2020年3月、岐阜県で路上生活をしていた高齢の男性が未成年の少年に集団で襲われ、亡くなる事件がありました。同じ命であるにもかかわらず、彼の命はなぜないがしろにされたのか。ホームレス状態にある人に対して、「ホームレスを選んだ自分が悪い」「生きている意味がない」といった差別や偏見の目が、今も強く存在しているのではないでしょうか。岡山で、20年近くにわたり路上生活者を支援してきた団体に話を聞きました。(JAMMIN=山本めぐみ)

路上生活者のための炊き出しが活動の原点

岡山市内にある、「岡山・ホームレス支援きずな」が運営するおとな食堂「安楽亭」。「できたてを温かいうちに、みんなで」がモットーだという

岡山でホームレス支援を行っているNPO法人「岡山・ホームレス支援きずな(以下『きずな』)」。活動の原点は路上生活者のための炊き出しです。

「路上生活者の数は年々減りつつあり、統計では現在4千人を切っていますが、活動を始めた2002年当時は2万人も3万人もいるとされていました。命につながる『食べること』を切らさないようにしようと炊き出しを始めたのが最初です」と話すのは、きずなのスタッフで社会福祉士の新名雅樹(しんみょう・まさき)さん(49)。

2008年のリーマンショックによって岡山でも路上生活者が増え、「食だけでなく住まいや就業、居場所づくりなどさまざまな支援がしたい」と2011年には任意団体からNPO法人として活動を再スタートし、現在に至ります。

お話をお伺いした新名さん

『ホームレス』と聞くと大都市のイメージが強いですが、地方都市である岡山ならではの特徴はあるのでしょうか。

「岡山は、中国・四国・関西、どこに出るにしても交通の便が良く、西日本の交通のハブ的な立地です。そのためいくつか大手メーカーの下請け工場もあり、岡山で職を失ったという人もいるし、別の地域で職を失ってたまたま岡山に流れついたという人もいます」

毎週水曜日、岡山駅周辺の夜回りの様子。「はじめにこちらから『こんばんは、夜回りをしています』と声をかけ、食料をお渡しします。その時の反応を伺いながら、当事者の方と話をします」(新名さん)

「路上生活を考えると食を確保する場所や雨風をしのげる場所が必要ですし、仕事も探しやすい場所でなければならず、都市でなければ難しいところがあります。岡山市内はコンパクトな街でありながら必要なものは揃っていて生活しやすいし、他の地域へ移動もしやすい。また気候も安定しており非常に過ごしやすく、そういった点からは路上生活がしやすい場所と言えるかもしれません」

「人間らしい豊かな食の時間を」、おとな食堂「安楽亭」をオープン

活動を始めた当初の頃、岡山駅周辺の公園での炊き出しの様子。簡易的なものであっても、温かい食事を提供できるよう心がけていたという。写真からは、ご飯に温めたレトルトのカレーをかけている様子がわかる

炊き出しに関しては、団体の中で「果たしてこのやり方が最善なのか」という疑問があったと新名さんは話します。

「屋外で炊き出しをしていると、市民の方たちがあからさまに怪訝な表情をされたり、嫌がられるということがありました。『路上で恵んでもらっている人』という見られ方は、食事をもらう側も『俺たちは所詮こんな人間なんだ』とスティグマを背負うことになるのです」

「さらに食べるためには、ベンチなのか地面なのか、一旦どこかに食べ物を置かければいけません。あるいはその場で立ったまま、周囲の目を気にしながら、誰とも目を合わさず会話もなく、ただお腹を満たすために食べることになります。それを果たして『食事』と呼べるのかと。路上生活者は、食べ物を見つける場所を『餌場(えさば)』と呼びますが、食べる状況を考えた時、炊き出しも同じように『食事』ではなく『餌』になってしまうのではないかと思ったのです」

「『かわいそうだからあげる』というお恵み的なものでも、ただお腹を満たすものでもなく、食を通じて人間らしい豊かな時間を作りたい」。そう考えた時に、「食堂」というかたちに行き着き、2011年に子ども食堂ならぬおとな食堂「安楽亭(あんらくてい)」をスタート。生活困窮者に食だけでなく、入浴と洗濯のサービスも提供しています。

