今年、ウクライナの人たちが国外に逃亡する姿に心を痛めた方も少なくないのではないでしょうか。今から70年以上前、同様に祖国を離れ、しかし未だ故郷へと戻れていない人たちがいます。現在、全世界に570万人いるといわれているパレスチナ難民。仕事や収入、生活が十分に保障されておらず、先の見えない難民キャンプでの生活。最近ではコロナやロシア・ウクライナ情勢による影響も出ており、厳しいものであるといいます。(JAMMIN=山本 めぐみ)
1986年より、パレスチナ難民の子どもたちとその家族を支援
NPO法人「パレスチナ子どものキャンペーン」は、1986年の設立以来、中東地域の子どもと家族に焦点を当て、彼らの生活向上のための支援を続けてきました。
「団体を設立した1986年当時、内戦状態にあったレバノンでは、パレスチナ難民キャンプで虐殺が起こり、人々が飢えに苦しんでいました。その際、日本から食料や衣類、靴などの購入資金を集める募金のキャンペーンを行ったのが活動のスタート。そのために団体名に『キャンペーン』とついています」と話すのは、海外事業部レバノン担当の田浦久美子(たうら・くみこ)さん(37)。
「その後、難民キャンプの中に子どもたちの居場所を作ったりと活動の輪を広げ、36年経った現在も活動を続けています。レバノンの難民キャンプについては、もう何十年も前にレバノンに逃れてきてきた方たちに加え、その子ども、孫の世代も生まれ、いつかルーツである故郷に帰る日を切望しながら、生まれも育ちもレバノンの難民キャンプという人も増えてきました」
難民として、制限のある生活を強いられる現実
「レバノンで暮らすパレスチナ難民は市民権を持つことができず、レバノン人と同じ医療や教育、福祉のサービスを受けることができません」と田浦さん。
「土地や財産を持ったり、医師や弁護士、タクシー運転手といった複数の仕事に就くことも許されていません。国連のUNRWA(国際連合パレスチナ難民救済事業機関)という組織が、教育や医療のサービスを提供しています。経済的に余裕があればレバノンの私立病院に行ったりすることもできますが、そのようなケースはほとんどありません」
しかしUNRWA自体、ここ何年か資金不足に悩んでおり、支援が十分に行き届いていない現実もあるといいます。
「最近のウクライナ情勢で、国外に逃れる方たちの様子を皆さんもテレビなどでご覧になっていると思いますが、パレスチナ難民の方たちも、最初は『すぐに自分の家に帰れるだろう』と、必要最低限のものだけを持って国外へと逃れたという話を聞きます」
「しかし難民としての生活は何十年も続き、今なお故郷に戻れていません。居住する家も、最初は簡易テントなどだったのが、コンクリートの建物になっています。レバノンの首都ベイルートにあるキャンプでは、人口増加に伴い限られた土地の中に建物が建て増しされ、電線と排水管が絡み合い、雨が降ると感電するような劣悪な環境です」
「ほとんどの難民が貧困ライン以下での生活をしています。また、パスポートを持つこともできません。つまり、違う国に行って仕事を見つけるとか、進学するといったことは非現実的で、希望を見出しにくい状況が続いています」
レバノンの状況が悪化し、
難民を取り巻く状況はより脆弱に
2019年、レバノンが経済危機に陥りました。危機的状況が重なり、パレスチナ難民はより一層過酷な状況に置かれています。
「経済危機やコロナの感染拡大が起こる以前からさまざまな制限が課せられていましたが、それでもなんとか日雇いの仕事や国連機関、NGOの支援で家族を養うことができたし、子どもたちは学校に通ったり、食糧を手に入れたりすることもできていました。しかし経済危機やコロナ禍によって、レバノンの国全体が危機的な状況に陥っていく中で、難民に対する風あたりがかなり強くなってきています」
「国連機関の支援も、以前と比べて回数や金額が減っています。もともと脆弱な状況にあった難民の方たちが、近年の情勢を受けて、より弱い立場に追いやられてしまっているということです」
さらに2020年、ベイルート港で爆発事故が発生。港にあった食糧貯蔵庫が使用できなくなってしまいました。そのため小麦の輸入、流通と主要な食品であるパンの生産の供給にも大きな影響が出ているといいます。
このような状況の中で今、レバノンで公共の電力が使えるのは1日たった2〜3時間。今後は水の供給の問題も深刻になってくるのではないかと田浦さん。
「水の汲み上げに必要な電力を確保することも難しい。発電機に頼ることもできますが、それを動かす燃料も輸入に頼っており、価格が高騰している今、難民の方たちが買うのは難しい状況です」
