転職情報サイトリクナビNEXT(運営:リクルートキャリア)は「職場を盛り上げる取り組み」を表彰するアワード「グッド・アクション」への応募を開始した。今年のキーワードの一つは「創造性溢れる職場」。創造性は生産性や安全性などと違い、数値化できず、引き出すことが困難だ。しかし、審査員の一人で、ニート株式会社や鯖江市役所JK課などを考案してきた若新雄純氏(慶応義塾大学特任講師)は、「職場の創造性とは幻であり、思い込み」と言い切る。その理由は、「職場の創造性を判断するのは、働く人自身だから」と明快だった。(聞き手・オルタナS副編集長=池田 真隆)
――今アワードでは、「創造性」が一つのキーワードです。もし若新さんが企業の人事担当者なら、どのような仕組みで創造性豊かな職場をつくりだしますか。
若新:「職場に創造性を」と、いたるところで、これだけ言われているのに、実は職場の創造性について誰も明確にイメージができていません。もしかしたら職場の創造性というものは幻なのかもしれません。世の中には、言葉だけがもてはやされて、実態がよく分からないものは多くあって、職場の創造性もその一つではないかと思っています。
例えば、「未来志向」と言いますけど、何をしても未来は来る。未来って言葉でキラキラした印象を与えているだけ。
純粋に言葉の意味だけから考えると、創造性溢れる職場とは、レコード会社のようにコンテンツを作っているところではないでしょうか。でも、だからといって、そのような会社がエントリーしてきても選ばれないと思います。世間で叫ばれているテーマとは違うから。
もしかしたら、仕事にやたらと創造性なるものを求めていることは、現状への不満の現れなのかもしれません。
創造性が叫ばれる前、職場では、生産性や安全性などが求められていました。組織マネジメントの歴史の教科書で、最初に出てくるのは、職場環境を整えて、生産性を高める方法についてです。
オフィスの電気の明るさ、机の間隔など、そういうところから始まり、生産性を上げていきます。でも、最近の傾向として、企業の取り組みを表彰するアワードでは、生産性が高いからといってその会社は表彰されていない気がします。
生産性はかつて目指してきたものであって、それなりの生産性を達成している会社は増えましたが、それだけでは従業員の何かが満たされなくなってきたのでしょう。
生産性が、職場の中で語られて、一気に進んだのは、生産性に関してはある程度、数値化できて、モデル化できたからです。次々と仕組み化して、実行していきました。最近は、生産性云々がそんなに言われなくなり、その代わりに、創造性が叫ばれているのなら、問題は、数値化できないことと比較できないことにあります。
どっちのほうが創造性溢れる仕事をしたのか比較するのは、その人の主観によります。小室哲也氏とつんく♂氏のどちらが創造性が高かったのか、なんていうのは主観で決まりますよね。でも、どちらが、生産性が高いのか比べるときは、投じた金額に対して、売上高や利益で判断できます。
つまり、どちらのほうが創造性豊かなのかなんて比較ができない。だから、アワードはあっても、権威ある人の主観でしか評価できない。
創造性を引き出すといっても、生産性なら、どう引き出せば良いのか分かっていて、かつ、引き出すとどういう結果になるのかがある程度予想できるから、そう言える。
生産性が引き出せたかはある程度客観的に示せるし、自分で生産性が高まったとも実感しやすい。数字で書けば可視化できるので。ダイエットのようなものです。
でも、例えば「やりがい」といわれても、分からない。ダイエットして、身体的に健康になったかどうかは数値化できるので、そういうものは人事も制度化しやすかった。それがいま、創造性の話になり、数値化できないから、難しい。いままでの仕組みと同じようにやっていてもうまくいかない。
社員が創造性を発揮できていると感じられる職場をつくるためには、結論としては、「おれは創造的な仕事をしている!」と主観的に感じられれば良いわけです。
仮に、ぼくがつくったニート株式会社は、経済的価値をほとんど生み出していませんが、もしメンバーたちが、「僕たちは創造性を発揮している!」と思うようになったなら、それを誰も否定はできない。みんながそう思うなら、創造性豊かな企業となってしまう。
しかも、創造性あふれる「職場」となると、マーケットに対して、何かを創造しているわけではなく、みんなが創造性を発揮できている「場」であるかどうかということ。だから、極端な話しそうなってしまう。KPIが通用しない領域なので、ぼくらもうまく審査できるかが問われていますね。
職場における創造性の有り無しは社員一人ひとりの主観なので、本来は、第三者がどうこう言うことはできない。企業の課題は、まさにこれで、第三者が評価しづらいということです。
――第三者を納得させる創造性の根拠が必要になってきますね。
若新:とりあえず今回のアワードでは、サービスがマーケットに対して創造しているのかはどうでもよくて、社員が職場でそれを体感しているかどうかが重要なので、そもそも第三者が評価することに対する矛盾みたいなものがありますだって、もし評価し出したら、キリがなくなるでしょう。
