俳優の塩谷瞬がアフリカに井戸を建設するため、クラウドファンディング「キャンプファイヤー」で300万円の資金調達に挑戦している。なぜこのプロジェクトを始めたのか。プロジェクトを始めた理由やボランティアに対する考えを聞いた。(聞き手・オルタナS副編集長=池田 真隆)

ボランティアはコミュニケーションと考える塩谷さん

ボランティアはコミュニケーションと考える塩谷さん

――このプロジェクトでは、ケニアとタンザニアの国境地域に井戸を掘りますが、そもそも塩谷さんとアフリカの出会いはいつでしょうか。

塩谷:アフリカとの出会いは10年前に遡ります。あるテレビ番組のロケで、アフリカに行き、親戚が500人以上いるある大家族と過ごしました。子どもたちと日が暮れるまで、鬼ごっこをしたり、シャボン玉で遊んだりしていました。

滞在中、地元の小学校で授業をする機会をもらいました。その授業では、子どもたちに夢を聞きました。子どもたちは、一人ひとり黒板に夢を書いてくれたのですが、そこに書かれたものを見て、自然と涙が出ました。

黒板には、警察官、医師、パイロット、国際弁護士、メジャーリーガーなどが書かれました。この学校に通う子どもたちは、電気も水道もない村で暮らしています。水を汲むために、5時間もかけて歩きます。まともな教科書もなければ、テレビもありません。こんな環境でも、このような夢を持っていることに、感動したのですが、同時にショックを受けました。

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――なぜショックだったのですか。

塩谷:大きな夢を描いていることは素晴らしいことなのですが、その夢を叶えるために、ここでどうすればよいのか教えてあげることができないと思ったからです。それが苦しかったのです。

学校から戻って、家に帰り、一人でそのことについて悩んでいたら、長男のアレイラが「どうしたんだ」と気にかけてくれました。ぼくは悩んでいることを打ち明けると、「ここまで何で来た?」と聞いてきました。

ぼくは飛行機で来たよと答えると、「空港に少し太っている女はいなかったか」と言いました。ぼくはうろ覚えですが、確かいたかもしれないと言うと、「実は、その女はおれたちの親戚なんだ」と。

アレイラは、この村からでも、スチュワーデスになって夢を叶えた家族がいることを教えてくれたのです。この話を聞いて、考えが変わりました。どんな環境でも、やる気を出せばなんでもできるんだと学びました。

――そのような出会いがあったのですね。塩谷さんご自身の生い立ちも恵まれた環境ではありませんでした。アフリカの過酷な環境でもあきらめない姿に感銘を受けたのですね。

塩谷:ぼくも生きていくために10歳のころからアルバイトをしてきました。両親には育てられず、生まれた村の仲間と助け合いながら、暮らしていました。そして、15歳のときに、俳優になると決めて、上京してきたのですが、芸能界と何のツテもなく、たくさんの人から裏切られたり、騙されたり。。。

でも、そんな状況でも続けてこれたのには、2つ理由があると思っています。1つは目標がシンプルだったから。自分のやりたいことが明確で、向かう方向性に迷いはなかったです。そして、もう1つは、支えてくれた人たちの存在です。

俳優になるまで、多くのアルバイトをしてきたのですが、そのたびに多くの人と出会ってきました。そのご縁があって、俳優になれていると思っています。こうした経験から、真剣に何かと向き合っていると、必ず誰かが手を差し伸べてくれると気付きました。

取材で、アフリカでのプロジェクトについて話す塩谷さん

取材で、アフリカでのプロジェクトについて話す塩谷さん

――アフリカに井戸を掘るためにクラウドファンディングに挑戦しています。

塩谷:なぜアフリカなのか。それは、アフリカでエボラ出血熱や感染症など世界でも一番大きい問題が起きているからです。日本では一時的な報道ですぐに忘れられてしまっていますが、 これは世界緊急危機として声明を出されている凄く大切な問題なのです。そして、このような伝染病が生まれる背景には、不衛生な水問題があります。だから、井戸を掘ろうと決めました。

今回のプロジェクトでは、単純にお金を集めて井戸を建設するだけではありません。井戸のメンテナンスを現地に住んでいる人に責任をもってやってもらうために、現地住民とワークショップをして、本当に井戸が欲しいのか意思確認をします。そして井戸の作り方を教えて現地の人たちもこれから作っていけるくらいの技術を伝えます。

アフリカで1980年代にボランティアによってつくられた井戸や学校の約7割は、運営されず、廃墟になってしまっています。このようなことを繰り返していてはいけないと思います。

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――この活動を通して、どのようなことを伝えていきたいですか。

塩谷:日本は経済的に豊かですが、うつ病や自殺者などは一向に減りません。一方、アフリカで出会う人たちからは、常にエネルギーをもらいます。子どもたちの目のキラキラは本当にすごいです。

もしかしたら、日本などの先進国の人々が抱える課題は、途上国に行けば解決策が見つかるかもしれません。

ぼくはこれまでに、東ティモールや東日本大震災、熊本地震などでボランティア活動をしてきましたが、ボランティアはコミュニケーションだと思っています。

時間とエネルギーをかけることで、逆にこちらが彼らから教わります。今回クラウドファンディングにしたのは、この体験を多くの人と共有したいからです。

僕と何かやりたいという人がいれば、ぜひ一緒にやりましょう!

・塩谷さんが挑戦中のクラウドファンディングはこちら

塩谷 瞬:
1982年 石川県出身。
「忍風戦隊ハリケンジャー」で主演俳優デビュー、映画「パッチギ!」にて日本アカデミー賞新人俳優賞。日本映画・最多出演賞他を受賞。主な出演作品に『象の背中』『出口のない海』「トロイラスとクレシダ」蜷川幸雄「ジャンヌダルク」白井晃など。現在世界200か国を巡り、アフリカや東ティモールなどの海外支援活動、子供達と「夢の授業」を行っている。ネパール親善大使 公式サイト

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