タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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「撤退て言うのは可笑しいよ。資本はアメリカでもGICOは日本の保険会社だからね」
「では店じまいって言ったらいいですか?」啓介が尋ねた。
「商売は止められない。お客さんと契約があるからね。Stop business ではなくstop salesだよ」
「売らないだけですか?」

「そう売らないだけ。損保の契約は一年単位だから売らなけりゃ一年で自然に終わっちゃうんだよ。保険会社は工場がない、運送用のトラックもないし研究所もない。何もないから身軽だよね」
「そしてもう売らないから僕みたいなセールスは要らなくなるんですね。もっと身軽になりますね」
「そもそも保険は売り歩く物ではないというのが世界的な傾向なんだよ。日本の保険会社の経費のほとんどは営業経費と代理店の手数料、それに一流の場所に構える事務所の家賃だ。もう保険はインターネットの時代なんだよ」
「では相談役はどうするんですか?」

「多分Gicoを売るとか合併させるとかする仕事をしろと言われると思うよ。弁護士たちと協力して、他の損保とくっつけることになるんだと思う。生保が手挙げるかもね。保険じゃない会社が興味あるかもね。それで日本の会社にコネクションもっている奴はGICOにはあまりいないから。俺がやることになると思うよ」

日本人がカウンターと呼ぶピカピカに磨かれた厚い寄木の板には客がいないので、バーマンは壁に向かってボトルの棚卸をしていた。地震で幾つも落たり割れた物が有るのかもしれない。観葉植物の影のフロアーにも客は吉田と啓介だけだった。

「商売止めちゃう会社を欲しがる会社なんてあるのですか?」
「あるよ。ウチも日本に来て70年近いからお客さんはいっぱいいるじゃない。それはすごく魅力だよ。君は分かると思うけど、保険の商売で一番大変なのは新規加入者の獲得だろう。あとは更新更新だからね」
「そうか、新しい会社は一時にものすごい客を手に入れることができるんですね」
「新しい会社はGICOの社員は要らない。バイバイ」
「会社の売買は社員にはバイバイなんだ」と啓介は思った。「でも今度の災害での支払も新しい会社は引き継ぐのではないですか?」
「天災は不担保でしょ。保険の仕組みは天才だよね。バイバイとテンサイの組み合わせは最強だよ」
「労働組合はどう出ますか?」
「損保の組合なんて屁みたいなものだし、外資の組合の屁なんて音も臭いもしないんじゃない。でも素早く買収劇を纏めるには多めの退職金を出すようにするからみんなウィンウィン」

文・吉田愛一郎:私は69歳の現役の学生です。この小説は私が人生をやり直すとすればこうしただろうと言う生き方を書いたものです。半世紀若い読者の皆様がこんな生き方に興味を持たれるのであれば、オルタナSの編集スタッフにご連絡ください 皆様のご相談相手になれれば幸せです。

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