八方塞がりな中でも、
「思ってくれる人がいる」ことが小さな希望につながる
「『先が見えず、もう限界だ』という声を聞きます」と田浦さん。
「今日よりも明日は良くなる、その希望が少しでも見出せるのであれば、『今日をがんばろう』という気持ちになれます。しかし状況がよくならず、避難生活や今の苦しい生活があとどのぐらい続くのか、どうなっていくのかという不安に苛まれて、ストレスから心身を病んでしまう方も少なくありません」
現地の支援団体と協力しながら、パレスチナ難民の心理サポートにも力を入れているというパレスチナ子どものキャンペーン。
「ここ3年、世界中がコロナの感染拡大で大変な状況だった中、現地のスタッフがパレスチナ難民のお宅を訪問する際に聞くのが、『自分たちの状況は悪くなる一方だが、見捨てられたような気持ちになる』『みんなに忘れられてしまった』と」
「現地のスタッフが訪れると、『日本には気にかけてくれる人がいるんだ』とか『遠い日本から、気にかけて応援してくれる人がるんだ。嬉しい。ありがとう』と涙されることもあると聞きます。そういう話を聞くたび、彼らへの支援を続けていくという姿勢を伝えていくこともまた、彼らにとって何かしらの希望につながってくれたらと思います」
「人は、一人では生きていけない。助け合いのバトンを、未来へ」
田浦さんに、これまでの活動の中で印象に残っている出来事を尋ねました。
「コロナ禍になってから現地に行くことはできていませんが、2017年に出会った一人の女の子が印象に残っています。彼女はお父さんとお母さんを目の前で殺され、シリアからレバノンに逃れ、姉・弟とともにおじさんとおばさんのところに身を寄せていました」
「トラウマを抱え、最初は誰とも目を合わせようとせず、口を開くこともありませんでした。けれど何度か訪問を重ね、学校に通ったり心理サポートを受けたりしているうちに、少しずつ心を開いてくれるようになりました。最後に彼女のところを訪問した時に、『学校の勉強が楽しい。こんな授業があってね…』と笑顔で話してくれた姿が印象に残っています」
「私たちには想像もできないようなつらく苦しい出来事を経験し、それでも周囲の人たちと関わり、支援を受けながら成長し、未来への希望を見出して生きる姿に、こちらが学ばせてもらうことも少なくありません」
「レバノンで暮らすパレスチナ難民の方たちは、生まれながらにしてさまざまな制約があります。自由ではないことばかりです。その中で、それでも『いつか故郷に帰るんだ』という気持ちを、多くの方が持っています」
「じゃあ自分にできることは何だろうかと考えた時に、たとえ人生のひと時であったとしても子どもの成長やご家族に寄り添うことができるのであれば、それを続けていくことに意味があるのかなと思っています」
「レバノンにいるパレスチナ難民は決して『かわいそうな人たち』というだけではありません」と田浦さん。
「同じように地球で暮らし、おしゃべりが好きだったり食べるのが好きだったりアニメが好きだったり…、私たちと何も変わらない、『ふつう』の人たちです。『ふつう』の人たちが、争いを避けたがために難民になり、為す術もなく過酷な状況に陥っている。そのことに心を向けていただけたらと思います」
団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は9/12〜9/18の1週間限定で「パレスチナ子どものキャンペーン」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。
JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、団体の活動費として活用されます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインには、パレスチナの実りと大地、そこに対してパレスチナの人たちが抱く誇りと、諦めない強い意志、また豊かな未来を象徴するものとして、パレスチナの小麦、ブドウ、オリーブを描きました。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!
・「いつか故郷に」。70年以上にわたり故郷を思い続けながら過酷な状況下を生きるパレスチナ難民。人々の日々の生活に寄り添い、希望を届ける〜NPO法人パレスチナこどものキャンペーン
「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,500万円を突破しました。