全国の小中学校における不登校児は19万6,127人(文部科学省「令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」)。不登校傾向にある子どもたちは、この数の約3倍だと言われています。「活動に子どもたちを合わせるのではなく、子どもたちに活動を合わせるオーダーメイドのサポートがしたい」。滋賀で、フリースクールなど子どもの居場所を運営するNPOがあります。(JAMMIN=山本めぐみ)
不登校の子どもたちを対象にしたフリースクールを運営
滋賀県大津市を拠点に活動するNPO法人「あめんど」。発達障害や不登校の子ども・若者への学習支援や生活支援、体験活動や就労準備支援などを通し、子どもが安心して一歩前へ踏み出せる支援を行っています。
「活動の柱となるのは、主に小中学生を対象としたフリースクールの運営です。学校に通うことが難しい子どもたちに、それぞれに意味のある時間を過ごしてもらう場です」と話すのは、代表であり、スクールソーシャルワーカーの恒松睦美(つねまつ・むつみ)さん(54)と、理事の恒松勇(つねまつ・いさむ)さん(55)。
「不登校の子が毎日ここに通ううちに、だんだん元気になってきたからと利用回数を徐々に減らして学校生活に戻っていったり、あるいは月・水はフリースクールで火・金は学校、木曜日はお休み、といったふうに、自分の心と体が疲れないバランスをとりながら一週間の過ごし方を工夫したりする子もいます」
「不登校の背景の一つである発達障害のある子どもたちは、感覚過敏や多動傾向などによって、学校に朝から夕方までいるだけで、膨大なエネルギーを費やしてしまうことがあります。授業中にずっと席に座っていることが難しくなって、ウロウロして他人と違う行動をしてしまう。どうしても集団環境に馴染みにくいというところがあります」
「ここは居場所として、少数の人と関わりを持ちながら有意義に活動できる環境。午前中は主に学習と、掃除、食器洗い、畑の水やりや草抜きといったちょっとしたお手伝いをしてもらったりもします。午後はカードやボードゲームで遊んだり、外遊びや散歩をしたり、おしゃべりをしたり‥。小集団の状況に合わせながら、子どもたちと関わるようにしています」
一人ひとりが肩の力を抜き、自然体でいられる環境を
2005年から発達障害のある子どもへの支援を行ってきたお二人。
「関わりの中で『えぇ!そこ?』というような普通とは違うこだわり、ユニークな着眼、感覚、思考、発想に触れ、私の既成概念の枠を越えさせてくれるようなたくさんの学びがありました」とこれまでの活動を振り返ります。
ここ15年ほどで発達障害の認知も広がり、発達障害のある子どもへのアセスメントなどもいろいろと出てきていますが、「私たちが大切にしているのは、『この特性にはこの対応』という知識とスキルのマニュアル化だけでなく、子どもたち一人ひとりが、肩の力を抜いて自然体でいられる環境調整」と話します。
「作物の成長に例えるなら、種には発芽して成長する力が備わっていて、それには畑の環境が大事で、日光や水が与えられ、それぞれに違う季節を過ごします。人としての成長過程も、これと同じじゃないかなと思います」
「たとえば周囲が気になって集中できないという子の場合、個室に移動したり、パーテーションで視界を遮ってあげたりすると課題に取り組めます。そこに本人が好きなキャラクターの絵を貼ることで気持ちが落ち着くこともあります」
「学習の場合、プリント一枚にたくさん計算式があると、それを見て『無理』と言うけれど、プリントを一問ずつ切り離してカードにし、一枚ずつ渡せばやり遂げることができるということもあります」
「空間的な環境調整もあるけれど、精神的、人的な環境をサポートする事も大切。その子が間違って信じている情報や価値観を整理してあげる。これは親御さんにも言えることで、お子さんの評価に対して悲観的な思い込みや決めつけがあるなら、その部分と向き合うこともあります」
安心できる環境の中で自分を知り、他者との関係性を築いていく
環境調整のためには、本人との関係づくりも非常に大切だと二人。
「自分のことが周囲に理解してもらえなかったり否定されたりする経験が続くと、本人はやがて『自分のことはしゃべったらあかん』とか『話さない方がいい』と思い、本当の自分の気持ちや感じ方を出せなくなります」
「関係性を築く中で、徐々に『この人だったら話を聞いてもらえる』『否定せずに受け止めてもらえる』と思えるようになると、ぽつぽつと『これほんまは苦手やねん』とか『ほんまはこうしたいねん』と話してくれるようになる。そうなれば支援の方向が見えやすくなる。いかにそういう関係性を作っていくことができるかが大切です」
