事業の社会性を測るプロセスがまとめられた教科書が出版された。『社会的インパクトとは何か』(英治出版、著マーク・J・エプスタイン/クリスティ・ユーザス 監訳・鵜尾雅隆/鴨崎貴泰)である。監訳を務めた日本ファンドレイジング協会の鵜尾雅隆代表理事に社会的インパクトの測り方について聞いた。(聞き手・オルタナS副編集長=池田 真隆)
――事業が起こす社会的インパクトとは何でしょうか。
鵜尾:事業によって起きた変化のことです。たとえば、途上国でマラリアの感染予防のために蚊帳を配っているAという団体がいるとします。Aは毎年、何人に蚊帳を配ったかを測っていますが、本当に配っただけでいいのでしょうか。
蚊帳の使い方を教えているのでしょうか。そして、そもそも、蚊帳は使われているのでしょうか。行政でも、企業でもNPOでも、蚊帳を配った数だけで事業を見ている癖があります。でも、その数からは本当の変化は見えてきません。
――どうしたら事業の社会的インパクトを測れるのでしょうか。
鵜尾:アウトプット(結果)で測定するのではなく、アウトカム(成果)指標で見ることです。会社のボランティア活動に社員が何人参加したのかで作る指標はアウトプットですが、参加したことで社員の仕事に対する意識が高まり、モチベーションが上がったというデータが取れれば、ボランティア活動に社員を巻き込む意義ができます。
――アウトカム指標を持つことの目的は何でしょうか。
鵜尾:新たなイノベーションを起こすためです。評価とは、日本では監査のようにとらえられていますが、本来は価値を評し合うということです。成果を共有すると、その次にその領域に挑む社会起業家は0からではなく、先駆者がたどり着いたステージから始められます。
年々、社会のために役に立ちたいという人は増えてきていますが、「良いことなら評価しない」「成果よりも一生懸命にすれば、それだけで価値がある」などのようにボランティアを考えがちです。ですが、米国などでは、ストラテジック・フィランソロピーという言葉があるように、結果だけではなく、しっかり成果を測り、インパクトを拡大していく動きが起きています。
――アウトカム指標は今後、主流になっていきますでしょうか。
鵜尾:行政は今年から、事業を評価するときにアウトカム指標で測るようになりました。また、G8社会的インパクト投資タスクフォースでも提言しています。
鵜尾 雅隆(うお・まさたか):
JICAを経て2008年6月、株式会社ファンドレックスを創設。91年以降、様々な国際協力NGOの理事、運営委員などとして非営利組織の運営・創設にかかわり資金調達経験の他、02年NPO向けのファンドレイジング専門団体である、米国にあるCommuinity Sharesで企業顧客の開拓担当者として勤務。99年中小企業診断士(商業)取得。外務省経済協力局、JICAインドネシア勤務を経て、2004年、米国ケース大学Mandel Center for Nonprofit Organizationsにて非営利組織管理修士取得。同年、インディアナ大学The Fundraising Schoolにて、Certificate on Fundraising Managementを日本人で初めて取得。
・『社会的インパクトとは何か』(英治出版、著マーク・J・エプスタイン/クリスティ・ユーザス 監訳・鵜尾雅隆/鴨崎貴泰)
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