見た目にもおいしい食事が、本人の自己価値も高める

安楽亭のある日の献立。写真のガパオライス(ひき肉や野菜を炒め、ナンプラーなどで味付けしたタイ料理)のように、一風変わった料理を提供することも

「安楽亭では人の目も気にすることなく、立ったままでも寒いところでもなく、テーブルに食べ物を置き、ゆっくり食事を味わうことができます。さらにはスタッフやボランティアさんとも交流が生まれます。行きつけの大衆食堂のような感じで利用してもらえたら」と新名さん。

「ここに来れば自分のことを知っている人がいて、『○○さん』と名前で呼んでくれる。そのときにその人は『○○さん』であって『路上生活者』ではないんです。『同じ釜の飯を食う』ではないですが、一緒にご飯を食べる空間が、仲間という意識を生むひとつのきっかけにもなります」

安楽亭は築80年の古民家を改装した建物。おばあちゃんの家に来たような安らげる空間を意識し、照明などにもこだわっているのだそう

さらには、限られた食材の中でも調理のボランティアさんが工夫を凝らし、見た目もおいしい食事を心がけているといいます。

「手間ひまかけた料理を、安心できる空間で食べること。当たり前に聞こえるかもしれませんが、路上生活はこういったこととは無縁です。ここで食事することで、忘れかけていた人間らしい暮らしや感性を思い出したり気づいたりしてもらえたらと思っています」

「お腹がいっぱいになれたらどうでもいい、食べられたら何でもいい、どんな場所で食べてもいいのではなくて、人間らしい空間で『人として』大事にされることが、本人の中でも、自分の存在価値を高めるきっかけになると思っています」

「ホームレスは本人の責任」、果たして本当にそうなのか?

毎週水曜日には、安楽亭の庭で路上生活をしている方たちと共に野菜作りに精を出す。「収穫した野菜は炊き出しに使ったり、販売してその売り上げを安楽亭の運営費に充てたりしています」(新名さん)

「『ホームレス』は状態を指す言葉であって、その人自体を指す言葉ではありません」と新名さん。

「ホームレス状態にある人のことを『社会からこぼれ落ちた人』とか『自己責任だ』と批判する風潮がありますが、『ホームレス』はその時の状態に過ぎません。家庭の事情や個人的な事情、障害などを抱え、サポートもない中で必死に生きてきた人たちも少なくありません。努力してもなお、どうすることもできないこともあります」

「生まれた環境や病気、事故などで困難を抱えて生きていて、気がついたら路上に出ていた。それは『たまたまその人が不幸だっただけ』で済まされることなのでしょうか。果たして本当にそうでしょうか」

「路上生活を送っていると、みんな目線をそらして、自分のことをまっすぐに見てくれる人はいない。まるで透明人間のように扱われ、誰からも必要とされない暮らしはどのようなものでしょうか。『ホームレスであることを誇れる社会』は難しいかもしれない。だけど『ホームレスであることが排除されてしまう社会』は、僕は非常にこわいと思います」

毎週月曜日に安楽亭にて開催される茶話会「月曜の会」。「いろいろな立場の人とたわいのないコミュニケーションの時間を共有することで、路上生活を送る方が社会との関わりを継続できるようにしています」(新名さん)

「望んでホームレスになる人はいません。この世の中に不要な人はいないし、差別されていい人は一人もいません。人権とは、誰しもに等しく備わる、自由である権利です。だからこそ、その人がその人らしくあるための取り戻し方が大切で、その時に『一緒に悩んでくれる人がいること』が大事だと思っています」

「社会から排除され孤立した時、本人も深く傷ついているし、人と関わりを持つことを諦めたり、煩わしく感じたりしています。住む場所や就業といった物理的な支援も大切ですが、そこだけを成果とするのではなく、本人の気持ちの部分をどう回復していくかが非常に重要なのです。そのためには『何があってもあなたとつながっている。何かあったら助けにいくよ』という僕らの思い、覚悟を相手に伝えていかなければならないと思っています」

