家庭から出た生ゴミを堆肥に変える「コンポスト」がブームだ。堆肥を使って家庭菜園として無農薬野菜を育てられることも人気の一つ。環境に対して意識はあったが、行動まで起こせていなかった「隠れエシカル」な層に響いている。(オルタナS編集長=池田 真隆)
ブームの火付け役は福岡にいる。ローカルフードサイクリング(福岡県福岡市)のたいら由以子代表だ。販売するのは、ペットボトルや廃棄プラスチックの再生素材を100%使用したバッグ型コンポスト。スタイリッシュなデザインが30~40代の女性を中心に受けており、起業してからわずか3カ月で黒字化を達成した。「LFCコンポスト」と名付けた商品は、1個2980円。今年1月に販売を始めて半年間で4000個売れるほどの人気商品だ。購入者の約9割がコンポスト初心者、その多くが都内在住だという。
SNSで「#LFCコンポスト」と検索すると、自宅のベランダで無農薬野菜を育てる写真が大量に出てくる。「本当に生ゴミから堆肥ができた」と驚く人もいれば、晴天の日に子どもと一緒に笑顔で写っている人もいる。
たいら社長は販売する前に、約700人にコンポストについてアンケートを取っていた。その結果、認知度は7割を超えたが、実際に使っている人は1割しかいなかった。「意識はあっても行動に移せていない潜在顧客がいるとは分かっていたが、これほどまでに人気になるとは予想していなかった」と述べる。
今年1月に起業して3カ月で黒字化を達成したわけだが、その背景には「偶然」ではなく「必然」とも言えるたいら社長の努力がある。ローカルフードサイクリングを起業する前に、たいら社長は福岡でNPO法人循環生活研究所を立ち上げ、22年間も親と娘の三世代でコンポストの普及研究に取り組んでいた。
そもそもNPOを立ち上げたきっかけは父親の肝臓病だ。食に関心を持ち、たいら社長は母親の波多野信子さんと親子でNPOを立ち上げた。
NPOでは、ダンボールで作ったオリジナルのコンポストを開発し、使い方を教える講座を年に350回以上も実施してきた。団体のコンセプトは「半径2キロ以内で生ごみを循環させること」。半径2キロを、物事を自分ごとでとらえることができる範囲とし、「主婦が感じる生活圏」、「中学生の行動範囲」などと定義づけた。しっかりと顔の見える範囲で、生ゴミを循環させていくことに、意味があるとこだわった。
そのコンセプトを具現化した事業が集合住宅に住む住民向けのものだ。1週間または3カ月ごとに自転車に乗ったコンポストクルーが、住宅を訪れてダンボールコンポストの中身を回収・交換する。回収したものは、コミュニティガーデン(住民共有の畑)に運び、住民は交換回数に応じて、コミュニティガーデンでできた「循環野菜」をもらえる仕組みにした。
これは「ローカルフードサイクリング」という事業だが、人気商品「LFCコンポスト」の「LFC」はここから生まれた。
株式会社を立ち上げるにあたって、より多くの人に使ってもらうためバッグ型コンポストを開発した。コンポストは、一般的には生ゴミの悪臭がするので、畑のそばなどに設置されていることが多いが、バッグ型にしたことで都市に住む人のニーズに合わせた。
NPOでの長年の研究で、臭いの出にくい独自の素材配合を開発していたので、自宅やベランダに置いても臭いはしない。ファスナー付きのバッグが虫の侵入を防ぎ、サイズも持ち運びやすい大きさで、なによりおしゃれだ。
使い方に困っても、すぐに対応できるように、LINEのホットラインを設けた。たいら社長含めて5人のスタッフが返信しているが、1週間でやりとりは「1000件を超える」そうだ。こうした地道の努力で、「気軽に始められる環境」を創出している。
たいら社長は、「生ゴミを捨てることに罪悪感を持っている人がこれだけいたと分かった。今後は回収することに力を入れたい」と述べる。第一段としては、東京・青山で行われているマルシェと連携して、回収を行う予定だ。
■家族全員で食の循環へ
都内在住の中川原けいこさんは今年5月からLFCコンポストを使い始めた。エシカルな商品に興味があった中川原さんは、「台所仕事をしていると毎日捨てるゴミの量に罪悪感を持っていた」と明かす。「主婦だけでなく、家族全員で取り組める活動を探していたときに、コンポストを知った」ことがきっかけだ。
13歳と10歳の子どもと一緒に、どの生ゴミを微生物が食べるのかを話し合いながら続けているという。
中川原さんは、主婦友達らにエシカルな商品を紹介することはある。「普段はそこまで関心を持たれない。けれど、『コンポストは生ゴミを出さなくて済む』と伝えると反応はすごくいい」と語る。自宅にあるコンポストで堆肥を育てて、家庭菜園をすることが目標だ。
コンポストに夢中なのは個人だけでなく、企業もだ。福岡にある「ホテルグレートモーニング博多」では、LFCコンポストを活用してホテルで出た生ごみをホテル内で循環させる取り組みを行っている。完成した堆肥を使って、屋上でミントやハーブ、小松菜やベビーリーフなど20種類の野菜を栽培し、収穫できたものをウェルカムドリンクや朝食などで提供している。
同ホテルでは、天然素材、水、そして空気にまでこだわった「都市型リフレッシュホテル」を標榜しており、ホテル業を通して社会課題の解決に力を入れる。
海外から来る訪日観光客にとって、梅干しや漬物といった食材は受け入れられないことが少なくない。同ホテルでは、無添加の食材を使っているが、保存期間が短く食品ロスの発生が起きていた。また、朝食の食べ残しは平均で1日500gほど出ていたという。
食べられるけど捨ててしまう食材をホテル内に設置したコンポストに入れることで、循環させた。ホテルグレートモーニング博多でマネージャーを務めるのは1993年生まれのミレニアル世代の二枝徳英さん。LFCコンポストを導入したことで、「コロナ禍では地元の方に愛されることが大切だとされていますが、地元の女性のお客様からご好評をいただいております」と効果を述べた。
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