社会問題をSNSで発信する社会派インフルエンサーに特化した事務所が立ち上がった。つくったのは自身もTikTokなどで社会問題を発信する福岡市在住の廣瀬智之さん(25)。社会課題の解決につながるソーシャルグッドな消費を根付かせたいと意気込む。(オルタナS編集長=池田 真隆)

社会派インフルエンサーに特化した事務所を立ち上げた廣瀬さんは、「ソーシャルグッド TOM」として活動するティックトッカ―でもある

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廣瀬さんが作ったのは、オーガニックコットンで作ったタオルなどのエシカルグッズを取り扱う企業と社会派インフルエンサーをつなげるプラットフォームだ。名称は、「RICE Influencers」(以下ライス)。

商品の広報案件をライスが受け、有償でインフルエンサーに依頼する仕組みだ。金額はフォロワー数に応じて異なるが、1000〜1999人フォロワーで500〜1000円、5000〜9999人フォロワーで1000〜5000円、10000〜29999人フォロワーで3000円〜15000円、30000人以上で10000円以上。

エシカルなプロダクトにはストーリーがある。例えば、同じTシャツ1枚作るにしろ、エシカルを追求するのと低価格を追求するのとでは大きく異なる。後者は、追求するあまり、工場労働者を低賃金で働かせたり、環境汚染を引き起こしたりすることがある。生産する国で起きているそれらの問題を日本の消費者が知る機会は少ない。

一方、前者は、原材料の調達から製造、流通、消費の各工程で人や環境に配慮し、「持続可能性」を追求する。コストはかさむが、モノが溢れた今の時代には、そのブランドの哲学が共感を生む付加価値になっている。

廣瀬さんは、インフルエンサーがブランドの「哲学」をしっかり汲み取って、発信できるように、インフルエンサーと作り手をつなげる場を設けたいと言う。インフルエンサー向けにオンラインでの商品説明会などを開く予定だ。

インフルエンサーは公募中で、エントリー条件は、「TwitterかInstagramのフォロワー数が1000人以上いること」や「フォロワーを買っていないこと」、さらには投稿の質や頻度も見る。

インフルエンサーへの案件紹介は8月頃から開始する予定だが、それ以降も随時インフルエンサーを募集する。原則、事務所に所属していない一般人が対象だ。8月末までに1000人のインフルエンサーを集めることを目標に据える。今後はYouTuberとして活動する社会派インフルエンサーも公募する。

社会的な企業とインフルエンサーをつなげる

社会問題を話せない「空気」を打破

フォトジャーナリストを目指していた廣瀬さんは2019年にTomoshi Bito社を立ち上げた若手社会起業家だ。教育を通して社会問題を伝える事業を行ってきた。事業を始める際にクラウドファンディングで約430万円を集めた実績を持つ。

教育事業で子どもたちに社会問題を啓発してきたが、「社会問題に関心を持っても、その関心を育まないと無関心になってしまうことに気付いた」と言う。その背景には、社会問題について話す人のことを「意識高い系」と揶揄したり、政治や宗教、ジェンダーについて人と話すことを「タブー視」したりする風潮があると述べる。

最近では、歌手のきゃりーぱみゅぱみゅがツイッターで検察庁法改正案について投稿したが、一部のユーザーから「芸能人が政治的発言をするな」と叩かれ、炎上したことが記憶に新しい。

廣瀬さんは、「政治や社会問題について日常から話せるような空気を作り出したい」と語句を強める。事業を立ち上げるにあたって、自らもインフルエンサーとして発信を強化した。「ソーシャルグッド TOM」として、社会問題や世界のソーシャルビジネスの事例を1分間で伝える動画の投稿をTikTokで始めた。

台本づくりや撮影、編集まで一人で行い、約3時間掛けて、1分間の動画を作っている。まだ始めて2週間ほどだが、ディズニー作品から考える性の価値観の変化をテーマにした動画がバズり、約30万回再生を達成した。

SNSで多くの人に伝えるには、廣瀬さんいわく「本気で思いを乗せることが大事」。小手先のテクニックよりも、発信者の思いをありのままに晒すことが欠かせないという。

エシカル消費が根付いた5ステップ

雑誌「エシカル・コンシューマー」主筆のロブ氏=2016年10月2日、立教大学池袋キャンパスで

廣瀬さんはインフルエンサーの情報発信で、エシカル消費と政治参加を促すことを狙うが、どちらも市民が主体的に社会とつながることがカギだ。例えば、市民が消費によって社会を変えていった事例としては、エシカル先進国・英国が有名だ。

英国でエシカル消費が浸透した背景には「5つのステップ」があるという。英国の雑誌「エシカル・コンシューマー」の主筆ロブ・ハリスン氏は2016年に来日したセミナーで、欧州でエシカル消費運動が発展した経緯についてこう語った。

「まず始めに起きたのが、消費者のバイコット。そして、評価機関によるブランドの調査が起きた。その次に、企業はエシカルな企業との連携を始め、認証ラベルも誕生し、ランキングと発展してきた。今では動物への配慮についても消費者からの目線は厳しい」

日本では、バイコットの文化が根付いていないので、エシカル消費を浸透させるには、「日本式」の方法が求められるかもしれない。日本式のエシカルPR戦略はこれから定まっていくと思うが、その一つに、SNSネイティブ世代への情報発信は確実に入るだろう。

日本の若者はバイコットやデモなどに参加しないからといって、社会問題への考えを持っていないわけではないと筆者は見ている。社会の「同調圧力」によって発言を渋っているだけで、話を聞くと一人ひとりがしっかりとした考えを持っていることが分かる。そんな彼らにどのような切り口で伝えるのが有効なのか、このプラットフォームからその「答え」が生まれることを期待したい。

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