コロナ長期化によって困窮する人が増えている昨今、LGBTをはじめとする「性的マイノリティ」と呼ばれる人たちは、社会の差別や偏見からより困難を抱えやすい環境にあるといいます。また既存の福祉制度の中では支援の対象を「女性」「男性」と性別で区切るケースが多く、当事者が安心して支援を受けられない現実もあります。LGBT当事者に特化して住まい支援を行う団体に話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

住まいを失っても、LBGT当事者が支援につながりにくい現実

東京都中野区で、貧困などにより住まいを失ったLGBT当事者のための個室シェルターを運営する「LGBTハウジングファーストを考える会・東京」。これまでに7名の入居者の新たな生活のスタートを支援してきました。

「『ハウジングファースト』とは、ホームレス状態にある人に対し、まずは住まいを確保し、安心かつ安定した状態で新しい生活をはじめようという概念です」と話すのは、事務局スタッフの石井竜太郎(いしい・りゅうたろう)さん(44)。LGBT当事者の場合、生活に困窮してもSOSが発信しづらく、支援につながりにくいという課題があると話します。

「本人がLGBT当事者であることをオープンにしていない場合、パートナーの存在や困窮に陥った経緯などを隠して相談をするので、少しずつ話がちぐはぐになって必要な支援にたどりつけないということがあります。あるいはLGBT当事者であることが一つの原因で家族と疎遠になっている場合、窓口で担当者から『家族に確認します』などといわれると、抵抗感を抱いて相談をやめてしまうとこともあります」

運営するLGBT当事者に特化したシェルター「LGBT支援ハウス」。「個室のシェルターなので、入居者のプライバシーは守られます」(事務局スタッフの石井さん)

また、既存のシェルターや自立支援施設などに入居したとしても、現状その多くは対象者を性別で分けているため、たとえば性別は男性だけど心は女性の人が、男性専用の施設で生活になじめなかったり周囲からいじめを受けたりということが起きてくるといいます。

運営スタッフの一人、生島嗣(いくしま・ゆずる)さん(62)も、「LGBT当事者は、非常に困窮した状況に陥っても『助けて』と言えず、ドロップアウトしやすい現実がある」と指摘します。

こうした状況を受け、さまざまな分野でLGBT当事者の相談を受けてきたメンバーが集まって結成された「LGBT ハウジングファーストを考える会・東京」。メンバーそれぞれの専門分野が活かされ、入居者の必要性に応じて住まいだけでなく社会復帰のための支援も行っています。

見えてこなかった課題がシンポジウムを通じ顕在化した

運営メンバーの打ち合わせ風景。「入居者さんとの面談内容の共有や入居希望の方からの相談などを主な内容として、定期的にミーティングを行っています」(団体代表・松灘さん)

活動のきっかけは、2017年に協同団体によって開催された「LGBT×貧困」をテーマにしたシンポジウムでした。

「世の中の無理解や差別を経験したことで、公的機関に相談することや、行政の福祉サービスにつながることが難しいLGBT当事者は少なくありません。このシンポジウムによって、潜在的には存在していた『LGBT×貧困』という問題が浮き彫りになりました」と振り返るのは、団体代表の松灘(まつなだ)かずみさん(51)。

「2017年当時、『LGBT×貧困』というテーマはかなり斬新だった」と生島さん。

「僕の場合は、HIV陽性者を支援するNPO『ぷれいす東京』で、『HIV×貧困』という相談を受けたことは何度かありましたが、LGBTに特化した貧困や住まいの支援はありませんでした。住まいに関して、現場で支援する人たちの間では『現状の制度ではカバーしきれていない、ジェンダーやセクシャリティに特化した支援が必要なのではないか』という課題意識があって、それがこのシンポジウムを通してはっきりとあぶり出されたというところがありました」

シンポジウム当日は当事者だけでなく福祉関係者なども含め250人を超える人が集まり、会場は熱気に包まれていたといいます。

「さまざまな事情や特殊な背景から困窮に陥り、それでも支援につながることが難しいLGBT当事者の問題を、自分たちの力でどうにかしなければならないという強い意志のようなものを感じました。それを見て『この問題をこのままにはできない』と思ったのです」

その後、有志が集まり「LGBTハウジングファーストを考える会・東京」として活動を開始しました。

■コロナ長期化により住まいを失う人も

メンバーはそれぞれ別の活動を行っており、そこでのそれぞれの経験や専門的な知識が活動に生かされている

これまでに支援した人や相談を受ける人たちは皆、それぞれに困難な事情を抱えているといいます。

「住み込みの仕事や社宅、別の施設などでゲイであることがバレて周囲から嫌がらせを受けたり暴力を振るわれたりして居場所を失った、同性パートナーのDVから逃れるために家を出たけれど行き場がないといったケースがあります」

「最近では、コロナが長期化し、ネットカフェやウィークリーマンションを転々としていたけれど、コロナの影響で仕事が減ったり失ったりして経済的に困窮してお金が払えない、住まいにしていたネットカフェなどの場所自体が感染拡大防止のために閉鎖して行く場所がないといった相談もあります」

では、過去にLGBT当事者で住まいを失った人は、支援がない中で一体どうしていたのでしょうか。

「カミングアウトしないで我慢したり、あるいは性産業がその受け皿となって、中に混じってなんとか生き抜いていたのではないでしょうか。初めてLGBTに特化した窓口を作ったところ、潜在的にあった問題が顕在化し、ニーズがあることもわかってきた。今後も引き続きさまざまな団体と連携しながら、当事者の仲間の支援が広がればと思っています」

