1988年から世界各地の病気や戦争、貧困などで苦しみ、心に傷を負った世界中の子どもたちのもとを訪れ、絵を描くことで「表現すること」の大切さを伝え続けてきたNPOがあります。子どもたちが描いた絵の展覧会や貸し出しなどで得た基金は、新たに支援を必要とする子どもたちに絵を描く機会を届けるために活用してきました。2018年、ノーベル平和賞にもノミネートされた団体の活動について、代表の方にお話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

世界中の子どもたちに、「表現の大切さ」を届ける

夢中になって絵を描く子どもたち。写真は2019年、岡山県真備町の小学校でのワークショップにて。「子どもたちは手や服が汚れることなど気にせず、全員が絵に夢中になっています。何を描こう、どうやって描こう…と先のことを考えて描いているのでなく、感じたままにその一瞬をアートにしている様子が分かります」

アジア・アフリカをはじめとする世界40カ国以上の国々を訪れ、災害、戦争、病気などで心に傷を負った子どもたちへ画材、絵本、文房具や必要な物資を寄贈する活動を33年に渡って続けてきたNPO法人「子供地球基金」。

「純粋な心で思いに忠実に生きることが、自分を、そして自分の周りの人たちを幸せにすることにつながる。絵を通じて、そのことを伝えたい」と話すのは、団体創設者であり代表の鳥居晴美(とりい・はるみ)さん(65)。

「子どもは『大人に与えられて生きていく存在』と思われがちです。しかしそうではありません。小さな子どもでも、すでに個人として考えや思いが胸にあり、一人の人間としてこの星に存在しています」

お話をお伺いした鳥居さん。「2015年のネパール地震直後にワークショップに訪れた時の写真です。夢中で絵を描く子どもたちの目はキラキラ輝き、地震の悲しみを忘れ笑顔を見せてくれました」

「紛争や飢餓、貧困、災害…、世界にはまだ、自由にのびのびと絵を描くことができる状況にすらない子どもたちがいます。その多くが、大人の勝手な都合やエゴが起因しているのではないでしょうか。その裏で苦しむ子どもたちの存在を、子どもたちの絵を通じて大人たちに伝えることも私たちの活動です」

「私たち一人ひとりには、はかり知れない力が宿っています。絵で表現することで、その力を子どもたち自身に存分に感じとってほしいということと、同時に、魂からあふれる自由な感性で表現された子どもたちの絵を見た大人が、そこから何かを感じとり、成長する過程で失われてしまった、自分が本来持っている純粋な力を呼び覚ますきっかけになってくれたらと願っています」

「あなたは、宇宙にたった一人だけのかけがえのない存在」

2016年、団体が設置した「キッズアースホーム ベトナム」で。「当時、約50人の子どもたちがホームで暮らしていました。美しい地球を描くワークショップを行いました」

日本国内の小児病棟や児童養護施設だけでなく、1986年に起きたチェルノブイリ原発後の旧ソビエトのウクライナ、2001年の9.11テロ後のニューヨーク、2000年以降紛争が多発したアフガニスタン、2015年の大地震後のネパール…、50を超える国と地域を訪れ、画材や必要な物資を届けながら絵を描くワークショップを行ってきた鳥居さん。

「窮地に追いやられてもなお誰かを思う、相手を思いやる子どもたちの優しさには驚かされます」と話します。

「ボスニア・クロアチアの紛争地帯には30回以上訪れています。訪れた病院で、爆撃によって頭の一部が飛ばされ、頭が陥没した小さな子ですら、私たちが笑顔を向けると笑顔を返してくれました。その時の衝撃は忘れられません」

紛争のあったクロアチアで団体が設置した「キッズアースホーム クロアチア」の子どもが描いた絵。「家族を爆撃で失い、孤独を表現した絵を描きました」

「2001年に殺傷事件が起きた大阪教育大学附属池田小学校では、心に傷を負った子どもたちのために何かできないかという教育委員会からの依頼を受けてワークショップを開催しました。クラスメイトが刺されて亡くなるというつらい思いをしたはずなのに、ワークショップの後、『心に傷を負った世界中の子どもたちのために使ってほしい』と、自分たちで募金活動をして集めたお金を、私たちに届けてくれました。6年ほど続いたでしょうか」

