地球の表面積の7割以上を占める海。陸とはまた異なる生態系を育み、太古の昔より私たち人間の生活にかけがえのない豊かさをもたらしてきました。しかし私たちの生活が近代化する中で、特に都市部で暮らす人々にとっては、海とのつながりを感じる機会は次第に減っていきました。「地元の海に興味を抱き、誇りを持ってほしい」。そんな思いから、博多湾を拠点に活動する団体があります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

博多湾に潜り、海の魅力を発信

「見て見て!」。博多湾で海の生き物たちに出会い、嬉しそうにカメラに目を向ける子どもたち

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福岡・博多湾を拠点に活動する一般社団法人「ふくおかFUN(ファン)」。「自然伝承」をテーマに、日本の海や山に残る豊かな生態系、自然を伝承するために、スキューバダイバーが中心となって海の魅力を伝える活動をしています。

「ダイビングが活動のキーワード」と語るのは、ダイバーであり団体代表の大神弘太朗(おおがみ・こうたろう)さん(35)。広く一般の人たちに海の豊かさや不思議、面白さを知って欲しいと実際に海に潜る参加型のシュノーケリング体験イベントのほか、写真展や講演活動などを行い、海の魅力を伝えています。

博多湾で、砂の中からキラキラした瞳でこちらを見つめる「クサフグ」。海の中にも、たくさんの色が存在している

団体のメインの活動でもある「“ひろい”海の活動」は、子どもたちと一緒にシュノーケリングで海に潜って生き物を見た後、皆でビーチのごみ拾いをするというもの。

団体スタッフの大江由美(おおえ・ゆみ)さん(40)によると、“ひろい”は海の『広い』とごみの『拾い』をかけあわせたものなのだそう。「海の魅力を知ってもらいながら、同時に海で起きているごみの問題について子どもたちが知り、考え、アクションを起こすきっかけになってくれたら」と話します。

「『ごみのポイ捨てはいけません』『落ちているごみを拾いましょう』と大人が子どもに対して一方的に教えたり押し付けたりするのではなく、子どもたち一人ひとりが海の中を実際に肌で感じた時のインスピレーションを大切にしたい。その上で何ができるのか、どうしたらいいのか、自分で考えて行動する。そんな自発心を育むきっかけになれば」と代表の大神さんは話します。

都市部の海であっても、
たくさんの生き物が生息している

お話をお伺いした、左から「ふくおかFUN」代表理事の大神さん、スタッフの大江さん、平山さん

博多湾や大阪湾、東京湾などの都市部の海に対し、青く澄んだイメージとはかけ離れた茶色く濁った海を想像し、「生き物がいるのかな」と思う方も少なくないのではないでしょうか。実際はどうなのか尋ねてみました。

「ぱっと見はそんなに気付かないのですが、実は小さくて可愛い魚たちがたくさん住んでいます」と話すのは、スタッフの平山彪悟(ひらやま・ひゅうご)さん(27)。

ダイバーに人気、魚の仲間の「コケギンポ」。「小さな穴の中から顔を出し、私たちを楽しませてくれます」(平山さん)

「僕も最初は、博多湾に対してあまりきれいではない海という印象を抱いていましたが、何度も潜るうちにじわじわとその魅力を感じるようになりました。確かに、よくイメージされるような南国の海のような煌びやかさや派手さはないかもしれません。でも博多湾に潜って海の中を注意深く観察すると、タツノオトシゴやウミウシ、タコやフグ、海草のアマモ…、実にさまざまな生き物が隠れていて、一つひとつそれを発見する喜びや探す楽しさがあります」(平山さん)

「自分が住んでいるところのすぐそばにある海にこんなにきれいな世界があったなんて、私も最初はすごく驚いたし、感動しました。この美しい世界や可愛い生き物たちのことを伝え続けたいと思っています」(大江さん)

