地域の人付き合いや関係性が希薄になりつつある昨今ですが、昨年からのコロナの流行で人とリアルに会ったり遠出したりすることが難しくなる中、改めて地域の役割やその可能性が見直されるきっかけが生まれたのではないでしょうか。「地域の子どももおとなも一体となって何かに取り組み、共に育ち合う場をつくりたい」と、前身団体の頃より40年にわたり活動をしてきたNPOがあります。地域の可能性とは。(JAMMIN=山本 めぐみ)

地域の「子育ち」をサポート

集いの広場「げんきスポット0-3」での恒例のイベント。「保育所の先生が手遊びや絵本、ペープサートなどいろんな遊びを持って楽しい時間を親子で過ごしています。終了後は育児の相談や不安を話せる時間も」

京都市の東部、山科醍醐地域で、地域で暮らす子どもたちが心豊かに育つようにと活動しているNPO法人「山科醍醐こどものひろば」。子どもの体験活動や居場所事業、ネットワーク作りや子育てサポートなど幅広く活動しています。

「地域の『子育て』ではなく『子育ち』を、子どもとおとなが一緒になってできる場づくりをしています」と話すのは、スタッフの三宅正太(みやけ・しょうた)さん(26)。

「家と学校以外に地域の中に子どもたちがアクセスできる場所があれば、そして自分と真剣に向き合ってくれるおとながいれば、子どもはきっと自分らしさを失わずに成長していくことができる」と話します。

お話をお伺いした村井さん(右)と三宅さん(左)

「同じ地域で暮らす人たちが、おとなも子どもも関係なくフラットにありのままで関わり合える場所をたくさん作りたいと思っていて、非日常というよりは日常の暮らしの中でいかに活動を無理なく続けていくかというところはとても大切にしています」と話すのは、理事長の村井琢哉(むらい・たくや)さん(40)。

「さまざまな遊びや学習会、サークル以上部活動未満のような場所や自習室以上塾未満のような場所をたくさん作って、地域の人たちが関わり合い、子どもが育ちながらおとなも変わっていく、互いの『育ち合い』を大切にしています」

「地域の中で子どもが遊べる場所が減ってきている」

地元の有志団体と地域の保育園とで開催する、月に一度の「ごはん会」で、皆でスイカ割り

最近感じることとして、「街中から子どもたちが遊ぶ場が少しずつ減ってきている」と二人。

「夏場はとことん暑くて外で遊べないし、公園は老朽化が進んで遊具が傷んでいたりします。政策的な視点から考えると、高齢化がこの先もっと進んだ時、公共の場を利用する高齢者は増える一方で、少子化にあって子どもは減少するので、遊ぶ環境が子ども目線で改善されるかというとそれは難しいところがあると思います」

「また外を見渡してみると、騒音はダメ、花火もダメ、釣りもダメ、バーベキューも近所に匂いがするから決まったところじゃないとダメ…。禁止事項ばかりで子どもが安心して思い切り遊べる場所が減ってきています」

「じゃあ子どもたちは一体何をして遊ぶのか。ゲームしかないんですよね。どこへ行くのか。近所のショッピングモールのフードコートやファストフードのお店に行けばエアコンも効いていて、少々うるさくても誰にもとがめられない。子どもたちも安心して集えるし休憩できるわけです」

「それはつまり結局、おとなの勝手な都合で設けられた枠組みの中に、行き場のない子どもたちが身を寄せているような状況です。地域にしても子どもが主役の場ではなくなっている。子どもが過ごす環境として選択肢や豊かさが減ってきていると感じます」

「子どもが一人でも『遊ぶ、楽しむ、休む』ことにアクセスできる環境を、地域の中にどれだけ広げられるか。それが僕たちの課題であり、役割であると考えています」

遊びが自然発生しづらい環境で子どもの主体的な遊びを取り戻す

「その昔、ここ山科醍醐地域は、琵琶法師が多く訪れる特別な場所でした。その流れを復活させたいと活動する地域のNPOさんから、子どもでも弾ける琵琶を一台頂戴することになりました。琵琶ってどんな楽器なんだろう。みんなで演奏を聴いたり試し弾きをしたりしているところです」

一方で「遊び場が減ってきているとうハード面だけでなく、遊んでくれる人がいないというソフト面でも選択肢が減ってきている」と三宅さん。

「核家族化が進んでいますが、今の多くの子どもたちにとって、遊び相手は親と学校の先生以外にいない。親御さんも含め、近所のおとなの人たちが、時間や体力的な制限もあって子どもと一緒に遊んでくれることが少ないと感じています」

「遊び場の不足、遊び相手の不足の環境の中で、どうやって子どもたち一人ひとりが主体的な遊びを取り戻し、紡ぎ出してもらうか。そこは僕たちが意図的にしかけていく必要があると思っています」

「僕たちの活動は、子どもたちや地域のボランティアさんの『やりたい』や『できる』という思いからスタートして、子どもや地域、社会とともにかたち作られ、継続してきました」と村井さん。

「子どもの『やってみたい』や『やりたい』がかなえられる場所が少しずつ減っているからこそ、僕たちは子どもの目線で一緒に取り組める団体でいたい。自分が何が好きで何が嫌いか、できるかできないかも、まずはやってみないことにはわからないですよね」

「活動を通じて、子どもたちの日々の生活に彩りが生まれてくれたらいいなと思っています。当たり前に過ごしている日々、地域の見慣れた景色の中に、何か色が変わるような体験や経験を届けたい」