小さい子どもの遊びは創造性が豊かとよく言われていますが、その一番の理由は、「第三者の評価を気にしないから」だと思います。
お母さんの顔色は見ているかもしれませんが、その遊びが何点で、クラスで何位で、社会的にどれくらいのポジションなのか、いいね数は?、PVは?、ボーナスはいくらなのかなどを気にしない。つくったものに対して、素直に主観的に喜んでいます。でも、大人になっていくとそれができなくなっていく。
極端な例として、秀才と天才があります。秀才なるものは数値化できて、秀才かどうか評価できますが、天才であるかどうかの明確な根拠はない。秀才を育てる組織は、プログラムによってマネジメントできますが、天才を意図的に育てる組織をつくることは難しい。何を持って天才なのかがよく分からないから。
だから、天才を育てるには、漫画「スラムダンク」の安西先生のような人が必要だと思います。スラムダンクは主人公の桜木花道が最終話までチーム内で一番下手でしたが、「おれは天才だ」と言い続けて終わります。桜木が本当に天才なのかどうかはよく分かりませんが、彼は自分のことが天才であると信じて、物語が終わったので、彼自身が見ている世界からすれば、彼自身は天才であった。
そこにおいて、重要なのは、影響力のある指導者が桜木に「お前は天才じゃないから」と突っ込みを入れていないこと。「おれは天才だから何でもできる!」と自分に言い続けることによって、チームがなんか活気づけられていきます。
安西先生は、自称・天才の桜木を批判しない。そうだとも、違うとも言わずに黙って見守っている。
職場における創造性とは、第三者の評価に関係なく、本人が主観的に体感できるかどうか。
桜木は、第三者の評価に関係なく、彼は天才である人生を生きたと思う。大事なのは、企業でも、今求められているのは、「創造性豊かな仕事だった」と体感を持ちながら働けたかどうかだと思います。
周りの人がいくら、「君は創造性溢れる仕事をした」と言っても、本人がそれを体感していないのであれば、意味がないのです。
――創造性を発揮するために、「子ども」になりきれるかが重要なのですか?
若新:これは仮説ですが、小さいときって、みんな自分が一番だと思い込んでますよね。おれが一番賢い、おれが一番強いなど。でも、だんだん大人になっていくにつれて、先生から言われたり、兄弟や友人との競争に負けたりして、おれって一番じゃないのかもしれないと気付いていく。
「お前は天才ではない」、「創造性的じゃない」と言われて、自分の体感としてもなくなっていき、テストの点数など外部の指標に頼っていく。私見ですが、桜木が何で天才だと言い切れるかというと、誰から「天才じゃないよ」と言われても無視してこれたからなんだと思います。
創造性を体感して働くということは、そういうことのような気がします。自分の仕事に創造性があると思い込んで働くかどうか。企業としての課題は、それができる環境を、どうやってつくるか。
だんだん気付いてきたのですが、職場の創造性というものは幻であり、思い込みなんだと思います。その思い込みを発生させることが大事。思い込みだから、全然創造性ではないと誰かが言っても、本人が「ものすごく創造できている」と思い込めるなら、幻はその人にとっては現実なんです。
別の問題として、本人の主観で捉えている創造性に対して、ふさわしい対価を金銭的に支払いづらいということがある。でも、もしかしたら、それをうまいことやっている会社もあるかもしれませんが。
――若新さんが創造性豊かだと思う瞬間はいつでしょうか。
若新:自分の場合は、自分の中のイメージが具現化されたときにそう思いますね。JK課などがそうでした。企画した段階で、集まったメンバーの様子や記者会見をイメージしていたので、それが具現化されたときは、すごく体感しました。
自分の体験から言えるのは、創造性を感じることと、生み出すもののレベルはあんまり関係ないということ。生み出したものが、くだらないものでもいい。僕の場合は、イメージしたものが具現化したところで感じるので、売れたかどうかは創造性の体感には関係ない。でも、ビジネスをしていくなかで、売上がたたないのは、まずいので、仕事の中で、その体験ができる余地をバランス良く入れていくことが大切なんでしょうね。
逆に、その商品やサービスがマーケットに出て、売れても、創造性の体感には直結はしない。JK課は、できて2年後くらいに総務大臣賞をいただきましたが、そのときは別に創造性をすごく感じたわけじゃないです。創造性を強く感じるときは、具現化して、目の前に実現したとき。
つまり、それは、会社の中で完結させられる話だと思います。
社内でプレゼンするときに、あまりお金のかからない範囲で、一個試作品をつくってみる。そこまでやって、実際につくるか決めてみる。でも、多くの場合は、その前の提案段階で、不確実性や不安要素が多く、却下されてしまう。
