ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏がこのほど、日本で社会問題に取り組む高校生との座談会を行った。参加した高校生からは、「社会のために働くとはどういうことか」などの質問が寄せられた。ユヌス氏はグラミン銀行を立ち上げた当時を振り返り、「貧困層にお金を貸すことを猛反対されたが、私は信じ抜いた。先人が歩いた古い道は古い場所にしかたどり着かない。皆さん自身の道を進んでほしい」と語った。要旨をまとめた。(オルタナS編集長=池田 真隆)

高校生に向けて話すユヌス氏

社会のために働くとはどういうことか?
ソーシャルビジネスを行うにあたって、この出発点をあいまいにするとのちに問題にぶつかる。
例えば、水を提供する会社を起業したと仮定しよう。

一般的に考えると水を販売して、利益を出すことができる。一方で、困っている人に無料で水を提供することもできる。ソーシャルビジネスはこの2つの考えの中間にある。いわば、「お金儲けではないが、無料では行わない」ものだ。

ここで重要なのが、継続するためにアイデアを出せるか、だ。
活動を継続するためには資金を調達しないといけないし、貧困層からはお金を稼げないという現実がある。ソーシャルビジネスで行うには、どうやって水を販売して、利益を上げていけばいいのか、アイデアを出さないといけない。

■「皆さんは魔法のランプを持ったアラジン」

私から見ると、皆さんは魔法のランプを手にしたアラジンのようだ。
テクノロジーの発達で世界中とつながれて、移動コストも下がっている。
実現しやすい環境にいることは間違いない。

ただし、何もしなければ、そのランプからジーニーは一生出てこない。自分には何ができるかを考えないといけない。

動いた者にだけジーニーは微笑む。恐がることはない。
世界は君を覚えている。

私がグラミン銀行をつくったとき、貧困層にお金を貸したが、始めはわずか2ドルからだった。周囲からは、「2ドル貸したところで何も変わらない。無理だ」とバカにされた。でもいまは世界中にこのマイクロクレジットは拡がっている。
つまり、小さな村で始まったことを世界は覚えていてくれたのだ。

最貧国であるバングラデシュで生まれたことを「困難」だと言う人もいるが、私はうれしかった。
解決すべき問題がたくさんあるから。チャンスだと思い、アイデアを出した。
もちろん、アイデアは簡単には出ないし、失敗もするだろう。でも、いまの時代は、技術の進化で、あらゆる不可能は「可能」に変えることができる。

皆さんに最も伝えたいことは、自分に力があるということだ。これは忘れないでいてほしい。
大人の承認を得る必要はない。新しいことに取り組むと、古い世代からは間違っていると指摘されるが、それこそ間違っている。グラミン銀行をつくった当時、マイクロクレジットは反対された。でも、私は信じた。

先人の足跡がある古い道を進むと同じ道にしかたどり着けない。そして、これまでの道を行くとひどい道にたどり着くと社会や環境が証明している。

新しい道を探すべきタイミングに来ている。皆さんにとって安全な世界とは何か?その世界に到達するための道をつくりだすべきだ。古い世代が歩んできた古い道から、シャープにUターンして新しい道をつくってほしい。よりよい安全な社会への道を。

社会変革をテーマとした議論は1時間に及んだ

■目指すは3つのゼロ

いま私は、3つの0を達成するための道を歩いている。3つとは、貧困、失業、二酸化炭素の排出だ。

いま、富の格差が拡大し、一握りが富を独占している。この社会をデザインし直し、みんなで富をシェアするようにしたい。

そして、最大の課題として感じているのは地球環境である。温暖化による海水の上昇は深刻だ。このまま二酸化炭素を排出し続け、気温上昇1.5度を是正できなければ地球はどうなるのか。 もし2度上がってしまうと人類が地球上で暮らせる限界の状況に陥ってしまう。

こうなった原因は天変地異が起きたのではなく、我々の生活の仕方と企業によるものだ。
海にはプラスチックのゴミが溢れかえり、それを魚や鳥が食べ、人間の食卓に乗り、人の胃袋に貯まる流れになっている。

「問題があるのになぜ手を打たないのか」と、グレタは叫んだ。大人たちが私の生活を壊していると。

彼女に対して、学校に行けという意見もあるが、彼女はこのままでは生活することができない、生き残ることができないと訴えている。わずか10代の少女にこのような行動をさせてしまうことが大きな問題。

パリ協定からアメリカが離脱を表明したが、自殺行為のようなもの。これから先に何が起こるのかわかっていて何もしないことが、問題であるのだ。

日本は世界のリーダーシップを取れる。若い人もそうだ。破壊につながることをやるな。課題に対応しないといけない。世界はそのような道を歩んでいかないといけない。そうでないと終わってしまう。

座談会に参加したのは、多彩な活動で社会問題の解決に取り組む高校生約20人。広尾学園高校2年の池田遥さんや高志成海さんらは、i standという団体を設立。

全国の中高生から社会を変えるアイデアを募集し、中高生の投票により選別する。選ばれたアイデアを企業やNPOとつなげて、実際に事業化までを支援するプラットフォームを目指す。団体名は、ノルウェー語で、「できる」という意味。まさに、中高生たちの夢を応援していく。

池田さんらは、日本財団が11月30日に開く「ソーシャルイノベーションフォーラム」に登壇して、この構想を発表する。詳細はこちら




[showwhatsnew]

【編集部おすすめの最新ニュースやイベント情報などをLINEでお届け!】
友だち追加