「正しさ」が全てではない

いろいろと課題のあった山科醍醐地域を「この町が大好き」と子どもたちが言えるような地域にしたいと2002年に始めた「町たんけん」。「町たんけんは子どもの感性が発揮できるように配慮をしながら、歴史、文化、産業、いろんな所を巡っています」

「『これをやりたい』ということがあった時に、おとなの世界では『やる理由は?』とか『エビデンスは?』『それが正しいの?』と、やる意味の是非を問うようなところがある」と村井さんは指摘します。

「では、人は果たして事実や正しさでだけで生きているのか。そうではないですよね。意味があるかどうかなんてやってみないとわからないし、意味があったらから良いとかなかったから悪いということでもない。失敗や遠回り、寄り道しながら、でもそれを体験できる空間や分かち合う相手がいることが、『正しさ』のしくみとセットで必要なのではないかと思います」

「最近の言葉では『同調圧力』というのでしょうか。子どもたちの中にも『みんなと同じことをしなければならない』『正しいと思われることをしなければならない』『本当の自分を見せずに我慢しなければならない』というのがあって、負担に感じたり窮屈に感じたり、少しずつ生きづらさを抱えています」

「それが貧困や暴力、ハラスメントなど強い要素のものもあれば、今でいえばコロナ禍でどこでもマスクを着用しなきゃいけないとか静かにしないといけないといった緩やかなものもある。いずれにしても、子どもたちはある種、おとなの支配や制限に従わざるを得ない状況にあります」

「大きく深呼吸してみたり、叫んでみたり、背筋を伸ばしてみたり…。そういったことが安心してできるような場、それを『してもいいんだよ』『一緒にしよう』と言ってくれる人が身近な地域にこそ必要で、それこそが僕たちができることだと思っています」

「一緒に悩む」ことを、活動の中で「一緒にやりきる」

「子どももおとなも関係なく一緒に楽しみ、時に一緒に悩み、時間を過ごしています」

「どんな背景であったとしても、子どもたちはただ一緒に遊び、ご飯を食べて、話を聞いて欲ほしいだけなんです。そういうおとながいるだけで、子どもは安心して元気に遊べます」と村井さん。

「そういう意味では、僕たちは『支援』という言葉もあまり使いません。子どもとおとな、ただただ同じ地域で暮らす、上下関係のない人生の先輩後輩として関わり合っていく。いろんなことがある中で、『一緒に悩む』ということを、お互いの気持ちを確認しながら、活動の中で『一緒にやりきる』ことが何より大切だと思っています」

「専門的なところについては、裏方として僕たちがその都度しかけていくことが必要です。ルールを作ってしまえば簡単だし、コントロールしやすくもなります。でも子どもたちにとって、それはやはりベストではない。団体として、子どもたちが思っていることを言える環境、伝えやすい雰囲気であるかどうかは常に気を配っているところです」

「何をするでもなく、いられる場所を」

2020年、活動拠点で実施した食料配布の様子。「コロナで家で過ごす時間が増えるからこそ、かさむ食費に対してひとりでも食べられるものをシェアしました」

「あくまで地域団体として、『地域の人が子どもたちと関わる』という前提のもと活動しています」と村井さん。

「そういうところでいくと、僕たちの活動はある意味、支援には見えないというか。送り迎えが必要な子どもがいたらじゃあ送迎しようかとか、ご飯を食べていない子がいたらじゃあ一緒に食べようかとか、コロナで一緒に食べられないならじゃあ家に食材を届けるねとか、その都度必要なことをかたちにしてきただけといえばそうなんです」

「何をするでもなく、特に理由もなくふらっと来て、ぼーっとしていても咎められることがないような空間、何をするか決めていない特にやることもないけどいられるような空間でありたくて。漫画の続きを読みに来たとか、アイスを食べに来たとか、そういうことで良いんです。場合によっては、それが生存確認を兼ねている場合もあります」

40年間のネットワークを生かして

「同じ速度で歩く。レールの上を歩かなくても大丈夫。歩きたい速度で、歩きたい場所へ」

山科醍醐こどものひろばは今年、前身団体の頃から数えて設立40周年を迎えました。

「40年間ずっとこの地域でやっているので、何か困ったことやわからないことがあった時に、『このことはあの人に聞けばわかる』と顔とつながりがすぐに出てきます。このアナログなネットワークこそ、山科醍醐こどものひろばの生態系かもしれないですね」

「地域に蓄積されたこのネットワーク、人間のつながりをうまくつなぎながら、地域の一人ひとりの『これやりたい』をかなえていきたい。アクションを起こすまでの不安やハードルをできるだけ下げるために、団体として機能できればと思います」

「地域の中で、もっともっといろんな人に『これやりたい』と言ってもらいたい。つい特殊で非日常なことをやろうとしてしまうんですが、子どもはそんなこと何も求めていなくて。非日常を張り切るのではなく、日常の中でありのままで、小さくても良いから、何か一緒に過ごせる場が増えていけばいいのかなと思います」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、山科醍醐こどものひろばと7/26(月)〜8/1(日)の1週間限定でキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が山科醍醐こどものひろばへとチャリティーされ、団体の集いの場と活動の整備の資金として活用されます。

「JAMMIN×山科醍醐こどものひろば」7/26〜8/1の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はTシャツ(キナリ、700円のチャリティー・税込で3500円))。他にもスウェットやパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、森の中のツリーハウスとその周りで思い思いに過ごす動物たちを描きました。地域の中で関わり合いながら、子どもも大人も共に育つ様子を表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

地域の中に「子育ち」の空間を。子どももおとなも共に育ち合う地域づくり〜NPO法人山科醍醐こどものひろば

山本めぐみ:JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は360を超え、チャリティー総額は6,000万円を突破しました。

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