「表皮水疱症」をご存知でしょうか。ものをつかむ、ぶつかる、擦れるといったちょっとした刺激で皮膚が剥がれ、そこに水疱ができてただれる10万人に一人の稀少難治性疾患で、現在根治のための治療法はありません。深刻な合併症を招く可能性があり、日々のケアが非常に重要です。「ケアは決して楽ではありませんが、病気と人間性は別物。難病でも強い人であってほしい」。当事者として患者会を立ち上げ、発信を続ける女性に話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

カバンを持つ、寝返りを打つ、
ちょっとした刺激で皮膚が剥がれる

表皮水疱症の子どもの手足。水疱は少しの刺激や摩擦で全身のどこにでも発症し、びらん(皮膚が剥がれた状態)になる。水疱とびらんの状態を繰り返すことで、手や足の指が癒着するのもこの病気の特徴的な症状だ

「表皮水疱症(ひょうひすいほうしょう)」は、ものをつかんだり寝返りを打ったりといった日常のちょっとした刺激で皮膚に水疱(水ぶくれ)ができ、剥がれてしまう難治性の皮膚疾患です。

「日常生活の中で、皮膚に何も触れずに生きるというのはほぼ不可能に近いです。刺激を受けた部分に水疱ができてめくれ、びらん(皮膚のただれ)になった状態が生まれてから一生続くというのがこの病気の基本的な症状です」と話すのは、2007年から活動する当事者団体「表皮水疱症友の会DebRA Japan(デブラジャパン)」代表の宮本恵子(みやもと・けいこ)さん(65)。

お話をお伺いした宮本さん。大好きな農園ファームレストランで

「日本には診断されている患者が1,000人、確定診断を受けていない方もあわせると2,000人ほどの患者がいるとされていますが、根治のための治療法は今現在なく、対処療法がメインになります。水疱は放置するとどんどん大きくなってしまうので、見つけたら小さいうちにすぐ潰しては、毎日ガーゼ交換をして清潔にします」

ケアに必要なガーゼや包帯、ハサミや注射針、テープや保湿剤、軟膏剤、アルコール綿、ドレッシング材(創傷被覆材)いろいろ。傷のある箇所や大きさなどに合わせ、形を変えたり切り込みをいれたりと固定しやすいように工夫する必要がある

「『水疱を潰してガーゼ交換をする』と聞くとそんなに難しくないように聞こえるかもしれませんが、皮膚はやけどでいうとかなり重症の状態(2度〜3度)です。さらに表皮水疱症患者の皮膚は治りも遅く、通常なら1週間ぐらいで治る傷口でもずっと膿んだような状態が続き、潰瘍になってしまいます。傷口から感染症にかかり、最悪のケースでは皮膚ガンになる可能性も高くなるため、1日の多くの時間をケアに費やす必要があります」

「さらに皮膚だけでなく、食道や口腔内もまた皮膚と同様に弱いのがこの病気の特徴。目の粘膜も皮膚の一部なので、まぶたが開かなくなる方がいたり、食道もちょっとした刺激で破けてしまいます。食べ物が喉を通らず食道狭窄になってしまうと口からの栄養摂取が困難となり、体力が衰弱する方も少なくありません」

合併症で皮膚ガンに。
そこで直面した「生き方」

ドレッシング材の固定と皮膚の保護、余計な刺激や摩擦を防ぐために、チューブ型の包帯や指用のグローブなどを使用する

短大卒業後、雑誌社や広告業界でライターやカメラマンとしてバリバリ働いていた宮本さん。いくつかの雑誌社を渡り歩いた後、大手の制作会社で商業広告に携わっていました。

「やりがいもあったし、バブルの余韻で勢いもあった」と当時を振り返る宮本さん。しかし44歳の時に合併症である皮膚ガンと診断され、仕事の契約をすべて解消しました。

「生まれてからずっと表皮水疱症を抱えていましたが、入院するようなことはなかったし、元気でした。だけどこの時に皮膚ガンと診断されて、医師の先生から『宮本さん、ガンがリンパに転移していたら、足を切断するからね』と言われました」

確定診断を受けた頃の宮本さん。「同時に皮膚ガンの告知もあり、数少ない専門医の先生との巡り合わせから即入院、手術となり、退院まで4ヶ月近くかかりました。写真は、1999年12月21日、院内のクリスマス会でポラロイドで撮ってもらったものです」(宮本さん)

幸い足の切断は免れたものの、同じ時期に兄と親友を予期せぬかたちで失い、「生きること」について考えさせられたといいます。

「両足の皮膚ガンを切除し、その際、せめて鉛筆を持てるようになりたいと、すでに癒着していた手の指を開く手術を同時に受け、4ヶ月ほど入院しました。それまでのハードな仕事が突然終わり、先が見えず、体力も気力も衰えていました。だけど1年ぐらいした頃、『このままではダメだ』と思って。『自分は何が好きかな』と考えて、美術館で学芸員の補助のボランティアをしました。そこでも本当にいろんなことを学ばせてもらいました。2007年に団体を立ち上げるまで約7年、そのボランティアをしていたことが、結果として次の患者会運営への良い経験となりました。」

「病気と人間性は別物だよ」。
同じ当事者に言われた一言

「同じ当事者として勇気をもらった、ニュージーランドのハンフリー君(左から4人目)、台湾のペイチンさん(左から3人目)、当時鹿児島県に住んでいた雄太くん(左から5人目)とレオ君(左端)。「みんな病気に前向きで、また自分自身の世界観を持つ強さと輝きがありました」(宮本さん)。2012年7月、5周年記念アジア交流大会で

