代表の小倉淳(おぐら・あつし)さん(37)。「みんなのいえ」の定員は6名で、現在16歳から18歳までの5人の子どもたちが暮らしています。
虐待や育児放棄等により親元で暮らすことができず、社会的養護下にある2歳から18歳の子どもたち。その多くは、『学校に通うこと』を前提に児童養護施設で暮らしますが、「もし学校をやめてしまったら児童養護施設で暮らし続けることはできない」と、社会的養護下にある子どもたちが抱える課題を指摘します。
たとえ未成年でも、一人ひとりが世帯主
児童養護施設入居者との違い
つまり、児童養護施設で暮らす子どもたちが高校を中退したり高校進学を選択したりしなかった場合、その子は児童養護施設を出ざるを得ず、親や親族など頼れる先もなく路頭に迷うことになってしまいます。
こういった子どもたちの受け皿になっているのが、自立援助ホームなのです。しかし一方で、児童養護施設で暮らす子どもたちと比較して、待遇の面で大きな違いがあると小倉さんは指摘します。
「児童養護施設の目的は、子どもたちの『養育』。そのため、住民税や医療費といった部分はすべて国が負担するし、本人が施設に入居費用を支払うということもない。一方で、自立援助ホームの場合は『働いている』ことが前提になるため、ここで暮らす子どもたちがたとえ未成年であっても、一人ひとりが世帯主である状態。医療費は通常の人たちと同じように3割自己負担、住民税も前年の所得に応じてかかってくる。入居費用も、自立援助ホームにより違いはあるが毎月平均して3〜4万円を支払う必要がある」
この待遇の違いについて、小倉さんは次のように話します。
「『働いてお金を稼いでいるんだから』『自分の意志で児童養護施設を出たんだから』『学校に行かないんだからしょうがない』という自己責任論を押し付けられることもあるが、問い直したいのは、果たして『働いてお金を稼いでいる=自立』なのかということ。働きながら勉強して進学を目指したり、将来のために貯蓄したりと必死に生きる子どもたちに、国の支援の光をもっと当ててほしい」
働きながら自立を目指す彼らに立ちはだかる課題
さらに自立援助ホームで暮らす子どもたちには、働くにあたって大きな壁があるといいます。
「特に18歳未満の子どもたちには、労働基準法によって午後10時以降の深夜労働が制限されるので、夜10時以降のアルバイトはできない。高校に通っていなかったり中退していたりすると、正社員として登用されることが難しいという現実の壁もある」と小倉さん。
さらには、これまで愛情を多くかけられることなく育った子どもたちには、コミュニケーションや日常生活の上でも課題を抱えていることが少なくないといいます。
「自立援助ホームにやってきた子どもたちが皆入居してすぐに働くことができるかというと、そうではない。心と体が健康でないと、働くことに気持ちも向いていかない。皆、苦しい思いを抱えながら、必死に自分と向き合わざるを得ない」
「みんなのいえ」のスタッフとして小倉さんを支える、小倉さんの実兄の哲(さとる)さん(40)は、「働くとはどういくことか、学ぶことが何につながるのか、そういったことを一緒に考えてくれる大人がいない環境で過ごしてきた子どもたちが、たった15歳で、たった一人でこれからの将来を決めなければならないのは、本当に酷だと思う」と漏らします。
「受け止めてもらった」経験のない子どもたち
「社会的養護下にあるといっても、両親を事故などで亡くして児童養護施設に入居したというようなケースは本当に稀。多くの子どもたちが虐待や養育環境が不十分といった背景を抱えている。かつての『かわいそうな子どもたち』という一言だけでは片付けられない背景の多様化によって、子どもたちもまた児童養護施設という枠の中だけには収まりきらなくなったということも言えるのではないか」と哲さん。
「事実、児童養護施設の中でトラブルを起こしたり、目立った行動を起こした子どもたちが路頭に迷うという状況は起きていて、どこにいってもうまくいかなかった子どもが最後に自立援助ホームにたどりつくというケースも多い。自宅から逃げ出してきたという子どももいる。彼らが口を揃えていうのが『大人に自分の意見を聞いてほしかった』ということ。居場所を感じ、閉ざされた心をいかに開いてもらえるかが、僕たちに求められていること」と話します。
「幸せは、分かち合いたいじゃん」
2016年11月にオープンした「みんなのいえ」。入居者のエピソードを聞いてみると、小倉さんがこの施設に最初に入居した一人の少年のことを語ってくれました。
「ここに来た当時の彼は、過去のいろんな積み重ねで『大人は信じられない、大嫌い』と思っていた」と当時を振り返る小倉さん。「ある時、彼が刃物で自分のことを傷つけた。なぜそんな行動に出たのか彼の内面が知りたくなり、6時間ぐらいずっと、彼が話すのを待った。そしたら、やっと彼が放った言葉は『自分のことを大人に勝手に決めつけられることが嫌だ』という一言だった」
「そんな彼が、今はここを拠点に、外とのつがなりを作っている。大人を信用していなかった彼が『外で働いても、職場の人たちも、みんなのいえの大人と同じことを言うよ。大人からのアドバイスは捨てたもんじゃないね』と言うまでになった。成長が本当にうれしいし、まぶしい」と目を細めます。
そんな彼が、先日、小倉さんの誕生日にバッグをプレゼントしてくれたといいます。
「バッグを渡してくれた時に彼が言ったのは『幸せは分かち合いたいじゃん』という一言だった。ここで暮らす中で、彼は彼自身の存在を認めることができた。彼との出会いは『みんなのいえ』を象徴する大きな出会いだと思う」
「自立とは、安全地帯を増やしていくこと」
「働いてお金を稼ぐことさえできればそれで良いのかというと、そうではない。就労して自立するということを考えた時に、人とのコミュニケーションの取り方や関係の作り方、お金の管理の仕方、料理の方法…など様々なことを学ぶ必要があると思っていて、そういったことに重きを置いている」と小倉さん。
「人には、必ず可能性がある。それを信じ、無いと感じているのならこっちが作り出して、彼らの失敗も保障したい。『そんなのできるわけないよ』と入居している皆は言うけれど、その度に、『僕一人ではできないけれど、君たちと一緒ならできるんだよ』と伝えている」
「自立とは『安全地帯だと思えるような居場所をどれだけ自分が見つけられるか』ということ。愛され、居場所を感じられる拠り所があってはじめて、そこを拠点にして学校や部活、仕事や趣味で、さらに安全地帯を増やしていくことができる。『みんなのいえ』が彼らの家族になって、安全地帯を作っていくための拠点になりたい」
自立援助ホームで暮らす子どもたちに楽しい時間を届けるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「みんなのいえ」を運営するNPO法人「光と風と夢」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×光と風と夢」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、自立援助ホームで暮らす子どもたちがお腹いっぱいお肉を食べるBBQ会開催のための資金になります。
「ここで日々の生活費を稼ぐために懸命に働いている彼らには、自由に使えるお金も、時間もそうたくさんはない。そんな彼らに、思いっきり遊び、リラックスできるひと時を届けたい」(小倉さん)
JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、ドアや窓、煙突がついた大きなリュックサックと、旅に出る少年の姿。身ぐるみひとつで旅に出る若者が背負う人生の中に、安心して帰れる、あたたかな場所があることを表現しています。
チャリティーアイテムの販売期間は、1月14日〜1月20日までの1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、「みんなのいえ」について、小倉さんやスタッフの皆さんのより詳しいインタビューを掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・自立援助ホームで働きながら自立を目指す若者に、心から安らげる「安全地帯」を〜NPO法人光と風と夢
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は2,700万円を突破しました。
【JAMMIN】
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