「海を通じ、その人の中で生まれるインスピレーションを大事にしたい」

福岡市の中心部・天神で水中写真展『ふくおかのうみ展』を開催。会場にはのべ約3,500名が来場し「すごい!福岡の海ってこんな世界だったんだ」という声が寄せられたという

「都市の海にもこれだけの魚が住んでいる、これだけの生き物がいるということは、言葉だけでは伝えきれない」と3人。

「博多湾に限らず、都市部の海の近くに住んでいる子どもたちの多くが、身近な海に対してあまり良いイメージを抱いていないのではないかと感じています。しかし一度潜ってみると、陸の上からは見えなかった多様な美しい世界が見える。その豊かさを感じた時、その人の中で何か変わるものがあるのではないか」といいます。

「“ひろい”海の活動」。シュノーケリング後、ほんの少し前に見た水中世界とそこに生きる生き物を想いながら、ごみ拾いをする子ども

「海に潜ると、子どもたちは海の豊かな生態系を知ると同時に、海の中にごみがたくさんあることにも気づきます。その両方を見て陸に上がってくると、やっぱり変化がある。僕たちが何も教えなくても『魚が間違って飲み込んでしまうかもしれない』と小さなプラスチック片のごみを一生懸命探して拾うようになったりします」

「現場にいるスタッフは、ダイバーとして当然安全面の管理もしているし、その日の全体の流れもすべて把握しています。大人ですから、一つひとつの物事に対して自分の引き出しや答えも持っています。でも、果たしてそれをそのまま子どもたちに伝えたり与えたりするだけで、子どもたちの心の中にまで本質が伝わっていくでしょうか」

「一方的に与えるだけでは、子どもたちはその価値が見えないまま、受け身の状態で行動することになってしまう。”正解”を教えるのではなく、それがどんなことであれ、自分で感じ、考えることができる環境を大切にしたいと考えています」(大神さん)

自然を後世に残していくための営み
「自然伝承」がテーマ

小学校での授業(通称:“海の学校”)の様子。子どもたちに、ありのままの自然を伝える

大神さんが団体を立ち上げた背景には、若かりし頃の体験がありました。

「大学生の時、10万円を握りしめて沖縄に旅に出ました。ヒッチハイクで車に乗せてくださった方が偶然ダイバーで、そこではじめてダイビングと出会い、そんな流れからまだ手つかずの自然が多く残る沖縄の西表(いりおもて)島を訪れたんです」

「西表島で見たのは、住人の方たちが、自分たちの暮らす島の自然を守るために懸命に努力する姿でした。誰かが教えたとかどこかで聞いたというわけではなく、島に生息する生き物や自然を守るために、ごみを出すことや捨てること一つにも注意をはらい、皆で話し合い、より良いあり方で自然を残していこうと前向きに取り組む人々の姿を目の当たりにしたんです」

「自分たちが暮らす場所に対して、自分たちで責任を持って行動する。それは僕が初めて目にする世界で、人生の価値観が大きく変わるターニングポイントとなりました。西表島に行ったからこそ知ることができた世界だったんです。それ以降、『自然伝承』をテーマに掲げて活動しています」

19歳、ダイビングに出会った頃の大神さん(写真中央)。「ずっと昔から変わらずそこにある自然に圧倒される毎日でした」(大神さん)

「何が正しいとか正しくないということではなくて、それまでとは違った見方や考え方ができるきっかけとなるような”場面”と”場所”さえあれば、人はそこでインスピレーションを得て、自ずと変わっていくのではないか。自分自身の体験からそう思うようになり、陸とは全く異なる世界が見えるダイビングは、まさにその”きっかけ”に成り得ると思いました」

「ダイバーだからこそ知っている海の素晴らしさや豊かさを、より多くの人に伝えていきたい。そして、何かを感じるきっかけにしてほしい。僕たちの活動はそんな思いからスタートしています。『自然伝承』は団体のテーマであると同時に、僕の人生を通じての理念でもあります」

