——為末さんはアテネ、北京と二度のオリンピックや世界陸上など大きな大会に何度も出られました。国際大会では尋常ではないプレッシャーが掛かると思います。プレッシャーを克服する方法があれば教えてください。

為末:プレッシャーが掛かったら、自分が何に恐れているのかをしっかりと把握することが大切です。厳密に言うと、緊張やプレッシャーははねのけられるものではありません。まずは何が原因でそのようなプレッシャーを感じているのかをしっかりと把握します。

ほとんどの場合、プレッシャーの原因は恐れです。「失敗するのが怖い」や「今までの努力が無になるのが怖い」といったことです。そのような恐怖心に襲われたときには、逃げずに向き合うことが大切です。

そして、その恐れの正体を徹底的に見抜きます。多くの場合は、自分自身の思い込みから派生しています。向き合っていくうちに、実は「何も失うことはない」と気付くはずです。

——そのようにしてプレッシャーを克服したからこそ、大舞台で結果が出せるのですね。

為末:アスリートは世間からプレッシャーや恐れを克服した存在のように思われていますが、実はそんなに特別な存在ではありません。世間一般の人々と何も変わりませんよ。

ただ、自分が一体、何に恐れを抱いているのかが分かっています。それが唯一のプレッシャーに対する対処法です。ベストコンディションは、まったく悩みがない状態ではなく、少しプレッシャーを感じて不安な状態がちょうど良いです。悩みがなくなると、安心し過ぎてしまい力が出にくくなってしまうのです。

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