社会福祉施設への風評被害が全国で深刻化している。保育や介護などの領域で働く社会福祉法人は医療崩壊を防ぐ「防波堤」とされているが、いわれのない誹謗中傷を受け続けることで社会福祉従事者が肉体的にも精神的にも疲弊してしまうことが懸念される。そんな中、「新型コロナにも風評被害にも絶対に負けない」と団結する不屈の社会福祉従事者たちが現れた。(オルタナS編集長=池田 真隆)

全国社会福祉法人経営青年会は13日、社会福祉施設・事業者への風評被害を調べるための緊急調査を実施、国民に社会福祉従事者への理解を訴えた

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” open=”no” style=”default” icon=”plus” anchor=”” class=””]「社会福祉の現場はいつもクラスターの元凶のように報道される」。社会福祉法人ひとつの会(山口県)の介護福祉士・谷口洋一さんは悔しさをにじませた。

ひとつの会で働く谷口さん

「我々は利用者さんの命を守るため、この状況でもできることを模索しながら働いている。利用者さんが笑顔になったり、明るくなったりしたポジティブな変化もある。それなのに、事件の現場のように扱われることが苦しい」

谷口さんが務めるデイサービスセンターでは、長期化するコロナ禍で、あるテーマを掲げた。それは、「利用者の時間を止めるな」。外出の機会や人との交流が制限される中、利用者の日常を守るため、アイデアを駆使。「社会福祉はクリエイティブ」と職員間で声を掛け合う。

毎年、この時期の季節行事として、花見や節句があった。今年は外出できないので、その代わり、施設内にダンボールや画用紙をつかって巨大な「桜の木」を飾った。利用者にはハンドペイントで協力してもらった。握手ができない状況で、せめてハンドペイントで手をつなごうと考えた。

施設内に飾った桜の木、利用者のハンドペイントを重ね合わせた

鯉のぼりも壁に泳がせた

利用者からは「花がきれいね」という声が。小さなことだが、こうしたことで会話のきっかけが生まれ、気分も前向きになっていく。

だが、こうした側面を報じられることは少ない。過剰な偏向報道により、福祉施設にはネガティブなイメージばかりが先行する。その結果、家族から「あぶない場所には行かないでくれ」と言われる人は多いという。

谷口さんの施設も、利用者の数は3分の2に減った。比例して収入も少なくなった。いま通う利用者の大半は、介護してくれる人が周囲におらず、一人では生活が困難な人だ。

つまり、福祉サービスの提供がなくなることは、支援を必要とする人の日常生活が失われてしまうことを意味するのだ。

感染防止の対応として、普段の業務に加えて、朝昼晩の消毒作業、2時間に1回の換気、手洗いはその都度――などを徹底して行う。子どもにうつさないように、自身の家族と過ごす時間を少なくした職員もいる。セーフティネットの自覚を持ちながらも、終息が見えない状況では、精神的なプレッシャーを抱える職員は少なくないという。

そこで谷口さんは、身を削って働く社会福祉従事者を勇気づけたいと考え、全国にいる「ヒーロー」たちに声を掛けた。

ヒーローとは、「社会福祉HERO’S」というイベントのファイナリストたちのこと。これは社会福祉の若手従事者を表彰するイベントで、全国社会福祉法人経営者協議会が毎年、開いている。谷口さんは2019年度のファイナリストだ。

社会福祉で活躍する担い手たちが登壇した「社会福祉HERO’S TOKYO 2019」

全国に7人いるヒーローたちと相談して、オリジナル動画をつくることを決めた。各法人の職員自ら業務風景を撮影し、約3分にまとめた。新型コロナにも風評被害にも負けないという不屈の象徴として、BGMは映画「ロッキー」の主題歌を流した。視覚障がい者らで構成する光バンドが演奏した。

谷口さんは、「暗い福祉ばかりが報道されるが、明るくポジティブな福祉もある。いま懸命にがんばっている僕らの姿を知ってほしい」と力を込める。

谷口さんたちがつくったオリジナル動画、「コロナに負けるな」と社会福祉従事者を勇気づける

ロッキーの主題歌を演奏した光バンドのメンバー

多彩な対応、オンライン保育も

社会福祉法人の新型コロナへの対応は実に多彩だ。農福連携を行う社会福祉法人弘和会(石川)では、自然栽培で米と大豆とさつまいもを育てていた。緊急事態宣言が出てからは、農作業を中止し、職員が利用者の家に出向く形に切り替えた。

利用者一人ひとりに希望する作業を選んでもらう。例えば、干し柿用のヒモの作成や玩具をプラスチックカプセルに入れる作業などがある。

1人の職員が平均で1日6~7軒を回るが、家に行くことで気付いたことがあるという。社会福祉士・宮中経助さんは、「部屋の片付け具合や掃除の頻度などを知れたことで、生活の質を上げるアドバイスもしている」と話す。

さらに、職員は作業を見守るだけでなく、隣で話を聞く時間を意識的につくるようにした。家にずっといるとストレスが溜まるので、「話し相手になることで気分転換になってくれたら」と宮中さんは言う。

話す時間を取ることで、抱えている不安などを吐き出してもらいストレス緩和につなげる

社会福祉法人江東会(大阪)が運営する保育園てのひらでは、オンライン保育で子どもたちの日常を守っている。普段は70人程度が通うが、いま通うのは10人程度だ。

保育士の福島里菜さんは、「家にいても保育園のことを忘れないように、オンラインで出席確認や朝の朝礼、体操などを行っている」と話す。

オンライン保育でつながる子どもと保育士

取材はオンラインで行った

オリジナル動画は無料公開しており、谷口さん、宮中さん、福島さんに加えて、社会福祉法人ウエル千寿会(宮城県)の田中伸弥さん、社会福祉法人豊悠福祉会(大阪)の中嶋ゆいさん、社会福祉法人南山城学園(京都)の佐藤走野さん、社会福祉法人柚の木福祉会(福岡県)の藤田智絵さん――の7人の仕事風景をまとめている。

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