「地球上にまだ生まれて間もない小さな存在であっても、だからこそ宇宙とつながり、神性と共に生きる子どもたち。つらく大変な環境に置かれても、自分には力があるのだということ、自分は宇宙にたった一人だけのかけがえのない存在、祝福される存在だということを、どんな時も忘れずに心に持ち続けてほしい、そんな想いでワークショップを届けています」

活動のきっかけは、一枚の絵

子供地球基金の活動の原点は、35年近く前、当時4歳だった息子さんが描いた一枚の絵でした。

子供地球基金発足のきっかけとなった、鳥居さんの息子さんが描いた絵。「太陽と月が地球に緑と水をプレゼントしている絵です」

「息子の描いた、地球に緑と水をプレゼントする絵を見た時に『子どもの持つ純粋なやさしさこそ、地球を救っていくんだ』と感じました。地球温暖化や紛争、コロナの流行などによって、世界中の人たちが病み、大変になると誰が予想したでしょうか。しかし35年も前に、幼く小さな子どもが、地球に思いを馳せ、そこに起こることを懸念し、思いやる感情をすでに持っていたのです」

当時、息子さんの幼稚園を探していた鳥居さん。「いくつか見学したのですが、子どもたちは皆おとなしく先生の話を聞くばかりで、壁に飾ってある子どもたちの絵が、まるでハンコを押したように皆同じ絵であることが気になりました。100人いれば100人皆違うのは当たり前なのに、皆が同じように行動をして、同じような絵を描いている。違和感を覚えました」と振り返ります。

「私たちはそれぞれ、この地球にたった一人しかいない貴重ですばらしい存在です。生まれた時はきっとそのことを覚えていて、純粋でやさしく美しい力を持っているのに、大人のエゴや環境、親からの悪影響、混沌とした状況でどんどんその力が奪われてしまう」

「そんなふうにはしたくない。子どもたちの純粋なやさしさや想像の世界を拡げ、あなたは素晴らしい存在なのだということを実感して伸ばせる場所を作りたいと、1985 年、一人ひとりが自由に表現できるアトリエのような幼稚園を作りました。そこから、子どものような純粋な感性こそが、地球を再び愛のあふれる場所に変えていく鍵になると信じて活動してきました」

「指が一本あれば、大地に絵が描ける」

「太陽が地球を抱きしめている絵です。太陽にも心があり、地球を守ってくれているという意識、存在していることが当たり前と思わず、それに感謝する子どもの温かい気持ちが表現されています」

「たとえ筆や鉛筆がなくても、指が一本あれば、大地に絵を描くことができます」と鳥居さん。

「技術も要りません。最も原始的な方法で、しかし世界中の人がそれを見た時、言葉や文化、宗教の壁を超えて、直感的に何かを伝えることができる。それが絵なのではないでしょうか」

子供地球基金は、森美術館、サントリーミュージアムや国立新美術館、ロシアのプーシキンミュージアムやフランスのポンピドーセンターなど、世界各地で子どもたちの描いた絵の展覧会を3000回以上開催してきました。

「そこで集まったお金で、また新たに別の場所で支援を必要としている子どもたちに絵を描く機会や学びの場、暮らしの場を提供してきました。純粋な子どもたちだけが創り出すことのできる素晴らしい絵が、支援を必要とする子どもたちを救う基金となる。まさに”Kids Helping Kids(子どもたちが子どもたちを救う)”です。大人と同じことはできないかもしれない。だけど、子どもだからこそできることがあるのです」

