3月21日は、国連が定めた「世界ダウン症の日」です。この日に向けて、日本各地でも様々なイベントが開催されます。昨年、ダウン症のある人への応援歌「どっこいしょ〜一歩ずつ あなたの一歩を~」を制作した現役医師による音楽ユニット「Insheart(インスハート)」に、この歌に込めた思いを聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
ダウン症のある人への応援歌
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「『世界ダウン症の日』のイベントでコンサートをしてほしいと依頼を受けた時に、『ダンスでコラボしたい』というリクエストをいただき、一緒に踊れる曲を制作することになりました」と当時を振り返るのは、作詞・作曲とギター、MCを担当するJyunさん。
日本ダウン症協会の協力のもと、全国のダウン症のある人やその家族から、社会に伝えたいことや家族への思いなどを公募。二人の元には、「生まれた時に不安はいろいろあったけど、今はこの子がいることで家族全員が笑顔になれるし、とても幸せ」というメッセージが多く寄せられたといいます。
さらに、楽曲制作にあたって、ダウン症のある人やその家族に直接会って話を聞いたというお二人。
「『この子が本当の幸せや人を笑顔にすることを教えてくれる』という声をもとに、『他人の価値観で自分が幸せかどうか考えてしまう時があるけれど、本当の幸せはその時その時その人が決めるもの。そしてその幸せに向かって生きればいい。あなた自身が決めるあなたの幸せに向かって、歩幅は違っても一歩一歩進んでいったらいい』というメッセージを、この歌に込めました」
「どっこいしょ」に込められた思い
歌のタイトルにもなっている「どっこいしょ」というフレーズは、この歌のサビの部分でも印象的に使われています。「どっこいしょ」には、どんな思いが込められているのでしょうか。
「『どっこいしょ』は立ち上がる時の掛け声で、年配の方が口にするイメージがあると思うんですが、明るく一歩ずつ前へ進む時のかけ声という感じで、合うんじゃないかと思いました。『あなたの一歩一歩』という言葉を思ったときに、ふと浮かんだんです」とJyunさん。
「ダウン症協会の皆さんに初めてできた楽曲を披露した時に、とても喜んでくださって、涙を流していらっしゃる親御さんもいらっしゃいました。当事者の方たちに喜んでもらえたのはとても嬉しかったです」
楽曲制作を依頼した、日本ダウン症協会福岡支部の中島晴美(なかしま・はるみ)さん。「『どっこいしょ』の響きがすごく良いなと思った」と、初めてこの歌を聴いた時を振り返ります。
「私たちも、何かを始める時に『どっこいしょ』と立ち上がることがありますよね。ゆっくりだけれど今から前に進もうという力強い、ダウン症のある人たちのペースが表現されているなと思いました。全体としてはアップテンポで明るくて、音楽が好きな彼らにもぴったりだと思いました」
中島さんの娘の裕香(ゆか)さん(25)は、ダウン症を持って生まれてきました。
「ダウン症のある人は、ゆっくりしていて、一つのことを学ぶのにも時間がかかりますが、諦めない力があります。たとえば時計の読み方だったり、ボタンがけだったり、こちらもできないか何度も繰り返し教えるのですが、それは相手からすると『何度も習う』ことになりますよね。教える側だけでなく、習う側もついてこないことにはできません。簡単に諦めないというか、辛抱強くやっていける力を持っていると思います」
「彼女が幼い頃は『できれば健常者に近づきたい』という思いがあったので、彼女が小さいうちは一生懸命いろんなことを覚えさせようとしました。同じ年頃の子どもと比べてため息をつくこともあったし、他の子と比べて時間や手間がかかることをしんどく思ったこともありました。」
「でも、彼女のまっすぐな心のまま成長する姿を見て、私自身価値観が大きく変わりましたし、どこか違う良さで生きていくんだということも感じました。また、彼女といることでいい出会いにもたくさん恵まれて『この子がダウン症を持ってうちに生まれてきてくれて良かった』と今では心から思っています」
「もしかしたら、音楽でできることがあるかもしれない」
さて、インタビューをインスハートのお二人へと戻しましょう。現役の医師として働きながら、二人はなぜ音楽活動を始めたのでしょうか。
「お互い別々の病院で働いていましたが、たまに会って二人で話すと、同じような経験をしていることに気づきました。命の危険があって救急外来に運ばれ、命は助かってからだは治っているはずのなに元気にならない患者さんや笑顔にならない患者さんを目の前にして、何かできないかと互いに思っていたんです」と話すのは、ボーカルとヴァイオリンを担当するToshiさん。
「医療の限界は日々感じています。僕は外科医として救急外来で働いていますが、治療しても亡くなる方も少なくありませんし、できることは限られているなと感じます。医療者として自分は、患者さんが治るのを手伝うぐらいしかできないと思っています」
「たとえば傷口を縫うことがよくありますが、それは糸を寄せてかけるだけで、治るのは体です。医師ができることは、その人の症状や傷が治りやすい環境を整えるための手助けだと思っています」
「本当に辛い時は、音楽さえも聴けないですよね。だから『音楽があれば』とは思わないです。ただ、僕たちの音楽が、何かちょっとでも立ち直るきっかけや人生を支える一曲になることができたら、すごくうれしいなと思います」
「命の大切さ」をテーマに
歌い続ける
Insheartの歌のテーマとして、一貫して「命の大切さ」があると二人は話します。
「人が亡くなった時、死亡宣告するのも医師の仕事です。ご家族が集まって、亡くなった方の名前を呼びながら涙を流して悲しんでいる姿を見た時に、亡くなった方がご家族にとってすごく大切な方だったんだなと改めて感じます」
「命は今ここにあるけれど、いつか消えていくものだし、力強いものだけど、いつか消えていくものです。そしてまた、自分の命は自分だけのものではなくて、家族や友人、大切に思ってくれている人たちに支えられて続いていくもの。だから命は大切なのではないでしょうか」
「聴いていただいた方が少しでも心が楽になって、ハッピー度が高くなってくれたらうれしいです。二人とも仕事をしているので、活動できる時間はそうたくさんはないのですが、必要としていただいている方たちに僕たちの音楽を届けられたらと思っています。僕たちの歌を通じてお客さんたちが幸せな気持ちになったり心が楽になったりしたということがわかった時、そこにパワーをもらうし、それが僕たちのモチベーションにもなっています」
ダウン症のある人たちとその家族のより良い暮らしを応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「日本ダウン症協会」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×日本ダウン症協会」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ2020年のイベントの開催のための資金、そしてまた、ダウン症啓発ポスターを日本各地に発送するための資金となります。
JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、23の音符や記号。23ある染色体のうち、21番目が一本多くあることでダウン症を発症することから、二つずつセットで描かれている音符や記号のうち、一つだけ三つセットで描かれています。
楽しく、明るく、前向きに。時には休みながら、自分のペースで、自分だけのメロディ(人生)を奏でて欲しいというメッセージを表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、2月10日~2月16日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・3月21日「世界ダウン症の日」に向けて。今年のメッセージは「自分で選択し、明るく楽しく生きていく」〜公益財団法人日本ダウン症協会
山本 めぐみ(JAMMIN): JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は290を超え、チャリティー総額は4,000万円を突破しました!