そうすると確立性や生産性が高いものしか残らない。モチベーションも上がらない。会社にとってダメージにならない範囲で、まず試作品を作ってみても良いのではないでしょうか。こうすれば、より課題が明確になり、本人も、商品化されなくても納得できるはずだし。
――そうするには、会社の度量が問われますね。
若新:社員に新製品の開発やマーケティングを全て任せろ、若いうちから決裁権を与えろという話ではなく、会社は給料を支払い続けるために、生産性を維持し続ける必要があるので、あまりリスクがない範囲で、「最初につくってみる体験」をつくるだけでいいんだと思います。
それがどうだったかということは、創造の体験とは関係がありません。
創造性を客観的に検証する意味はあんまりなく、仕事も人生もそういう段階に来ている気がします。みんな、生活の現状維持はそこそこできる。だから、内的な動機や、主観的な充実感を求めている。そこに第三者の評価は、実はあんまり関係ありません。
いっそ、「創造性なんて幻であり、思い込み」。そう思ったら、気楽になりませんかね。そんなものは自分で勝手につくってしまえるものだと思ってしまえば良い。客観的事実として、社員一人ひとりが創造性を感じながら、働けるかどうかは、それぞれの主観が決めることだから、全体としては幻のようなもの。
創造性を育むためには、会社に損失にならない範囲で「試作」の機会を設ける。桜木はシュートがあんまり入らないけど、安西先生は、試合に出させました。「君は、シュートが入らないから、天才じゃない」と言ってしまうと、天才ではなくなってしまう。すごく良いのは、桜木は、シュートを外しても、「馬鹿な!」「天才のはずなのに!」と言って、自分自身のモチベーションを保っているところ。
もしかすると、創造性豊かな社員は、「馬鹿な!おれは創造性が豊かなはずだ!」と思って、創造性豊かに働こうとし続けるだけ、なのかもしれない。
――今回の審査で期待している部分は、桜木花道のような社員がたくさんいる会社?
若新:実は、今回の話でいうと、スラムダンクで大事なのは、桜木ではなく、安西先生の方です。創造的にあり続けようとするプレーヤーを育てるには、「自分は創造的である」と主観的な体感を持ちやすい職場にしないといけない。
――おっしゃる通りですね。どんな安西先生が出てくるのか楽しみですね。
抽象的な表現になりますが、創造性のある働き方は、統合して仕上げていくよりも、解き放っていくようなもののような気がします。それは、ものすごく難しくてレベルの高いことですね。
■なぜリクナビNEXTが「グッド・アクション」を企画するのか
リクナビNEXTの藤井薫編集長はグッド・アクションを企画する意図について、「転職者の入社後の活躍も支援したいから」と言う。「転職者がこの会社に入って良かったと思うためには、企業側が受け入れ体制を整える必要がある。その点に関して、もっとできることがあるのではないかと思った」。
生産年齢人口は2014年に8000万人を割るなど、減少を続けている。政府は一億総活躍を掲げ、女性やシニア、外国人労働者など一人ひとりに合った多様な働き方が求められている。しかし、多様性が求められるため、答えも企業の数だけある。そこで、新しい働き方に悩む企業に向けて、ヒントを提供できないかと考え、グッド・アクションが考案された。
今年で3回目を迎えるが、毎年ユニークな取り組みが集まっている。3DCGのプロダクション会社のピコナ(東京・大田)は、「残業チケット制」を取り入れた。この結果、 残業時間は80%も削減し、従業員のプライベートが充実した。プライベートな時間にアニメーションを創作し、それが商品化につながったという例もある。
IT企業のじげん(東京・新宿)は就業時間に「昼寝」と「運動」を認めた。昼寝によるリフレッシュ効果で、高い作業効率をキープし、新規事業開発案件も残業なしで乗り切ることに成功したという。
今年のキーワードの一つは、「創造性溢れる職場」。藤井編集長は、「従来のトップダウン型で指示を出すのではなく、現場の声の収集と活用がカギ」と話す。経営層や人事は、現場が抱えている課題を把握し、その解決策を、現場の社員とともに考える。この現場との協働が、「創造性溢れる職場づくりには欠かせない」と主張する。
【「グッド・アクション」開催概要】
・応募期間:2016年9月30日まで
・応募対象:日本で企業活動を行う企業、団体
・審査委員:
一橋大学大学院商学研究科教授 守島 基博氏
SAPジャパン株式会社 常務執行役員人事本部長、横浜市政策局男女共同参画担当参与、
NPO法人GEWEL(Global Enhancement of Women’s Executive Leadership)副代表 アキレス 美知子氏
慶應義塾大学特任講師/株式会社NewYouth代表取締役 若新雄純氏
株式会社リクルートキャリア リクナビNEXT編集長 藤井薫
・賞発表:2017年2月上旬(表彰式実施予定)
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