「一人ひとりの感性を大切に、自由に描いてもらう」

スタッフの佐藤さん(右)と阿部さん(左)。2019年、東京世田谷区・玉川高島屋にで開催した展覧会で

各地で開催しているワークショップについて、スタッフの佐藤美来(さとう・みく)さん(31)、阿部友海(あべ・ともみ)さん(29)にも話を聞きました。

「子どもの表現を否定したり意見したりしないようにしています。たとえば太陽を青で描きたいという子どもに対して、『どうして青なの?』ではなく、『青の太陽、きれいだね』と声がけする。そのような感じです。ピンク色の空、緑の象…、子どもたちの表現は実に自由で鮮やかで、感性の豊かさを見てとることができます」(佐藤さん)

「子どもたちに自由に描いてもらうことを前提に、丁寧に会話するようにしています。緊張がほぐれてくると、笑顔が増え、好きなように表現してくれます。絵を描きながら、子どもたちが『実は最近、こんなことがあったんだ』とか心の中を話してくれることもあります。絵を通じて、親でも友達でもない私たちだからこそ、子どもの感じている繊細な部分を受け止められる空間を提供できたらと思います」(阿部さん)

「自分を信じて、人生をクリエイトする」

「自分の魂が喜ぶ状態を作り、自分の人生を、自分でクリエイトすること」と鳥居さん。今まさに、夢の一つであった「キッズアースギャラリー」を新たにロサンゼルスにオープンするために動いている

鳥居さんに、活動を通じて伝えたいことを尋ねました。

「大人も子どもも関わらず、『表現すること』の大切さをお伝えしたいと思っています。一人ひとりがかけがえのないすばらしい存在です。だから表現していいんだよ!表現することを恐れなくていいし、していくことが大切なんだよ、と」

「『周りがこうだから』ではなく、自らの意思で思いをかたちにすること。直感や興味の赴くままに、思いに忠実に生きること。思いのままに生きるための努力をすること。なぜなら、自分が幸せでないと他人を幸せにすることはできないから。そのために、主体的に人生を選択し、創り出していくこと。魂が喜ぶ状態を自分のために作ってあげること。自分の人生を、自分でクリエイトすることです」

「一瞬一瞬を生きる価値を創り出していくこと、つまり生きていることそのものが、壮大なアートなのではないでしょうか。『時間ができたら』とか『お金ができたら』という声を聞くことがあります。でも『○○したら』という条件をつけていたら、きっといつまでもその機会はやってこないでしょう。今この瞬間に、きっとあなただからこそ、できることがあると思うのです」

鳥居さんとご家族の皆さん。ご家族とともに過ごす時間は、大きな幸せだという

「最初は勇気が要るかもしれません。だけど自分を信じて一歩を踏み出した先に、壮大で素晴らしい世界が広がっています。そこで成功体験を積み重ねていく以外に、道はないのだと思います」

「たまたま縁あって生まれてきた、この地球という星に感謝しながら、自分もその一部として、この星で愛を育む意識というのでしょうか。世間体や周囲の目、見栄を気にして生きるのではなく、自分自身の心に忠実に、素直に生きた先に、自分だけでなく周りのものをも幸せにする世界が広がっていると思います。一人ひとりが自らを豊かに表現できる世界の先に、戦争や飢餓のない世界が、必ず訪れると私は信じています」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、子供地球基金と10/25(月)~10/31(日)の1週間限定でキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、子どもたちのための画材の購入や、絵のワークショップ開催のための基金となります。

「JAMMIN×子供地球基金」10/25〜10/31の1週間限定販売のコラボアイテム。写真はTシャツ(ブラック、700円のチャリティー・税込で3500円)。他カラーやパーカー、キッズTシャツ、エプロンなども販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、私たちのホームである大好きな星、地球を描くペンやブラシを描きました。この星に生まれた私たち一人ひとりが、ありのままに自由に、思いのままに自分を表現することが、地球をピースフルで愛あふれる場所に変えていく様子を表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

アートで地球を元気に。子どもたちの絵を通じて自らの命の輝きに気づき、「人生をクリエイトする」きっかけを〜NPO法人子供地球基金

山本めぐみ:JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は360を超え、チャリティー総額は6,000万円を突破しました。

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