ソーシャルメディアを利用して自己実現を成し遂げようと積極的に動く若者が増加している。しかし、政治に関して無関心な若者は相変わらず多い。今後、社会を担っていく若者たちがなぜ政治に関心を持たなくなったのか、ジャーナリストの田原総一朗さんは、「自立したため」と分析する。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆、オルタナS特派員=大下ショヘル、堀川雄太郎)

田原総一朗さん



■お上頼りから脱却する若者たち

——若者の政治離れが起きています。ここ10年で20歳代の投票率は3割台に留まっています。投票率を上げるにはどうしたら良いでしょうか。

田原:「政治への関心」には、2種類ある。1つは、今の日本をどうすれば良いのか、どうしなければならないのかと、考えることである。すると、税金や憲法の課題を話し合っている政府のあり方に問題はあるのかという切り口で、政府を見るようになる。

そして、もう一つは、「お上意識」である。何か問題が発生すれば、政府が動いてくれると思うようになる。しかし、この考え方は問題でもある。過剰なお上頼みは良いことではないのだ。

若者が政治に関心がない原因は2つある。1つは政治を知らないということ。そして、もう1つは、「お上をあてにしなくなった」ことがある。ソーシャルメディアの影響もあり、国を超えて活躍する若者が増えているのが、それを表している。

——「お上をあてにしなくなった」とはどういうことでしょうか。

田原:政府や会社、役所などに頼らずに、自立しているということである。そもそも日本には規制が多い。それはベンチャービジネスがなかなか大きくならないことを見ればわかる。

日本の法人税は40%、中国や韓国は25%、米国ですら28%、香港やシンガポールは17%である。日本では所得税も高く、自由にビジネスを展開できない規制が多い。だから、海外でビジネスを展開する若者が増えているのだ。

例えば、社会学者の古市憲寿さん(27)がそうである。古市さんの場合は政治だけでなく、日本にも関心がない。古市さんは東京大学の大学院生だが、実はベンチャービジネスも行っているのだ。その事業は、日本よりもビジネスが行いやすい中国など国外で展開している。

では、なぜ日本に住んでいるのかというと、競争がなくて平和な国だからだと言う。彼は、日本はビジネスには向かないが、住みやすい国だと思っている。このように、自分で自立して活動することで、政治に頼らなくなっていき、無関心になっていく現象が若者の間で起きている。

——お上意識が強すぎると、どうなってしまうのでしょうか。

田原:自分で動くことを拒否して、批判ばかりしてしまうようになる。それをぼくは、「観客民主主義」と言っている。

例えば、中国の若者たちと日本のモンスターペアレンツを比較するとわかりやすい。中国の若者たちは政府にはほとんど期待していないので、文句も意見も言わない。なぜなら、自分で何かをしないといけないと考えているからだ。だから、中国人は世界各国で活躍している。

一方、日本のモンスターペアレンツは、学校や教育委員会に不満を言う。不満を言う根底には「言えば変わる」という意識があるからである。


■課題があることは大きなチャンス

——首相官邸前でのデモの人数は主催者発表では毎週増加しています。さらには、鳩山由紀夫元首相まで参加し、デモ主催団体のメンバーが野田佳彦首相と面会することが決まりました。田原さんは、このデモの可能性をどう見ていますか。

田原:デモは「直接民主主義」だと思っている。そして、このデモの特徴は、再稼働が決まったことで、人数が増していったことである。このようなデモは非常に珍しい。通常なら再稼働が決まった時点で終わる。

ただ、おかしいのは、大飯原発に電力を供給しているのは関西電力であるにもかかわらず、関西で大きなデモが起きていないことである。

——確かにそうですね。なぜ関西で大きなデモが起きないのでしょうか。

田原:僕は東日本大震災の揺れを体感していないからではないかと見ている。人間は理性ではなく、感性の動物だ。だから、揺れを体感し、震災の被害があった関東の人たちは、自分事と捉えて、ここまで盛り上がるのではないかと思っている。

飯田哲也氏が山口県知事選で落選したのは、山口県の住民は揺れをそこまで体感していなかったからだろう。

——3月11日には、東京では多くの人が帰宅困難者となりました。その体験があったから、今のデモ活動につながっているのですね。では、このデモはいつ終わると見ていますか。

田原:デモが終わるのは、民主党が解散したときだろう。おそらく民主党は、2030年に原発をゼロにする方針を取るだろう。だからといってこのデモが2030年まで続くとは思えない。

——課題先進国の日本ですが、今後の若者に期待することは何でしょうか。

田原:課題があることは大きなチャンスだ。時代は変わっていくのだから、若い世代がどういう社会をつくっていくのかを考える絶好の時期にきている。

例えば年金問題はどうするのか。僕らの世代は払っているよりも、もらう方が多い。でも、若者である君たちの世代は、払う方が多くなる。そして、政府はまだ何も対策をしていない。若者にとっては無責任な話である。

少子化問題も同様である。民主党の政府が誕生して、今年9月で3年目となる。これまでの間に少子化担当大臣は9人も変わった。やる気が全くない。これは大問題だ。

■経験したからこそ言える意見を持ってほしい

——社会貢献思考の高い若者が増えています。このことは今後の社会にどう影響していくと思いますか。

田原:僕は社会貢献をしているから特別に偉いとは思っていない。社会貢献は当たり前のことだ。商売するにも、社会貢献をしなければ儲からない。稲盛和夫さんもビジネスには「利他」の精神が重要だと説いている。

高度経済成長時代では、どんな商品でもある程度は売れた。しかし、今は徹底した利他がないと、相手にされない時代にきている。ユニクロの柳井正社長は、「企業は革命的改革を続けなければ生きていけない。安定経営の先は倒産しかない」とも話している。

——安定志向の若者が多いといわれますが、今の時代でチャレンジすることの意義を教えてください。

田原:若い人が自分で考えてチャレンジすると99%失敗する。でも、自分で考えて動いたから、失敗したときになぜ失敗したのかを考え、次に生かすことができる。

自分の頭で考え抜くと、世の中のためになるものではないと売れないと実感するはず。そして、その時にソーシャルビジネスなんて当たり前だとわかるのだ。長い経済成長の時代によって、忘れていただけである。

これからの社会を作る若者には、何もせずに批判ばかりする者にはなってほしくない。まず行動してほしい。行動することによって、政治や社会全体のことを必ず考えるようになる。さらに、経験したからこそ言える意見を持てるようになる。

今では、独自の価値観で動き、社会で活躍する若者が多く表れてきている。解決しなくてはいけない課題が多く残されているが、僕は彼らの活躍を見ていると、全く不安にならない。



田原総一朗:
1934年、滋賀県生まれ。60年、岩波映画製作所入社、64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。現在、早稲田大学特命教授として大学院で講義をするほか、「大隈塾」塾頭も務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。