世界各国の社会起業家が来日し、それぞれのプロジェクトをプレゼンするUnreasonable Tokyo(アンリーズナブル トーキョー)が27日、開催された。このカンファレンスのゲストとして招かれた元グーグル本社副社長の村上憲郎氏。グローバルに展開できるソーシャルビジネスとは何か聞いた。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆)

ソーシャルビジネスについて話す村上憲郎さん

——村上さんは様々なビジネスコンテスト形式のイベントにご参加されていますね。世界各国の社会起業家たちのプレゼンを聞いて、日本国内からグローバルで通用するソーシャルビジネルを生み出すためには何が必要だとお感じになりましたか。

村上:まず、バックグラウンドが異なるので、ビジネルのスケールも違ってきます。日本は世界的に比べても裕福な環境がある国です。環境が良いことは幸運なことですが、日本の状況下だけで考えてしまうとグローバル展開は難しいと思いますね。

よく学生主催のビジネスコンテストに招かれることが多いですが、どうしてもITに特化しているケースが多いです。日本という生活水準の高い国で考えてしまうと、どうしてもITに頼ってしまう傾向にあるようです。

一方、今回プレゼンした彼らを見ると、高度なIT技術に頼るのではなく、既存の技術を上手く応用して、知識やスキルがない人でも、使用することができるサービスやプロダクトを提供していました。

彼らは、貧困問題や水問題など、困難を抱え込んでいる地域や国がバックグラウンドにあるので、どうしたらこの状況を解決できるのかと、おそらく幼い頃から自然と考えています。これは、日本国内にいてはあまりない状況です。

日本のコンディションで、日本的な問題点を、日本的な方法で解決しても国内に閉じてしまいます。グローバルに考えるのならば、世界の最貧国のことまでも視野に入れて考えていかなくてはいけないですね。

ニーズという点でも、発展が取り残された地域に向けてのソリューションを考える必要があります。

——20、30代でソーシャルビジネスを実践する人が増えています。ソーシャルメディアなどを使い発信しているのですが、苦戦するのはSEO対策です。SEO対策に悩む人たちへアドバイスを頂けますか。

村上:立場的に難しい質問ですね(笑)。しかし、あまり、小細工を労するのはおすすめしないですね。熱心に、休まず、頻度高くメッセージを発信し続けてほしいです。

やっていることが正しいことであれば、辛抱強く続けていくにつれて、必ず支持者もでてきます。注目を集めるために、炎上マーケティングやステマなどを考えないで、ストレートに伝えたいことを発信し続けてください。

働くとは、明日の食料を稼ぐこと

——「グローバル人材」という言葉が叫ばれていますが、村上さんの考える「グローバル人材」の定義を教えてください。

村上:日本国内だけにつかっている人はグローバル人材ではありませんね。日本の先に、海があり、その先にアメリカ、オーストラリア、韓国、台湾、ミャンマーなどが広がっています。そういう広がりを常に取り込み、多様性を取り入れていることが必要です。

その上で、やはり、英語を話せないと大変ですね。良くも悪くも、世界のコモンランゲージは、英語です。このことに文句言ってもしょうがないのです。英語を話せて、同じスタートラインに立てますので。

——若くしてソーシャルビジネスを志す人たちへ、メッセージをください。

村上:ソーシャルビジネスを説明するときに、良い例え話があります。スチュワーデスが飛行機の中で、お客さんよりも安全なベルトを巻いていますね。私は「どうしてあなたたちだけ、そんなに頑丈なベルトを巻いているの」と聞きました。すると、スチュワーデスは、こう答えました。「私たちが助からないと、お客様を助けられないから」

ソーシャルビジネスを実践する者は、まず自立していなくてはいけません。それなのに、世間では、身を犠牲にして若い内から「やれ起業しろ」というように若者を煽り立てる風潮が強くあると感じます。仕事を自分探しや自己実現のように捉えるべきだと教える大人たちもいます。

私は、働くとはつまるところ、明日の食料を稼ぐためのものだと考えています。将来、家庭を持って、経済的に自立して、奥さんや子どものために稼がなくてはいけません。

なので、まずは、通常の企業に就職した方がよいのではないかと思います。基本的なビジネス経験を積んで欲しいですね。

たとえ、行うことが単純作業だとしても、そこから何かを学びとろうとする姿勢さえあれば多くのことが学べます。

それでも、ソーシャルビジネスを若くして一人で挑戦しようと決意した若者には、覚悟して、その道を選択してほしいです。利益とともに、社会的課題も追求していくビジネスは、通常のビジネスよりも難しいです。

人様から色々なことを言われても反発することなく、忠告を胸に秘め、貫き通してください。


村上憲郎:1947年生。大分出身。京都大学工学部資源工学科卒業。日立電子、DECを経て、Northern Telecom Japan代表取締役。2001年、ドーセントの日本法人を立ち上げる。2003年4月、Google 米国本社 副社長兼 Google Japan 代表取締役社長として Google に入社。2009年1月名誉会長に就任、2011年1月1日付けで退任し、村上憲郎事務所を開設。