世界的な建築家である隈研吾さんは「21世紀は木の世紀になる」と考える。木材の技術開発は進み、耐火・耐久性能が上がった。隈さんは、「木材が最先端な材となったいま、世界の建築家は、サステナブルな木造建築で競い合っている」と話す。(聞き手・オルタナ副編集長=吉田 広子、オルタナS副編集長=池田 真隆)
――日本に流通している約7割の木材は外国産で、証明書はありますが、違法伐採されたものなど、「グレーな木材」と言われています。国産材の利用は3割ほどですが、この割合を増やしていくためには、建築家やデザイナーの意識から変えていく必要があると思っています。
隈:木材とコンクリートなどのハイテクノロジー素材は対比されて語られてきたが、今はその対比はなくなっている。技術開発によって木材は、欠点とされていた耐火性能も高まり、最先端な材となった。
世界中の建築家にとって、木材は誰もが関心を持たざるを得ないものとなり、木造建築の分野で競い合うようになりだした。
■「傷が分かる」が耐久性
――建築家が木材に関心を持ち出せば、21世紀は「木の世紀」になっていくということでしょうか。
隈:たぶん、最終的にはそうなると思う。1995年くらいから、「木造ルネッサンス」の時代だと感じている。
――建築において、環境やサステナブルへの意識はどうでしょうか。
隈:正しい建築とは何かと考えるときの基準で、最も重視するものが、「サステナブル」である。木は、中に二酸化炭素を取り入れることができる。燃やしてしまったら、また二酸化炭素が出てしまうが、大事に長く使うことが一番、地球温暖化の防止につながる。
――隈さんはこれまで、木を組んだ建築物を設計されてきましたが、木造とコンクリートでは、耐久性の違いはありますでしょうか。
隈:素材だけの性能でいうと、木のほうが優れている。コンクリートは、弱ってきたときに見た目では分からない。木は、傷んできたときに、「あ、腐ってきたな」ということが分かる。
分かるということが、実は耐久性だと思っている。法隆寺が世界のどんな建築よりも長持ちしているのは、傷んでいる木を取り替えてきたから。古くなったものを取り替えることは、人間社会においても健全だと思う。コンクリートだと、弱っているか分からなくて、突然壊れて、みんな怪我してしまう。システムとして不完全だ。
――隈さんは国産材を使った建築物を作っていますが、国産材を使うのは、地球温暖化への意識からでしょうか。
隈:そうです。国産材を使えば、輸送に掛かるエネルギーを最小限に抑えることができる。ぼくは、日本林業の最大の課題は、木を切って運び出すシステムが、これだけ情報化の時代なのに、遅れていることにあると思っている。そこまで難しい課題ではないのだから、政府は動いてほしい。
――国産材を使えば、地球温暖化の防止につながるのですが、流通への課題は山積しております。外国材に比べて価格が高く、国産材を取り扱う製材所も多くありません。それに、消費者が、見た目で国産材かどうか判別することは難しいと思います。
隈:社会全体で、「国産材を使う」というコンセンサスが取れれば、価格や流通も変わっていくでしょう。国産材へ舵を切る役目として、ぼくら建築家や材選びに携われる人が意識を持たないといけない。
民間業者の技術開発によって木の最大の欠点をカバーでき、政府としても国産材の使用を促すようになってきた。建築家もその流れに追いついていかないといけない。建築のデザインが追いつければ、脱コンクリートへと時代を動かせる。木のデザインは、もともとは日本人が一番先端だったのだから、ぼくらはがんばらないといけない。
■「建築の民主化」へ
――隈さんが建築家を目指すきっかけは、子どもの頃に夢中になったつみきにあるとのことですが、つみきのどのようなところが好きになったのでしょうか。隈:
つみきはぼくの人生にとって、非常に重要なもので、子どもの頃はつみき少年だった。子どもの頃、畳の部屋に寝転びながら、一人でずっとつみきで遊んでいた。母からは、「つみきを与えれば、手が掛からない子」と言われていたよ。建築家を目指すきっかけにもなった。つみきの楽しさは、積み上げていくこともあるが、やっぱり、頭を自由にすることだと思っている。作り方は無数にあり、何かを作っても、すぐに壊すことができる。簡単にご破算にすることができるので、何度でも作る楽しさがある。
このつみきの特性は、ぼくの建築家としてのスタイルにも影響を与えた。ぼくはクライアントから設計の途中で、反対意見を受けたら、さらにやる気が出てくる。なぜなら、もう一度つくれるから。建築家の中には、自分の設計に意見されることを嫌う人もいるが、ぼくは違う。クライアントの指摘した意見をもとに、設計し直すことに何の抵抗も感じない。「やった、また作れるぞ」と楽しくなる。
今の子どもたちは、パソコンやスマートフォン、ゲーム機で、バーチャルなモノをつくるが、つみきの持っているリアリティにも接してほしい。
――森林の保全活動を行うmore Trees(モアトゥリーズ)さんと協力し、隈さんがデザインしたつみきの開発費をクラウドファンディングで集めております。このつみきは、どのように楽しんでほしいと思っていますか。
隈:子どもの頃から、自分のつみきをいつかは作りたいと思っていた。だから、今回のモアトゥリーズさんからの提案は願ってもないものだった。
モアトゥリーズさんの森林保全活動は、もともと知っていた。今回は、つみきをデザインしてほしいという提案を受けて、即座にやろうと思った。
ぼくがデザインしたこのつみきは、宮崎県諸塚村のスギを使っていて、軽いが、積み上げていけば、家も家具も公園も作れる。クラシックなつみきは礎石像タイプで、積み上げていくと、重くなっていく。
これは、その形から抜け出していて、積むという行為をするうえでは、同じなのだけど、礎石像が持っている「中が詰まっている感じ」をなくした。隙間があるので、風や光が抜ける構造になっている。
高くしても重量が掛からない。大きくなって崩れても怪我する心配はない。軽やかさと格調性があり、現代に適していると思う。
現代のモノづくりは、ITでもファッションでも「消費者も参加する」という動きが起きている。建築は、その意味では遅れていて、建築家ではないと関われないと思われている。消費者は建築家やデザイナーの「崩れないアイデンティティー」を楽しんできた。
でも、今は作るたびにガラっと変わるような、「アイデンティティーの揺らぎ」を楽しむ時代ではないかと思っている。
このつみきで多くの人が、自分の空間をそれぞれ作れば、建築に興味を持ち出し、「建築の民主化」が起きてくるのではないかと思っている。設計に多くの人が参加して、揺らぎを楽しめるようになれば面白い。
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