在来作物の大切さや、それにまつわる人々の考えに触れたドキュメンタリー作品『よみがえりのレシピ』(監督・渡辺智史)のトークゲストに訪れたデザイナー・ナガオカケンメイ氏。編集長を務める旅のガイドブック『d design travel』では、日本全国を自ら周り、その土地に眠るオリジナルなものをデザイン的視点から紹介していく。同映画でも、その土地ならではの食材を使った料理が登場するシーンに「オリジナリティを感じずにはいられない」と話す。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆)

ナガオカケンメイさん

——『よみがえりのレシピ』は、品種改良された作物より収量が少なく、病気にも弱いことで市場から姿を消してしまう傾向にある在来作物と、手間を惜しまず種を守り続ける農家の人々などにフォーカスを当てています。ナガオカさんは、時代から忘れ去られてしまったものや、取り残されたものに価値を見出していますが、どうしてそのようなものに価値を感じるようになったのでしょうか。

ナガオカ:今の社会は、ものが溢れていて、新しいものを生み出す時代ではないと感じています。逆説的ですが、ものを作り出す象徴的存在であるデザイナーとして、ものを生み出さない時代の方向性を示したかったのです。既にある良いものを発見したり、それらをつなげていく仕組みなどに興味を持っています。

——『d design travel』では日本全国を周り、その土地に眠るものを発見しています。大都市に集中せずに、全国各地から、オリジナルブランドが出てきたら、日本のものづくりはどのように変わっていくでしょうか。

ナガオカ:その土地に行って買うようになってくるのではないでしょうか。その土地に行かなくても購入できたり、行った気になるものよりも、これからは、その土地に行かないと体験できないものなどに価値を感じるようになってくるのではないかと思っています。

例えば、『よみがえりのレシピ』にも登場しましたが、在来作物を使用した独自の調理法で料理する、山形イタリアン「アル・ケッチァーノ」の奥田政行シェフでしか作れない料理を、山形まで食べに行きたいと思う人は多くいるでしょう。

なるべく早く安くよりも、多少不便があっても、その土地の風土を体感しながら、ものに触れる幸せが、高度経済成長やバブルを体験した日本人にとってのこれからの豊かさになるのではないかと思います。

——これまでのビジネス社会では効率化やスピードが求められています。一手間かかるものの価値を世の中に伝えていくには、どのようなビジョンを描きますか。

ナガオカ:今の社会システムは、色々な文脈や側面を経てできているので、時間をかけずに意識を変えることはできません。時間をかけて変えていくしかないのです。焦って、大きく改革をしていこうという考え方事態がそもそも無理ではないかと思います。

『d design travel』も10年以上かけて、全国の旅ガイドブックを作成します。なので、途中で、後継者にゆずる予定です。時間が掛かる意味と、時間を掛けなければいけない意味を説明しながら。

時間は掛かりますが、同じ時代に生きていることで、その過程を共有できるという楽しさもあります。実際に、日本全国を旅して、その土地以外のロジックでは説明できないもので、長い時間を掛けて作られたものに出会うとオリジナティを感じずにはいられません。

日本のゆっくり流れている時間の中で作られたものの豊かさを伝えていければと思います。

——若者たちへものを買うとき、または、ものをつくるときに心がけてほしいことはありますか。

ナガオカ:ものは待って買ってほしいです。例えば、3カ月掛かるものならば、3カ月待って買いましょう。ビジネス的には、早く回るように在庫を抱えたり、大量生産をしますが、時間が掛かるものは、あえて、時間を掛けて待ってほしいです。時間を掛けて待つこと以外には、その土地に行って買うこともお勧めします。

なぜなら、流通の発達で、時間が短縮され、大切なことを見失ってしまいがちになるからです。

時間を掛けて待つことで、最終的にはものを大切に使うことになります。その土地まで、わざわざ行って買ったものは、すぐには捨てないでしょう。余計なゴミを増やさないし、思い入れのあるものを大切に使うことで、生活者として豊かになっていきます。


ナガオカケンメイ:
1965年北海道生まれ。2000年デザイナーが考える消費の場を追求すべくデザインとリサイクルを融合した新事業「D&DEPARTMENT PROJECT」を開始。2009年d design travel創刊。


D&DEPARTMENT PROJECT


【リサイクル】関連の他の記事を読む
Levi’s® ペットボトル・食品トレー再利用し、デニムライン開発
教科書のリサイクルを通じ、途上国の教育を支援する挑戦
廃食油石けんで作られたもう一つの東京スカイツリー・「空樹」 美大生が制作