全国には、23.9万人の不登校の中高生、4.2万人の高校中退、推計9万人の10代の無業者がいるとされ、また17歳以下の7人に1人が経済的に困窮した状況であるといいます。不登校や中退、貧困や家庭内不和、虐待、いじめなどの背景によって起こり得る10代の孤。未成年は支援の網の目からもこぼれやすく、セーフティネットにもつながりにくい現実があります。「10代の孤立を解決したい」と活動するNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)
「孤独を抱えた10代の若者が、イラク人質事件でバッシングを受けた自分の姿と重なった」
NPO法人D×P(ディーピー)。
「ひとりひとりの若者が、自分の未来に希望を持てる社会」を目指し、2012年より活動しています。
D×Pの創業者の一人であり、理事長の今井紀明(いまい・のりあき)さんは、2004年に起きた「イラク人質事件」の当事者。高校生の時に「子どもたちの医療支援をしたい」と紛争地だったイラクを訪れ、人質として拘束されてしまったのです。
人質から解放されて帰国した今井さんを待ち受けていたのは、「自己責任」「税金泥棒」や「頼むから死んでくれ」といった大きなバッシングでした。今井さんはPTSD(心的外傷後ストレス障害)になり、引きこもるようになりましたが、恩師や自分のことを否定せずに受け入れてくれた友人との出会いによって、再び「社会とつながりたい」と思うようになったといいます。
「今井が社会人になってからスタートしたのが、誰でも参加できて、互いに否定せずに夢を語り合う場です。私たちの活動の前身です」と話すのは、広報・ファンドレイジング部の熊井香織(くまい・かおり)さん。
「その後、『いじめや不登校によって、高校を中退する子が多い』という話を耳にしたり、実際に学校を中退したり不登校の10代の若者と出会い、『自己責任』と否定された自身の姿が重なって、『彼らのために、何かできることはないか』と活動をスタートしました。今日に至るまで、『否定せず関わる』ことを大切に活動しています」
10代の孤立を解決するために学校の中・オンラインで活動
「貧困や虐待など、さまざまな困難から孤立してしまう若者がいます」と熊井さん。
「生活のためにアルバイトをして、学業との両立が難しくなって中退したり、進学を諦めたり、あるいはそもそも十分に食べるものがなくて、気力や体力がなく、将来を描くことが難しかったり、引きこもってしまう子もいます」
「多くのケースにおいて、保護者からのサポートがほとんど得られず、働いて得たお金を保護者に取られてしまうケースもあります。日々を生きるのが精一杯な上に、学校に通わなくなると居場所もなくなり、どんどん孤立していってしまいます」
こういった若者たちの孤立を解決したいと、D×Pは学校の中での活動と、トークアプリ「LINE」を使ったオンラインでつながりをつくる活動をしています。
「学校の中では、定時制高校の中での居場所事業と、高校生がさまざまな大人と対話する独自プログラム『クレッシェンド』を行っています。オンラインでは、LINEで進路相談を受け付ける『ユキサキチャット』という事業を行っています」
「『クレッシェンド』では、大人の方が過去の経験や自分の考えを通して、生徒と対話する時間があります。生徒が『こんな生き方もある』『こんな考え方もあるんだ』と感じることもあります。団体スタッフだけだとどうしても世界に限りがあるので、さまざまな背景を持つ大人のボランティアさんに関わっていただくことを大切にしています」
「また、高校生が定期的に様々な人とつながることができる場として、居場所事業を運営しています。日々の雑談の中で相談が生まれることもありますし、必要な時には、サポートにつなげられる場所になっています」
「本人がやりたいと思ったことを、大事にできること。10代という大切な時期に、困難や社会の状況によって発揮できていないかもしれない可能性や選択肢を、広げられるようにしたい。ひとりひとりが希望を持てる社会を目指して活動しています」
オンラインの進路相談ではコロナ以降、食糧や現金の支援も
2018年からスタートしたLINEによる進路や就職の相談窓口「ユキサキチャット」。登録者は累計9千人を超えました。
「2022年に入ってからの新規の相談は、これまでで900人ほどです。『中退を考えている』『進学したいけどお金がない。どうしたらいいか』といった相談や、『親が学校に行けと言うけど、行きたくない』といったさまざまな相談があります」
「相談員から情報提供を行い、ひとりひとりに合わせて相談に乗ります。自殺相談や若くしての妊娠・出産など、専門的な内容になる場合は、その分野で専門的に活動されている団体におつなぎすることもあります」
さらに、新型コロナウイルスの感染か拡大し出した2020年5月からは、緊急支援として食糧支援と現金給付の受付もスタートしました。
「まずは目の前の生活の土台を支えることが大事。そこの安心感がないことには、次の一歩がなかなか踏み出せないからです。そこから、生活に困窮した若者からの問い合わせが一気に増えました」と熊井さん。