関係づくりのためには、「安心できること」を土台にしているといいます。
「全ての活動は安心の上に成り立ちます。次に自信を持たせること。傷ついたり自信を失ったりしている子に対して、『思いやりがあるね』とか『力強い字を書くね』とか、別のものさしで再評価するような声かけをするようにしています」
「良いところを伝えつつ、『こういうところは苦手だよね』ということあわせて伝えていく。自分の得手・不得手を個性として受け入れて初めて、自分の輪郭が見えてくるところがあるのではないでしょうか。自分とは何であって、そして相手とは、自分にとって何であるのか。それを理解することがコミュニケーションの始まりであり、社会性にもつながるのではないでしょうか」
「引きこもりの状態にある若者の中には、ネットで見る世界の相手と自分を比較し、自己認知が正しくできていない子もいます。自宅にこもっていると自分と比較する相手がおらず、ユーチューバーや人気漫画家と比較して、『なんであんな人たちと自分とはこうも違うのだろう』と落ち込んだり悩んだりするのを見かけます」
「自分を客観視するには、『手ごろな他者』というのかな。身近な人たちと、ほどよい関係の中で過ごせる居場所があることが大事だと感じています。そのためには『何もやらなくても、ただいてくれたらそれで良いよ』という居場所ではなく、そこにいると誰もが成長できる居場所でありたい」
「『私たちは君たちのことを完全には理解できないけれど、少しでも理解したいし、その努力もしている』『だから君たちも、社会と向き合って他者を理解しようと努めてほしい』ということは伝えるようにしています」
「一人ひとりが本来持っている、オーガニックな力を信じる」
「不登校は、深層にある課題に対して、表層化している『症状』に過ぎません」と二人。
「一言で不登校といっても、その背景や課題、原因は本当にそれぞれ。それぞれが大きな問題になる前に、子どもたちが自分らしくいられる場所があることで、問題が表層化する前に、予防的な役割を果たせたらという思いもあります」
「今はここに通っているけれど、自信が持てるようになると、子どもたちは『これを試してみたい』とか『何だかやれそうな気がする』と、同じ環境では満足できなくなって、『次に行きたい』と自然に思うようになります。成長するポテンシャルを、必ず持っています」
「一人ひとりには『成長する力』がある。その力を信じて環境を整える。必要に応じてサポートし、後は自然な成長を願う。何年かあとを見据えて、本人はもちろん、ご家族も『実ったな』と思えるようなビジョンを描きたいと思っています」
「私たちが解決できることは、ほとんどありません。一方的に解決してあげるということも絶対ありません。でも、私たちとつながってくださった方が、言葉にせずとも抱えている思いや背景に寄り添って、常に一緒に考え、最善を尽くしたいという姿勢で課題に挑むこと」
「その時に、私たち自身の生活もまた、自分たちのことのためだけに生きるよりも豊かになります。世界が広がり、学ばせてもらうこと、楽しさや面白さ、喜びや感動が、本当にたくさんあります」
団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は10/31〜11/6の1週間限定であめんどとコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。
JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、不登校や引きこもりの子どもたちのためのコミュニケーションや学習、体験活動のための資金、生活困窮家庭への食糧支援、子ども食堂開催のための資金として活用されます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、一緒に育つさまざまな野菜と生き物たち。互いの個性を受け入れ、刺激を受けたり支え合ったりしながら、それぞれが等身大の居場所を見つけ、成長していく様子を表現しました。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・不登校や引きこもりの子どもたちの力を信じ、一人ひとりが成長するための支援を〜NPO法人あめんど
「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,500万円を突破しました。