チベットの若者の大学進学を支援するため、日本からの中継地として訪れたインドの首都・デリーで、スラムの子どもの生活を目の当たりにした一人の男性。「幼い子どもたちも教育が受けられる環境づくりをサポートしたい」と、スラムでの支援をはじめました。なぜ、教育支援を行うのか。活動について話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

チベットの若者100人を奨学金支援

スラムの子どもたちと。写真左下が「レインボーチルドレン」代表の石川さん

インド・チベットの若い世代から未来のリーダーを育成するために活動する団体「レインボーチルドレン」は、「教育は世界を変える」を合言葉に、チベット難民の若者への奨学金支援やインドのスラム街の子どもたちへの教育支援を行うNPO法人です。

過去には、大学進学を希望するチベット人の若者を毎年100名、奨学金の給付というかたちで支援し、「若い世代から世界を変えるリーダーを」と奨学金支援の傍ら、日本人大学生との交流やスタディツアーなどを実施してきました。

しかしその後、100名規模の奨学金給付の継続に少しずつ限界を感じたと話すのは、団体代表の石川辰雄(いしかわ・たつお)さん(50)

100名のチベット人大学生の奨学金支援を行っていたレインボーチルドレン。「これはかなり大きな人数。チベット亡命政府の教育省とやりとりしながら活動していて、ダライ・ラマ14世とお会いする機会もありました」(石川さん)

「人生の足踏み時期とでもいうのでしょうか。2012年に活動をスタートして以来、毎年春と秋の2回、合計17回にわたってインドにあるスラムとチベット難民居住区を訪れていました。それがライフワークだと思っていたし、自分が果たすべき役割だと思っていました」

「身内の死や本業の仕事の環境変化などが立て続けに起こったのもあり、一度立ち止まって見つめ直す期間が必要だった」と振り返る石川さん。現在は、新たな奨学生の募集を停止し、デリー大学に通う17名の奨学生を支援しています。

「支援する奨学生の数は減りましたが、これまで培った現地との関係性やノウハウを生かし、日本からのオペレーションに挑戦しています。もちろん大学を卒業した奨学生たちとは今でも家族のようにつながっています」

インドのスラム街で出会った青年の進学を支援

インドのスラムの多くは川沿いや線路脇に点在しているという。「サンタン君が支援するスラムも線路をまたいで日常が存在します」(石川さん)

日本からチベットを訪れる際に中継地として立ち寄っていたインドの首都・デリーで、学校に通っていないスラムの子どもたちを目の当たりにした石川さん。チベットの若者の奨学金支援を行う一方で、スラムの子どもたちのための教育支援を続けてきました。

現在は、スラム出身のサンタン君(28)という若者のスラムでの教育活動を支援しています。

サンタン君との出会いは2016年。現地を訪れていた石川さんたちが滞在していたゲストハウスの壁に貼ってあったスラムツアーに参加したところ、そのツアーガイドをしていたのが彼でした。

「サンタン君はスラムの出身ですが、自力でデリー大学を卒業した努力家です。出会った時はすでに大学を卒業し、自分が生まれ育ったスラムの子どもたちをなんとかしたいと地元のNPOで働いていました。活動には資金が必要ですが、収益を得るのは簡単ではなく、ツアーガイドなど旅行業をやりながら、そこで得た資金を元にスラムの子どもたちに勉強を教えていました」

2016年秋、レインボーチルドレン奨学金を受けるための面接時のサンタン君

「彼の育ったスラムにある小さな学校は、スラムにある他の学校も多くがそうですが、六畳ほどの教室を二つあわせたような小さな校舎で、子どもがぎゅうぎゅう詰めに集まっていました。彼はその小さな学校の運営を任されていたのです」

「そこで子どもと遊んで終わるはずでしたが、話を聞いていると、彼には『旅行のビジネスをやりながらその収益で学校を運営したい。旅行や経営について学ぶために大学院に通いたい』という夢があることがわかりました」

サンタン君が運営するスラムスクール。小さな教室に、子どもたちがぎゅうぎゅうになって座っている

「彼が大学院で学び、卒業後学校を継続して運営していくことができたら、より多くの子どもたちにインパクトを与えることができる。サンタン君を育てることで、彼が今後生み出す成果に対して投資することができると思いました。だったら僕たちが力になりたいと、サンタン君の夢を応援するべく奨学金支援を申し出たのです」

サンタン君はその後、レインボーチルドレンの奨学金支援を受け、学年トップの成績で大学院を卒業。現在は試行錯誤しながら、自分が育ったスラムで子どもたちのために学校を開放し、授業を行っています。文具や本棚など、教育のために必要なものを、必要に応じてレインボーチルドレンが支援しているといいます。

様々な事情から、学校に通えない子どもたち

スラムでの生活。居住区の水汲み場でペットボトルに水を汲む少女

スラムとは一体どのような場所なのでしょうか。石川さんに尋ねてみました。

「インド全域で1億人ほどがスラムで暮らしているといわれています。外から見ればスラムでも、中にいるともはや一つの街。仕事もあるし、お店や住居も全てあります。何か商業があって、その周りに人が集まり、不法に住むようになって形成されていったのがスラムです」