ダイバーだからこそ発信できる、
地域の魅力と誇り

大神さんのお気に入りの一枚。「これは『ウミサボテン』です。身近な博多湾にこんなに不思議な生き物がいることに、最初は自分自身も衝撃でした」(大神さん)

地元の海での体験をきっかけに、地域の課題に対して情熱を持って真剣に考える人たちが増えて欲しい、と大神さん。

「この場を通じて地元の海に興味を持ったり、ちょっと誇らしい気持ちを抱いてくれたり、さらにそこから芽生える感情が、地域をより良い方向に導いていってくれるのではないかと期待しています」

「身近な海にも魅力的な生き物がたくさんいるということ。ダイバーとしてもちろんそこを知ってほしいし、素晴らしい海の魅力を今後も伝えていきたいと思っています。しかし、それがすべてというよりは、それを通して持ってもらうインスピレーションを何よりも大切にしてほしい。ダイバーだからこそ知っている世界を伝えていくことで、人の心を動かしていくことができるのではないかと思っています」

「海は、人と人とをつなげてくれる存在」

海でのイベントをはじめ、様々な場所・場面において、他団体や自治体、企業、学校などと連携しながら活動している「ふくおかFUN」。海を通じて輪が生まれ、広がっていく

スタッフの大江さんと平山さんにも、海とはどんな存在かを尋ねてみました。

「人と人とをつなげてくれる存在です。私は海を通じて、たくさんの人と出会いました。そこへの感謝の気持ちもたくさんあるので、自分にできる恩返しがしたいと今は環境問題にも取り組んでいます」(大江さん)

「僕も、海は人と人をつなげる場所だと思います。活動を通じて出会う人たちとの関わりの中で、自然に対して気づくことがあったり、意識を持ったり、守っていきたい、もっと知りたい…海はそんなことを思わせてくれる場所です。活動を通じて、今後もそんな場面をもっと生み出していきたいと思います。そして博多湾に限らず、日本全国どこの海にも、潜ってみるときっとそこにはたくさんの生き物がいて、豊かな生態系があります。『灯台下暗し』ではありませんが、普段は見過ごしているような足元に、実はとても素晴らしい世界が広がっているということを、少しでも知ってもらえたらいいなと思いますね」(平山さん)

海の魅力を発信する活動を応援できるチャリティーキャンペーン

2020年4月に開設したばかりのYouTubeチャンネル『ダイバー先生』。ダイバー先生(大神さん)と助手(平山さん)が、豊かな水中世界の魅力や課題をわかりやすく発信している

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「ふくおかFUN」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×ふくおかFUN」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、博多湾や海の魅力をよりたくさんの人に知ってもらうための動画制作・配信のための資金として使われます。

「実際に海に行くイベントや直接人と会って話ができる講演活動のかたわら、直接会うことが難しい方、海に行くことが難しい方たちにも福岡の海の魅力を伝えたいと、動画の制作にも取り組んでいます。この4月からはYouTubeチャンネル『ダイバー先生』をスタートしました。海の不思議や生き物の面白さなどを伝える動画を配信しており、今後も継続していく予定です。ぜひ、チャリティーアイテムで海の魅力の発信を応援いただけたら」(大江さん)

「JAMMIN×ふくおかFUN」6/22~6/28の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はベーシックTシャツ(カラー:ホワイト、価格は700円のチャリティー・税込で3500円))。他にパーカー、トートバッグやキッズTシャツなども販売中

JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、水中メガネから広がる魅力的な海の世界。タツノオトシゴ、アオウミウシ、カサゴ、タコ、ヒガンフグ、ソラズズメダイ、アマモ…、博多湾に生息する生き物を描き、ダイバーとして海に潜り、その魅力を第一線で発信するふくおかFUNの活動を表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、6月22日~6月28日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

ダイバーだからこそできること。「自然伝承」をテーマに、海と地域の人たちと、豊かな未来をつなぐ〜一般社団法人ふくおかFUN

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は4,500万円を突破しました!

【JAMMIN】
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