人間らしさを取り戻した、手作りのサンドイッチ

毎年お正月はおせち料理を作り、ご飯を食べに来た人たちをおもてなし。共に新年を祝う

これまで支援してきた中で、印象に残っている人を尋ねました。

「以前関わったAさんでしょうか。彼はもともと関東で測量の仕事をしていたそうです。ひとり親方で仕事のために地方も転々としたそうですが、60を過ぎたある日、ずっと暮らしていたアパートが代替わりで立て壊しをすることになって転居を求められます。その時に生きる目的を失い、『もういいかな。人生を精算しよう』と思ったそうです」

その後、手元に残ったわずかなお金で関東を離れ、岡山にたどり着いたAさん。しかし死にたくてもこわくて自殺はできず、「このまま緩やかに死ねたら」と、口にする一切のものを絶ったといいます。

「僕たちは夜回りの活動の中でAさんと出会っていましたが、関わりを拒まれていました。夜回りの際には少しでもお腹の足しになればとカップ麺をお渡ししているのですが、Aさんは生きるつもりがないので、全て周りの人にあげていたらしいです」

年末年始の連日の炊き出しに参加されているボランティアの方たち。たくさんの人たちが関わり、団体名の通り「絆」を築き上げてきた

「カップ麺とは別に、路上生活の方たちのことを考えて『ちょっとでも体にいいものを』『食欲がなくても食べられるように』と、野菜たっぷりのサンドイッチや具材たっぷりの炊き込みご飯のおにぎりをお渡しすることがあります。ある日、Aさんは手作りのサンドイッチを受け取りました」

「死ぬために何も食べないと決めていたのに、サンドイッチを見て、Aさんはつい一口食べてしまったそうなんです。その時に『なんて美味しい食べ物があるんだ』と。『こんなおいしい食べ物があるうちは死ねない。もう一回やり直そう』と思ったというのです。愛情のこもった手作りの食べ物を口にして『おいしい』と感じた時、Aさんは人間らしさやその感覚を取り戻したのではないかと思うのです」

「そこから僕たちとつながり、路上生活から抜け出し、後に就業先も見つかって関東に戻られました。Aさんにとって死ぬためだったはずの旅が、生き直すための旅になったんですね。そしてそのきっかけが、たった一つの、手作りのサンドイッチだったんです」

「このエピソードは、小さなことであっても、その人にとっては大きな価値で、人生をやりなおすきっかけにもなり得るのだということを教えてくれました。この活動は一期一会なところがあります。路上で出会う方が、来週も同じ場所にいる保証はありません。一つひとつの出会いを大切に、真心を込めて丁寧さの奥深くを突き詰めていきたいと思います」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「きずな」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

4/5〜4/11の1週間、JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が「きずな」へとチャリティーされ、安楽亭の食器購入のための資金として活用されます。

「心を込めて料理してくださるボランティアさんたちの思い、そのおいしさも器が後押ししてくれると思うし、自信をもって食べてみてと言える。いろどり豊かな食事を提供してもらったら、食べる側もうれしいです。作り手も食べる人ももっともっと豊かになれる空間を作っていけたらと思っていて、その時に器が力を発揮してくれると思っています」(新名さん)

「JAMMIN×きずな」4/5〜4/11の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はTシャツ(カラー:モスグリーン、価格は700円のチャリティー・税込3500円)。他にもスウェットやパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

コラボデザインには、器や食べ物、収穫した野菜を手に、肩を並べる動物たちを描きました。それぞれが居場所を感じ、誰も排除されず、自分のことも相手のことも大切にできるきずなさんのご活動や安楽亭を表現したデザインです。

チャリティーアイテムの販売期間は、4/5〜4/11の1週間。JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

路上生活者を排除せず、関係性を築き「人間らしさ」取り戻す支援を〜NPO法人岡山・ホームレス支援きずな

JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は350を超え、チャリティー総額は5,500万円を突破しました。

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