ピーク時(18,564人、2007年)の2割にまで減ったという路上生活者の数。ここ2年はコロナの流行によって、職を失い、安定した住まいがなくネットカフェなどを転々としていたり、住まいはあっても生活に困窮しているという人が増えているといいます。雑誌「BIG ISSUE(ビッグイシュー)日本版」を通じた路上生活者の就業応援だけでなく、生活全般を支援したいと2007年に設立された「ビッグイシュー基金」。活動について、支援のあり方について、話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

生活困窮者の暮らしや住まい、居場所を支援

『ビッグイシュー日本版』を販売する販売者。コロナ禍では、路上の様子も大きく変わった。「ビッグイシューでは、販売者さんへのマスクや消毒液の提供など、感染対策を十分に取りながら安心安全な路上販売ができるよう、さまざまな工夫を行いました」

ビッグイシューは1991年にロンドンで生まれ、日本では2003年9月に『ビッグイシュー日本版』を創刊しました。ホームレス状態の人に路上での雑誌販売の仕事を提供し、売上の半分以上が収入になるしくみです。

NPO法人「ビッグイシュー基金」は、就業とは別に、ホームレス状態、生活に困窮する人たちの自立・自活のための総合的なサポートをするために2007年に設立されました。

有限会社「ビッグイシュー日本」は、雑誌を制作して販売者の販売の仕事をサポートし、僕たちはNPO法人として雑誌の販売以外のところ、暮らしや住まい、居場所などに関するさまざまなプログラムをつくっています」と話すのは、事務局長であり理事の高野太一(たかの・たいち)さん(41)、スタッフの野村拓馬(のむら・たくま)さん(24)。今年で設立15周年を迎えます。

路上生活者の数は15年前の2割にまで減少。一方で、安定した住まいがない人からの相談が増えている

お話をお伺いした、高野さん(写真左)と野村さん(写真右)

「ビッグイシュー基金が活動を始めた15年前、2007年の路上生活者の数は18,564人でしたが、2022年の調査では、その数は3,448人にまで減少しました。つまり、8割ほど減ったことになります」と高野さん。なぜ、路上生活者の数はそこまで減少したのでしょうか。

「市民のボランタリーなかかわりの結果、NPOや行政の支援方策が広がり、生活保護などの制度が利用しやすくなったという点は大きいです。実際、路上生活を送っているという方からの相談は、比率としては減ってきています」

「一方で、家はあるが食べるものがないとか、家のローンや家賃が払えない、病気をして住まいと仕事を一気に失ってしまいそうだなど、統計に表れにくい『目に見えないホームレス』、『住まいはあるけれど困窮している』という方からの相談が増えています」

2018年の東京都の調査では、安定した住まいがなく、ネットカフェなどで寝泊りする人の数は一晩で4,000人と推計されています。

「『新型コロナ・住まいとくらし緊急サポートプロジェクトOSAKA』で2022年10月に実施した食料配布・相談会には、566名の方が食料受け取りに来られ、40件の相談を受けました。女性や子育て家庭からの相談も多数ありました」

「以前は『住まいもお金もない』いう状態の方からの相談が主でしたが、最近は既存のホームレス支援の制度では対応しきれないような相談が増えていると感じます」と高野さん。

さらにコロナ禍以降、「個人でお店を経営されている方や風俗産業に従事している方からの『とにかく経済的に困ってしまった』という相談もありました」と振り返ります。

「コロナ前、仕事の中ではビッグイシュー誌を販売する人、ビッグイシュー販売者さんとの関わりが割合として多かったのですが、新型コロナのパンデミック以降は、これまでに基金の現場で関わることのなかったような方たちからの飛び込みの相談も増えました。」

「ご相談を受けて、必要に応じて食料を提供したり、住む場所やすぐ働ける仕事、あるいは

生活保護制度につないだり…。緊急対応的な関わりが増え、『支援して、(関係性が)それで終わってしまう』ということも正直、少なくない状況です」

「その点で、ビッグイシュー基金では当事者の方たちの居場所やつながりづくりを大切にしていて、改めて、そのような場所があることの豊かさや大切さを再確認したりもしました」と野村さん。