では、宮本さんの自発性はどこで培われたものなのでしょうか。

幼い頃、「家庭の中で病気に対する深刻さはそこまでなかった」というものの、「毎日母親に皮膚のケアをしてもらい、私自身が母の物心両面での支配下にあった」と宮本さんは振り返ります。

意識が変わったきっかけは、短大で友人に恵まれ「病気とは関係なく私の良さを認めてくれて、病気のことをあまりに気にしなくて良いんだと思えるようになったこと」と宮本さん。外へ外へと意識が向くようになり、卒業後、就職のために親元を離れることを決意します。しかし、母親からの大反対を受けました。

「『あなたは結婚もできないし、一人では生きていけない』『ずっと面倒を見てあげるから、家にいなさい』と。母のことを反面教師に、そこからは母親から精神的に離れるためにも、なんでもチャレンジしてきました」

友の会に入会当初は小さかった子どもたちが、今は中学生、高校生、大学生、社会人として成長。写真は2019年12月、全国交流会。「友の会の活動にも積極的に協力してくれる貴重なメンバーたちと」(宮本さん)

「正直、いじめはあります。私は中学高校時代を振り返っても、あまり良い記憶はありません。だけどこの病気のせいで自信を失ったり、後ろめたさを感じたりしてほしくありません」と宮本さん。

「『ずっと私が側にいて、ケアをしてあげる』と思う親御さんもいらっしゃるでしょう。その気持ちもとてもよく分かります。でも人はいつか、自らの力で立って生きなければならない時がきます。だから、そのためにこの病気のことをしっかり理解して、ケアも自分できるようになって、周りから何かを言われてもめげずに、正々堂々と生きられる人になってほしいと思っています」

「表皮水疱症の世界的ネットワーク『デブラ・インターナショナル』の世界大会にこれまで5回参加しましたが、そのことも大きな気づきのきっかけとなりました。ある時、ニュージーランドの患者さんに『病気のことを悩んでもどうしようもない。それより、あなたは何がしたいの?』と言われてハッとしました。『病気と人間性は別物だよ』と。そんなことを言う人はそれまでいなかったですから、目からウロコでした」

「正々堂々と『おめでとう』を伝えたい」

宮本さんたちが届ける「ハッピーパッケージ」には、表皮水疱症の赤ちゃんのためのガイドブック等資料をはじめ、皮膚ケア用品、身にやさしい生活用品、身の回りの便利なグッズ、治療時に笑顔をつくる知育玩具などおおよそ30品目が盛り込まれている

「難病を持って生まれてきたことで、周囲から素直におめでとうと声をかけてもらえなかった」というある母親の話を聞いたことがきっかけで、「正々堂々と『おめでとう』と伝えられるものを贈りたいと思った」と、当事者団体として当事者とその家族のために、ケアに関する資料や肌に優しいアイテム、便利グッズを集めてギフトボックスにした「ハッピーパッケージ」を贈ってきた宮本さん。

「ハッピーパッケージは豪華すぎてびっくり、大切に使いますと、赤ちゃんと一緒の写真を送ってくれました。『自分の知らないものが盛り沢山の宝箱、本当に嬉しかった』と、ご家族で喜んでもらっています」(宮本さん)

「表皮水疱症だからといって何も特別なものは入っていません。肌に優しい、素材にこだわったタオルや、100円ショップに売っている小物を収納するプラケースなど、ケアするうえであると便利なものをチョイスして贈っています。あとはちょっとしたサンプル品ですね。『こういうのもあるよ』というお試し的な感じで贈っています。私たちにとって良いものは、普通の方たちにとっても良いもの。病気や年齢にかかわらず、ご家族で喜んで使っていただけるような『良いもの』や『自分ではなかなか入手しにくい高品質なもの』にこだわっています」

2019年7月、大阪で開催した学習会にて。「小児科の先生や訪問看護師さんも一緒に参加してくれました」(宮本さん)

「表皮水疱症を正しく理解して日々のケアに生かしてほしいということ、当事者としてあると便利なものを贈るということ以外にも、このパッケージには『孤独や不安を打ち消したい』という思いが込められています。『一人じゃないよ。あなたも安心してね』、そうやって声をかけられるのは同じ患者同士だからこそ。生まれたことを心から祝福し、『一緒にがんばろう』とエールを届けるものです」

「この病気は、痛いしかゆいし、皮膚のことでしんどい思いをする上に、ケアにも多くの手間と時間が必要で毎日が平穏ではいられません。だけどそこを除けば、それ以外のことは、他の人たちと何も変わらず、自由に楽しく過ごすことができます。夢と生きる気力を持って、自分の人生を謳歌してほしい。心からそう願っています」

表皮水疱症の子どもとその家族にエールを届ける活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「表皮水疱症友の会DebRA Japan」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×表皮水疱症友の会DebRA Japan」コラボアイテムを買うごとに700円が団体へとチャリティーされ、表皮水疱症の患者とその家族へ、ハッピーパッケージを届けるための資金として使われます。

「JAMMIN×DebRA Japan」11/16~11/22の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はスウェット(カラー:ブラック、価格は700円のチャリティー・税込で7600円)。他にもTシャツ(チャリティー・税込3500円)やパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、表皮水疱症のシンボルでもある、繊細な羽を持ちながらも美しく、軽やかに飛ぶ蝶の姿を描きました。“Never hide your wings”、「あなたの羽を、隠さないで」というメッセージを添えています。

チャリティーアイテムの販売期間は、11月16日~11月22日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

「病気と人間性は別物。難病でも強い人に」。難病「表皮水疱症」の子どもたちへ、エールを届けるパッケージ〜NPO法人表皮水疱症友の会 DebRA Japan

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は5,000万円を突破しました。

【JAMMIN】
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