「スラムの中は、宗教や出身地などによって住み分けがあります。例えばイスラム教の人たちが集まる地域や、グジャラートという踊りが得意な砂漠地帯の出身の人たちが集まる地域、障害のある人たちが集まる地域といった具合です。
多くの人たちが寄り集まって共同生活を送っていますが、教育は身近でなく、仕事も不安定です」

「子どもたちの将来を考えた時に、やはり教育が大きなキーワードになると思います。特に女の子の場合は、背景として男尊女卑の文化があるために、就学率も低く、家事などを手伝っていることが多いようです。インドは公立学校の授業料は無料なのですが、スラムの子どもたちは制服や文房具などを買うお金がなく、また家事や親の仕事を手伝ったりといった理由で学校に通うことができない子どもも少なくありません」

「支援慣れ」の現実も

スラムの子どもたちにとってサンタン君は、お兄ちゃんであり、先生であり、またデリー大学を卒業した憧れの存在でもある

一方でスラムの学校建設や運営については、インド国内だけでなくヨーロッパやアメリカなど各国から多くの団体や企業が入って支援しています。そのために現地の人たちが「支援慣れ」してしまっている現実があると石川さんは指摘します。

「支援のあり方が『お金』になってしまい、支援を受けている間はいいのですが、たとえばその団体が撤退するとなった時、現地の人たちが自分たちだけでは何もできず、突然それまで入っていたお金が入ってこなくなって学校の運営が続けられなくなるといったことも起きています。現地の人たちが『自分たちでどうにかしよう』『なんとかしなければ』という危機感が薄いということもあります」

スラムツアーでの一枚。「サンタン君が旅行業の一環として実施するスラムツアーが学校運営の収益源となります。日本の若者や欧米の人達がスラムの学校を訪れています」(石川さん)

「学校ができて子どもたちが教育を受けられるようになること。それは子どもたちにとって大きなプラスであるはずですが、実際にふたを開けてみると、そのための寄付金が一部の悪い大人の懐に入り、学校自体は週に一度しか開いていない、などということもあります」

「『これを売り出せば寄付がたくさん集まる』ということがわかっているから、それを利用してお金を得ようとか、名声を築こうという人たちも出てきてしまうのです。今はサンタン君のように思いを持って活動している将来有望な若者を通じて、スラム支援を継続していくことができたらと思っています」

「教育は、可能性であり選択肢」

「スラムの子どもたちの目の輝きが印象に残ります。どうかそのまま成長してほしいと切に願います」(石川さん)

チベットの若者の奨学金支援、そしてスラムの子どもたちの教育支援。石川さんは、なぜ教育支援に携わり続けるのでしょうか。石川さんにとって教育とは何かを尋ねてみました。

「教育は、可能性であり選択肢ではないでしょうか。僕自身、奨学金を受けて大学を卒業したということもあります。奨学金があったおかげで、今の自分があります」

「僕自身『人には決められたくない、自分で選択したい』と思って生きてきました。勉強すればするだけ、自分で選べる優位性は高まります。専門性を高められたらそれだけ生き方を選ぶことができるし、逆に高めることができなければ選ばれる方になり、主体的に選ぶことが難しくなっていきます。スラムで暮らす人たちには、現実としてスラムから抜け出す選択肢がありません。教育が、その突破口になると思っています」

奨学金4期生とデリーでのミーティングにて。「当時はまだ少数のチベット学生たちとホテルでランチを食べながらの会合でした」(石川さん)

「僕は実の子どもには恵まれませんでしたが、そのことでできている時間やお金、愛情をこの活動に投じてきました。活動を通じて関わった子どもたちが成長し、活躍している姿を見ると本当に嬉しいです。インドであれ、チベットであれ、そして日本であれ、僕の中にボーダーはなくて、どこの子どもであっても分け隔てて考えてはいません。できることは限られていますが、これからも可能性のある若者たちと一緒に活動していきたいと思っています」

スラムの子どもたちに文具を届けるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「レインボーチルドレン」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×レインボーチルドレン」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、スラムの学校に通う子どもたちに文具や本を届けるための資金となります。

「スラムの子どもたちが将来を自由に選択できるよう、そしてまたチャンスを自分の手でつかむことができるよう、ぜひコラボアイテムで応援いただけたら」(石川さん)

「JAMMIN×レインボーチルドレン」2/17~2/23の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はベーシックTシャツ(マスタード))。価格は700円のチャリティー・税込で3500円)。アイテムは他にパーカー、トートバッグやキッズTシャツなども

JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、インドを象徴する生き物である象。象の鼻に握られた一本の鉛筆と、そこから放たれた虹を描き、子どもたちの未来と教育の可能性を表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、2月17日~2月23日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

・インドのスラムで暮らす子どもたちに、教育の機会とチャンスを〜NPO法人レインボーチルドレン

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は290を超え、チャリティー総額は4,000万円を突破しました!

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