昨年からの新型コロナウイルスの流行により、学校では授業のオンライン化が進みました。さらには文科省が唱えるGIGAスクール構想により、教育の現場では「(生徒)一人一台端末環境」が進んでいます。2011年より「学びをあきらめない社会へ」をミッションに、ICT(情報通信技術)を用いたオンライン学習サイトを運営、子どもたちに提供してきたNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「教育格差」を埋めるために、オンライン学習サイト「eboard」を開発・運営

オンライン学習サイト「eboard」の「チェックテスト」で満点をとり笑顔の子ども。できなかったことができるようになる。学びの瞬間は誰にとっても嬉しいもの

NPO法人「eboard(イーボード)」は、2011年よりオンライン学習サイト「eboard」を運営しています。

「パソコンやタブレット、スマートフォンなどの端末とネット環境があれば、いつでもどこでも学ぶことができるクラウド型の教材です」と話すのは、代表理事の中村孝一(なかむら・こういち)さん(34)。サイトで提供している教科は小学生の算数・理科・社会・漢字、中学生の数学・理科・社会・国語・英語、高校生の数Ⅰと多岐に渡り、約2500本の映像授業と7000問のデジタルドリル(問題)が用意されています。これまでに1000を超える現場で導入され、350万人を超える子どもたちが学んできました。

5〜10分ほどのコンパクトな映像授業とスモールステップで取り組むことができるデジタルドリルがセットになっている学習サイト「eboard」。学年や教科を超えて自由に学習することができる

「環境によって、子どもが学びをあきらめずに済むように」という思いから、個人や公立学校、NPO・ボランティア団体へは、サイトを無償で提供しています。さらに昨年からは、授業動画に日本語字幕をつけ、ろう・難聴の子や外国につながる子など、耳から情報を得ることが難しい子どもたちにも学びの機会を届けられるようになりました。

学生時代、塾講師のアルバイトをしていたという代表の中村さん。活動を始めたきっかけを、次のように振り返ります。

「当時、さまざまな背景から学習に困難を抱えている子どもたちと出会い、教育格差を目の当たりにしました。中には進学しても勉強についていけず中退したり、不登校になったりする子もいました」

お話をお伺いした中村孝一さん

「一方で、たとえ困難を抱えていても、しっかり向き合って関わると、子どもたちは学びを確実に自分のものにできる力を持っているということも体験しました。そうして夢や進路を切り拓いていく子たちにも出会いました。教える立場として、その部分を手伝えるということにすごくやりがいを感じたのです」

「さまざまな事情や背景、特性などから学校の授業についていくのが難しい子や不登校の子、学びたくても近くに塾がない子や、塾があっても経済的な理由から通うことが難しい子…。自分ひとりが関われる子どもの数にはどうしても限界がありますが、皆に同じように学べる機会を届けたいと思った時、より多くの子どもたちに学びの機会を届けられるICTに可能性を感じました」

「“自分で学ぶ”意識を身につけるサポートを」

「ICT・デジタル教材というと手軽に、楽に学習できるというイメージがあるかもしれませんが、eboardでの学習は、しっかりと学びに向き合う時間。動画を巻き戻したりノートをとったりと、自分のペースで、自分にあったやり方で学んでいきます」(中村さん)

「現在の日本には、学校の授業に一旦ついていけなくなるとそれをカバーする方法や場所もなく、そのままレールから落ちてしまうような社会的な構造がある」と中村さんは指摘します。

「学校の授業はある意味、席に着くと自動的かつ受動的に始まって、場合によっては何もしなくても終わりますよね。なんとなく学び、宿題があって、テストや受験があって…。そこでたまたま良い先生や良い教えと出会えた、親が教育熱心で塾に通わせてくれた、受験のシステムがたまたま自分とハマって良い大学に行けた…、レールに沿えたから成り立ってきたけれど、そこを少し踏み外したりボタンを掛け違えたりすると後がないような、そんな危うさを抱えていると感じます」

「ここを解決するために、それぞれの子どもが学びやすい環境をインターネット上に作れば、大きな力になれるのではないかと思いました。ただ教材を学ぶだけでなく、学びの本質的な意義をとらえ、その後の人生に生かせるスキルを身につけるためのサポートができれば」と中村さん。

「なぜ学ぶのか。この学びは必要なのか。本来はそういったことを考えたり向き合ったりする時間こそ大切なのですが、子どもたちが『自分の学びに向き合う』時間というのが、実は現在の公教育にはほとんどないんですよね。

たとえば家で読書をして、気になったことを調べて深掘りする。これは『自分の学び』です。しかし現在の学校の授業は、そのようにはなっていません」

eboardは「自分の学びに向き合う」ツール

これまでは放課後の学習支援や不登校支援の現場での利用が多かったが、近年、一人一台端末の整備が進み、普通の公立学校の授業の中で利用されることも増えてきたという。「個別にeboardを使いながらも、子どもたちが一緒に学び合うこともあります」(中村さん)

「『自分の学びに向き合う』ことがなければ、本質的な学びの意義を理解できず、生きていく上で必要なさまざまなスキルを身につけていくことも難しくなるのではないでしょうか」と中村さん。

「eboardは自分のペースで、『自分の学びに向き合う』ことができるツールです。自分でどんどん学べる子は、何もeboardにこだわらず合った教材をどんどん使っていくのが良いと思います。ただ中には、頭をどう使うのか、どうやって考えるのか、そのウォーミングアップが難しかったり、やり方がわからなかったりする子もいます」