「サポートをした半数は、就職したり福祉サービスにつながったりと生活が改善したものの、なかなかどうしても改善が難しいというケースもありました。状況を細かく見てみると、親を頼れないだけでなく、障害を持っている、家族の介護があるなど、複数の課題を抱えていることも少なくありませんでした。長期的な支援が必要なため、場合によっては1年間の食糧支援を行える体制をつくりました」
「『自分でなんとかしないといけない』という自己責任のような雰囲気がある」
10代にして「親を頼れない」とは、どのような状況なのでしょうか。
「それぞれ状況は異なりますが、虐待や貧困、ひとり親家庭などの背景があることが少なくありません。親に頼れないことを誰にも言っていないという子も多いです。学校にスクールワーカーが入っていたり先生に相談できたりするところもありますが、それでも言わないという子もいます」
「相談してきた若者を見ていても感じるのですが、『もっとがんばらないと』という雰囲気があるのかなと思います。客観的に見て明らかに大変な状況でも、『自分はまだまだがんばれると思っていた』『もっと他に大変な子がいると思うんで』という子もいます。背景には、『自分でなんとかしないといけない』という、自己責任のような雰囲気があると感じます」
「私たちがサポートしたAさんは、児童養護施設で育ち、18歳で施設を出てからは社員寮のある会社で働いていました。しかし体調を崩して退職し、社員寮も出なければならなくなりました。生活のためにアルバイトを始めますが、コロナ禍でなかなか思ったようには働けず、相談に来た時の全財産は8,000円でした」
「20歳のBさんがユキサキチャットで相談をくれたのは1年前です。親との経済的なトラブルがきっかけでした。地方で暮らす彼女は、高校3年生の時、卒業を目前に学費が支払われていないことがわかり、進学を諦めて学費のためにアルバイトを始めました。しかし稼いだ6万円の給料のうち、4万円を親にとられてしまっていました」
「『親元から離れたい』と、家を出ることにしたタイミングで相談があり、食糧支援と現金給付でサポートしました。聞くと、生活のお金を工面するために服などを売っていたそうです。地域にある相談室にも連絡をしてみたものの学費の相談には応じてもらえず、『ユキサキチャットに相談する時も、返事がもらえるか不安だった』と話してくれました」
「誰かがそばにいてくれたという経験はいつか、何かにつながっていく」
「ここで出会う多くの若者たちが、否定された経験をしてきています。否定することは、本人の可能性をせばめてしまうことにもつながりかねません」と熊井さん。
「『こう思う』とか『これがやりたい』といった時に、その言葉の裏にどんな背景や価値観があるのか、それを探っていくこと。相談にのっていく中で、就職した、生活状況が改善したなど変化が見えることもありますが、目に見えては何も動かない時間もあります。そんな時間も大切。スタッフは『信じて待つ』ということも大切にしています」
「必ず、本人にとって良いタイミングがあると思っています。親との関係性や就職活動…、なかなか本人が動かないことにはどうしようもないこともあります。連絡が急に途絶えたりすることもありますが、ある時『進学先が決まりました』とか『夢に向かって一歩動き出しました』と連絡をくれたりする。そんな時は嬉しいですね」
「私が個人的に思うこととして、目に見えた劇的な変化はなくても、『困っている時に誰かがそばにいてくれた』という経験は、その先の人生で、経験としていつか何かにつながっていくのではないかということ。すぐにではなかったとしても、本人の希望につながっていくと信じています」
「10代は、いろんなことが経験できるとても貴重で大切な時間。それが経済的な事情をはじめさまざまな理由からなされないことがあります。大人と子どもの狭間で、未成年だからこそできないとがあったり、制度の狭間で抜け落ちてしまうようなこともあり、そういった若者を、私たちはこれからもサポートしていきたいと思っています」
10代の孤立を解決するための活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は11/21〜11/27の1週間限定で「D×P」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。
JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、保護者に頼ることができずに困窮する若者に対して、安心できる土台を整えるための食糧支援に活用されます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、いろんなかたち、さまざまな表情の吹き出し。吹き出しは、ひとりひとりの心の声や選択肢を表すものとして描きました。
皆が違っていい、それぞれが意思や夢、選択肢を持って生きていける社会を目指していこうという思いが込められています。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・孤立する10代の若者に、豊かな人とのつながりと、未来を生きる力を〜NPO法人D×P
「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,500万円を突破しました。