広島にお住まいの佐々木千津子さんは、生後1週間で脳性マヒになった。20才の頃、コバルト照射による不妊手術を強制的に受けさせられた。
当時、自分の障がいを理由に姉の縁談が壊れたことで家に居づらくなった彼女は、施設に入ろうと考えたが、「そのためには月経の始末ができなければいけない」と言われた。そして、その「始末」のための手術が不妊手術あることを知らないまま受けることになってしまったのだ。
日本では、障がい者・ハンセン病の患者さんなど、わかっているだけで1万6千500人以上の市民が1996年まであった優生保護法という法律によって強制的な不妊手術を受けさせられたといわれている。
この問題の解明に向かって活動する彼女の姿は、2004年に制作された短編ドキュメンタリー『忘れてほしゅうない ―隠されてきた強制不妊手術』に映し出されている。
制作スタッフの一人、下之坊修子さんは、その後も佐々木さんの暮らしを撮影し続け、2010年に長編ドキュメンタリー映画『ここにおるんじゃけぇ』(カラー/97分)を監督。
施設での生活に満足できず、障がい者を支援する団体「広島青い芝の会」に出会い、自立していく佐々木さんの元気な姿を記録した。
60才を越えた佐々木さんは今、後遺症に悩みながら24時間介護を受けながらも、ネコと一緒に自立生活をしている。髪の毛をショッキングピンクに染め、ジーパンをはき、広島球場へ通う。
一方、体調はだんだん悪くなり、最近では声も出なくなり、体も動かなくなってきている。だからこそよけいに短い言葉で的確にまわりの人たちや介助者とコミュニケーションをとり、人間関係を築いているという。
今年、『ここにおるんじゃけぇ』はあいち国際女性映画祭に正式招待され、9月2日・4日に上映されると、両日とも140名入る会場は満席になった。佐々木さんも広島からこの上映に駆けつけ、元気な姿を見せた。
同映画は現在、公式サイトを通じてDVDの自主上映会の依頼に応じている。(今一生)
●映画『ここにおるんじゃけぇ』 公式サイト
http://www.terere.jp/kokonioru.htm