■LGBTであることが困難をより大きくする

シェルター利用者との面談の様子。「利用者さんがリラックスしてありのままでお話いただけるよう、少人数で行っています」(石井さん)

「住まいを失う人たちの中には、精神疾患や発達障害を持っている方も少なくありません」と松灘さん。

「そこには少なからず生まれ育った環境の影響があります。ひと昔前は、今以上に同性愛は異常で変態だとされ、世間から偏見や差別の目にさらされていました。ゲイやレズビアン、バイセクシャルであることを親にカミングアウトしているのはたった2割というデータがあります。自分の性的指向を親に話せない、話しても受け入れてもらえない、拒絶される、あるいは自分の性的指向が原因で親から虐待を受けていたなど、幼い頃より家族と良好な関係を築けていない確率も一般の人に比べて高い傾向があるのです」

「家族や社会から受け入れてもらえないというところから、発達障害や精神疾患を発症するリスクが高くなる、あるいは障害や疾患が悪化するともいわれています。さらにそのことから貧困に陥るというリスクもまた、一般の人に比べて高くなるということがあります」

シェルターの物件探しの様子。「シェルターにふさわしい物件がないか探すのも重要な活動のひとつです」(石井さん)

「自分が周囲に受け入れられないという経験は、本人の自己肯定感も低くします。そうすると『困った時に周りの人に助けを求めても良いんだ』という意識が持てず、困窮してもSOSを発信しないまま、手のつけようもないような状況に陥ってしまう人も中にはいます」

「あるいは『LGBTであることがバレてはいけない』と差別や偏見を恐れ、困窮状態に陥ってもSOSを発することが難しいということもあります。LGBTだからという理由で、困窮した状況がさらに輪をかけてしんどくなってしまう、脆弱性がさらに強まってしまうということがあるのです」

一方で、「社会の偏見が強いために、当事者本人による自己嫌悪の問題もある」と指摘するのは、相談役の大江千束(おおえ・ちづか)さん(60)。

「私はレズビアンであることを公表していますが、電話やメールで相談を受けた際、『会ってお話をしましょう』と伝えると、相手からの連絡が滞ったり途絶えたりすることがあります。生身の当事者と対面することはすなわち、自分がLGBTであるということを嫌でも認めることになってしまうのではないか、自分がLGBTであることが受け入れられない、認められないという葛藤が、当事者にもあるのです。社会の差別や偏見の壁が崩れることで、当事者が抱える内面の壁もなくなったらいいなと思います」

一人ひとりの尊厳が確保され、誰もが安心して暮らせる社会を

お話を聞かせていただいた「LGBTハウジングファーストを考える会・東京」の皆さん。上段中央より事務局の石井竜太郎さん、前田邦博さん、中段左から生島嗣さん、松灘かずみさん、石坂わたるさん、下段が大江千束さん

差別や偏見に苦しみながら誰にも相談できず、一人で悩みを抱えて苦しむLGBT当事者も少なくない中で、「相談やアドバイスができるリソースがあれば、その人は地域で孤立せずに済むのではないか」と生島さん。

「それまではたった一人で悩み苦しんでいた人が、存在を認められ居場所を感じながら『ありのままの自分でいいんだ』と自己を肯定していくプロセスも含めて、その人の新たな門出、新しい一歩を支援できればと願っています」

「住まいを支援するということもそうですが、これまで苦しい思いをしてきた当事者の方たちが、『助けてと言うことで、誰かがサポートしてくれるんだ』という経験ができる場になれば」と松灘さん。

「僕自身、16年間一緒に住んでいるパートナーとの生活でちょっとした不便を感じることがあります」と石井さん。

「大抵のことにはもう慣れました。しかし普段からちょっとした鎧をまとって生き、ふとした時に不自由や社会との壁を感じます。鎧も毎日着ているとそれに慣らされてしまって、着ていることを忘れます。重い鎧をまとっている自覚のないまま不利な環境に身を置いてしまうということもあります。まずはこのような問題があるということを一人でも多くの人に知ってもらえたら。それが大きな一歩だと思います」

「性的マイノリティに特化したシェルターができたこと。これは総合的に見て、LGBTの人たちへのサポートが分厚くなったということがいえると思います」と大江さん。

「継続して活動していくことで、つながりや支援の輪をもっと広げていけたらと思います。このとりくみが一つのモデルケースとなって、全国で困窮した当事者を支えるしくみ、LGBTフレンドリーな施策や施設が広がっていくことを期待しています」

シェルター運営を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「LGBTハウジングファーストを考える会・東京」と5/31(月)〜6/6(日)の1週間限定でキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が「LGBTハウジングファーストを考える会・東京」へとチャリティーされ、シェルター運営のための資金として活用されます。

「JAMMIN×LGBTハウジングファーストを考える会・東京」5/31〜6/6の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はTシャツ(カラー:ホワイト、価格は700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもスウェットやパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、さまざまなかたちの窓と、そこから見えるライトを描きました。社会に生きる一人ひとりが自分らしく、のびのびと安心できる住まいで暮らす様子を表現しています。それぞれのライトは、安心した住まいがあることで、その人の人生が豊かにいきいきと輝く様子も表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

住まいを失ったLGBT当事者を「仲間」で支える〜LGBTハウジングファーストを考える会・東京

山本めぐみ:JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は350を超え、チャリティー総額は5,500万円を突破しました。

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