「つながりや関わりはすぐに作れるものではありません。住まいや食料と違って、支援が目に見えやすいものではありませんが、コロナは自分たちの強みを、改めて認識する機会にもなりました」

「就労」だけがゴールではない。居場所やつながりを持ち続けるという「強み」

「ビッグイシュー基金が運営する『ステップハウス』に入居されている販売者さんとは毎月、利用者会議を行い、部屋の状況や日々の暮らし向きについての共有を行います。会議といっても堅苦しいものではなく、話が終わればみんなでご飯に行ったり花火をしたり楽しみながらつながりを継続しています」

「雑誌のビッグイシューをご存じで、すぐに仕事ができてお金が入るからと相談に来ていただくこともあります」と高野さん。

「もちろん『やってみましょう』となるのですが、コロナ禍では街頭での販売も売れ行きが伸び悩みました。有限会社では、販売者さんの直接の収入になる通信販売の仕組みを作って対応していますが、他にも方法はないかなという時には、生活保護などの制度利用や、連携団体のネットワークを通じて、住み込みで働ける仕事の情報提供をしたりもしていました」

「とはいえ、僕たちの強みは『生活に困った人たちとパートナーシップを結ぶ』というスタンス。『当事者本人のアクションを応援する』ことを基本にしています」

「多くの困窮者の支援において、支援の出口は『一般就労』に設定されています。制度もそのように作られていますが、『パターン的な自立を達成することで喜ぶのは誰なんだろう。誰が嬉しいんだろう』というのは常に考えさせられます。自立・自活のありようは単線的なものではないということを、意識しながら活動させてもらえていることは、自分たちの特徴であり、強みかなと思います」

毎月開催される「ビッグイシュー講談会」。「講談師である四代目玉田玉秀斎さんの講談に加え、部員が自身の経験を語る『当事者講談』を披露しています。時には『〇〇さんが頑張っているのを見てみたい』と別の販売者さんが見に来ることも」

「僕はビッグイシューで働くようになって4ヶ月ですが、この短い期間だけでも、スポーツや文化活動を通して、当事者の方たちがみるみる変わって行く様子を目の当たりにしています」と野村さん。

「当事者が3人集まれば、立派な『クラブ活動』として認められ、活動資金を補助しています。ここを通じて、意識せずとも人とのつながりが自然と生まれ、気づけば人と関わっているということがたくさん発生しています。当事者の皆さんが『ここがあるからがんばれる』という気持ちでいる姿を見ると、生きていく価値や豊かさはそこにこそあるのではないかと感じます」

選択肢を示しつつ、本人の意思を尊重する

大阪の街並みに詳しいHさん。「ご自身の常連のお客さんなどをお誘いして、歩こう会を主催しています。日程やルートまでHさん自身で決め、集客もHさんが行います。これまでに全129回の歩こう会が開催されました」

「僕たちは『セルフヘルプ』『自助型の応援』という姿勢を大切にしています」と二人。

「それは単純に、『自分で頑張って解決してください』ということではありません。人の手や制度の手を借りながらやっていくことも含めて、自分で環境を選んでいくことが大事だと思っています」

「何を選択しようとも、生活環境が変化する時はストレスがかかります。家に入ったり仕事に就いたりというのが必ずしもゴールではないし、楽になるという話ではないこともある。一人ひとりにあるチャレンジを、『それ良いですね、やってみましょう』と応援できる場所でありたいなと思っています」

「ビッグイシュー基金が運営する『あまやどりハウス』に入居している販売者のSさんは、自炊が大得意。そんなSさんのキッチンには、Sさんいわく『キャベツがふわふわするんですわ』というキャベツの千切り器が。『これ買うために今月雑誌販売頑張ったんですから』と嬉しそうに教えてくれました」

「支援者として『こうあったらスムーズに行くな』と思う時はあります。でも、一人ひとりの話を聞いていると、ご本人の中ではスルーできないこだわりやプロセスがあって、遠回りになることもある。結果『じゃあ路上生活しながら、一緒に考えましょうか』とか『今のままの生活を続けるのもいいですよね』という結論になることもあります」