「そういった時にeboardの映像授業は一つひとつ、基本に忠実に順番通り、シンプルにわかりやすく組んであるので、運動のハードルを低くする役割を果たせます。また、映像授業とデジタルドリルが連動するように組んであるので、ドリルを解いてわからない時は映像授業を見返したり、映像授業も一度見て理解が難しければ、何度も繰り返し見たりできます」

一人ひとりの学びを「人」が見守る

2018年、福岡で開催された研修会の様子。「eboardの使い方に関する講義だけでなく、先生が自分の現場について振り返り、子どもたちの学びの場をいかに作っていくかを考えてもらう時間も大切にしています」(中村さん)

eboardは学習サイトを運営する一方で、サービスをテクノロジーで完結させず、学習現場の「人」への研修にも力を入れています。その理由を尋ねました。

「学習サイトを作って運営すること、発信することだけが私たちの活動ではなく、実際に子どもたちに使ってもらって、変化があって初めて意義を持ちます。実際に現場にいる方たちを通じ、本当に必要な人に必要なかたちで届けられるようにという思いがあります」

「学習障害や発達障害がある子どもたちの現場で使っていただくことも増えてきましたが、こういう障害だから、こういう特性だからと線引きをすることはしません。それぞれに個性があり、その中で一人ひとりが自分のペースや自分の興味で学び進める様子を見守りながら、いかにその空間を壊さずにサポートできるのか。それは『人』にしかできない役割です。そこを研修でお伝えするようにしています」

また「『一斉に教える』スタイルから『個々人の学び』に頭をうまく切り替えてもらうための研修」でもあると中村さん。

中学生のeboardでの学習を、地元の高校生がサポート。「一緒に動画を見ながら、わからなかったところを確認中。『教える』のではなく、その子の学習を『サポートする』姿勢を、先生や支援者の方への研修でも大切にしています」(中村さん)

「学校の先生方は、一斉授業のかたちに慣れていて授業を教えることに関してはプロの方たちばかりです。でもeboardは一斉授業ではなく、オンラインで一人ひとり皆バラバラに自分のペースで学びます。その時、そこをどうコーディネートしていくかということです」

「良くも悪くも先生は『教える』ことが身についていて、子どもが自分で考えたり失敗したりする前に『こうやるんだよ』と教えてしまうところがあります。子どもが考えている時に、つい『それって違うんじゃない』とか『間違ってるよ』と言ってしまう。

限られた時間で学びを習得するのであればその形は良いのですが、『自分で学ぶ』というスキルを身につける時には、正直それは邪魔になります」

「間違って失敗して、『できていない』という結果を、本人に経験させてあげてほしいのです。それがあるから『どこが間違っているんだろう』『どうしたらできるようになるんだろう』と学びが自分ごと化して、その子自身のものになっていくのです」

「学びを、生きる力に」

一人一台端末の環境で、自由な進度で進む算数の授業。「全国の学校で環境が整い、これまでは特別だった『一人ひとりが自分のペースややり方で学んでいく』ことがどこでも実現できるようになりました。私たちのeboardの活動はもちろんのこと、子ども達の学び方や選択肢を広げていくことができる大きなチャンスが広がっています」(中村さん)

「今、そしてまたこれからの時代、『学校でどれだけ学ぶか』よりも『学校を出た後にどれだけ学べるか』が大切になっていくのではないか」と中村さん。

「これまでは学校で学んだ知識だけで社会に出て、会社に勤めて一生を終えることができたかもしれません。しかし今、世の中は常に変化の中にあり、膨大な情報で溢れています。知識や意識をアップデートしていかないことには、なかなか生き残っていくことは難しいと思います」

「そのような時代を生き抜いていくにあたり、『自分は学べるんだ、学んでいくんだ』という自信や姿勢を、失わずに持ち続けてほしい。学びを学校や塾だけに依存してしまうと、いつしか自分で考える姿勢が失われ、そこから抜け出せなくなってしまう。そうではなく、自由に生きていくために、学びを自分の武器として身につけていってほしいと思っています」

「人も関わりながら、学び方や学びへの姿勢、学びと向き会う最初の第一歩を踏み出すところをeboardがサポートできれば。必要な一人ひとりに学び直しの機会を届け、それぞれに『これが自分の学びなんだ』『自分はこうやって学ぶんだ』というその人ならではの学びの色やかたちを創出する、その手助けができたら嬉しいです」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、eboardと7/19(月)〜7/25(日)の1週間限定でキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円がeboardへとチャリティーされ、オンライン学習サイトを通じた学習機会を一人でも多くの子どもたちに届けるため、オンライン説明会の開催や、フリースクールや学習支援団体への研修・サポートに必要な資金として活用されます。

「JAMMIN×eboard」7/19〜7/25の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はTシャツ(ブラック)、700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもスウェットやパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、それぞれに好きなものを手に歩く動物たちの姿を描きました。一人ひとりが興味関心を学びの力に変え、それぞれのペースで人生を力強く歩んでほしいというメッセージを表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

貧困、地域の格差、不登校…。環境に左右されず、どんな子も学びをあきらめない社会へ。ICTと人の力で「学びと向き合う」機会を届ける〜NPO法人eboard

山本めぐみ:JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は360を超え、チャリティー総額は6,000万円を突破しました。

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