「自分も含めて、社会に生きる一人ひとりが、その時々のテーマというか、自分自身で向き合わざるを得ないことがあって、そこにいつ、どうアプローチしていくかっていうのは、本人が選択すること。周りが『こうですよ』と言うことではないと考えています」

「ただ、自分もそうですが、考えすぎて身動き取れなくなることがある。なので『こんな選択肢もありますよ』という提案はします。何かあった時に『あの時の話なんやけど』と声かけてもらえたらいいなと思います」

「お互いが、いろんな世界を知るきっかけに」

コロナ禍では、これまでホームレス状態の方や市民との交流の場として実施していた「ホームレスクリスマスパーティー」を従来通りに行うことが困難となった。「2020年には新たな形として、大阪の扇町公園で食料や衣料の配布を行いました」

コロナ禍では、これまでホームレス状態の方や市民との交流の場として実施していた「ホームレスクリスマスパーティー」を従来通りに行うことが困難となった。「2020年には新たな形として、大阪の扇町公園で食料や衣料の配布を行いました」

長く、バンドのドラマーとして生計を立てていた高野さん。

「バンドを本業にしていた時、ただただ気楽だったかというと、そんなこともなかった。どんな人も『ひとつの世界』だけで生きるのはすごくしんどいのではないかなと思います。でも位相が少しズレれば、自分のことなんて誰も知らないわけなので。『価値観の異なる世界が並行して走っていることを、どれだけ意識できるか』は、誰にとってもすごく大事なんじゃないかなと思っているんです」

「困窮者した人が使える、『こんな時はこうする』というある程度のメソッドは社会にあるけれど、いろんな場所やコミュニティとつながって、いろんな世界や価値観に触れられる機会は、どれだけあってもいい。その時々でフィットするところを流動的に探したり、あるいはそこにとどまってもいいという社会が生きやすいのではないかなと思っています」

「その時に、市民の方の参加に大きな意味があります」と野村さん。

「『興味がある人だけが支援すればいい』と思われがちですが、たくさんの方が関わるからこそ、それだけたくさん世界が生まれていくんですよね」

2021年、初のオンライン開催となった「ホームレスクリスマスパーティ」の際の集合写真

「僕は学生時代、ホームレス支援に特に興味があったわけではないんですが、たまたま授業でビジネスモデルを聞いて興味を持ち、ビッグイシューでインターンをしてみたいと思ったんです。ある時、販売者さんと一緒に路上に立つことがありました。前を歩く人たちがチラッとこちらを見て何も買わずに通り過ぎて行く時、まるでにらまれているように感じたんです」

「『あっち側』と『こっち側』、同じ空間に、二つの世界があるように感じ、そこにある間を埋めることに携わりたいと思うようになりました。社会にある課題に対して、それが決して『誰かの世界』だけで起きているわけではなく、『自分の世界』で起きているという感覚はすごく大切だと思っています」

「自分の関心のある問題が解決しても、もしかしたらそれによって生まれる、あるいは大きくなる課題やそれに苦しむ人がいるかもしれない。それでは社会全体は良くなっていきません。同じ社会の構成員として、横に並び、肩を組んで、やっていこうという感覚が大切なのではないでしょうか」

「別の世界ではなく、皆、自分と同じ世界を生きているんだという感覚をもっとたくさんの市民の方たちに広げていくためにも、団体として、いろんな方に関わってもらえるような取り組みをしていけたらいいなと思っています」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は11/14〜11/20の1週間限定で「ビッグイシュー基金」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、ホームレス状態の人が生活再建の基盤にできる一時的な住まい(ステップハウス)の修繕費として活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、重なり合う本。一人ひとりの人生は、一冊の本に例えられます。いろんな時があるからこそ、それが人生。本のひとつを建物として描き、そんな中で交差する人々のつながりを表現しました。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

今年で活動15周年。ホームレスや生活困窮者へのサポートを通じ、「互いに世界を広げるきっかけに」〜NPO法人ビッグイシュー基金

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,500万円を突破しました。

ホームページはこちら
facebookはこちら
twitterはこちら
Instagramはこちら