DVや虐待の被害に遭っている人が一時的に避難できるシェルター。日本には現在、公的なシェルターと、NPOなどが運営する民間のシェルターが存在します。公的なシェルターは長期的な支援が難しく、そこで支えきれない女性や親子を支援するために、全国に100を超える民間のシェルターがあります。民間のシェルターのあり方について、シェルターを運営するNPOに話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

女性が親子で入れるシェルターを運営、自立をサポート

シェアハウス型のシェルターの個室の1室。「どの部屋も清潔感があり、きれいなお部屋です」

岡山で、DVや虐待から逃れた女性が親子で入れるシェルターを運営するNPO法人「オリーブの家」。「成人男性は除外されますが、親子であれば子ども同伴で入ることができ、入居の期間の縛りもありません。次の行き先が見つかるまで自立をサポートします」と話すのは、代表理事であり心理カウンセラーの山本康世(やまもと・やすよ)さん(58)。

シェルターを運営しながら、メールやLINEによる相談の受け付け、DV被害者へのカウンセリング、困窮している家族への食料品や生活用品の配布、子どもたちへの学習支援も行っています。さらに今、力を入れて取り組んでいるのが、民間シェルターのあり方についてだと山本さん。

シェルターの入居者に、時には家族のように寄り添う。写真右が山本さん

「日本には100を超える民間のシェルターがあるとされていますが、正確な数はわかっていません。シェルターとして国の明確な規定がなく、それぞれが独自に運営しています。各地の民間シェルターとつながり、意見交換や互いのノウハウを提供し合いながら、居住支援だけではない、本人の自立や子どもへの支援、シェルターを出た後のサポート、行政との連携など、シェルターとしてのあり方を探っているところです」

公的なシェルターには、さまざまな条件があり

困っていても支援が受けられない現実も

子どもの笑顔は宝物。シェルターで迎えた誕生日に、精いっぱいのおもてなし

民間のシェルターを規定する法律がなく、先進国の中でかなり遅れをとっているという日本。「民間のシェルターの必要性をわかってもらえるよう、国に提言もしていきたい」と山本さんは話します。では、公的なシェルターはどのようなものなのでしょうか。

「厚労省の管轄にある『婦人保護施設』です。婦人保護施設は、1956年に作られた売春防止法に基づき、戦後、職のない女性が売春に走らないように、一時保護のために各都道府県に設置された行政機関です」

「婦人保護施設の滞在は原則2週間とされており、子どもの年齢の制限がある場合もあるので、必ずしも親子で滞在できるわけではありません。また、配偶者が反社会勢力であるとか、外国籍である、子どもから暴力を受けている高齢の女性など、条件を満たしていないとされる場合には利用できません。そうすると、困っている当事者が行く場所がありません」

「シングル家庭で不登校気味の子どもたちの学習支援の様子です」

「やっかいなのは、婦人保護施設の運営や子どもの福祉は厚生労働省の管轄で、DVは内閣府男女共同参画局の管轄であることです」と山本さん。

「過去に5人のお子さんを連れた女性を保護したことがありました。一番上のお子さんは成人していて、下は中学生でした。そのようなご家族の場合、公的シェルターでは家族全員の滞在が認められず、お母さんは婦人保護施設、未成年のお子さんは児童養護施設、成人しているお子さんは制度上、施設には入れないので独立してくださいというかたちで、バラバラにならざるを得ないのです」

「親子でなんとか避難して、子どもたちと一緒にいたいと望んでいるのに、公的シェルターだとそれがかなわない。そこは民間シェルターが助けるしかありません。時代が変わり、家族のあり方や女性の困りごとも変化しています。どんな状況であれ、親子をまるっと助けるしくみが必要です。今はまだ、国としてその枠組みがありません」

肉体的なDVだけでなく、

経済的・精神的なDVが増えている

「アウトリーチで支援をしている経済不安を抱えていた妊婦さんに、寄付でいただいたオムツを渡しました」

シェルターに入居する人たちの背景を山本さんに伺いました。

「配偶者や家族からの暴力から逃れてきた方たちです。DVというと一般的に、肉体的な暴力のイメージが強いですが、人格否定、物を壊す、隠す、『子どもをどうにかしてやる』という脅しや行動制限など、精神的、経済的な暴力もあります。もちろん、肉体的な暴力もあります」

「目に見える暴力であれば警察が動き、証拠が残ります。暴力を振るった加害者が逮捕され、勾留されている間に逃れることができるし、弁護士がついて、離婚の成立も比較的スムーズに進みます。もちろん例外もありますが、肉体的な暴力はその後の道筋がつきやすく、解決が早いケースの一つです」

「一方で、夫が生活費を出さない、妻の名義で勝手に借金を作った、借金返済のために風俗で働かされる、日常的に罵声を浴びせるといった目に見えないDVは、証拠をどうやってとるかが非常に難しく、離婚までの時間がどうしても長くかかってしまいます」

「相談を受けていると、肉体的DVよりも、このようなDVが圧倒的に多いです。性的DVも、被害者が恥ずかしさから訴えないことが多々あります。また最近は、夫や息子、嫁など身内から暴力を受けているといった高齢者の相談も増えています。近くには入れるところがなかったと、遠い県外からの入居もあります」

虐待やネグレクトを受け、発達の問題を抱える子どもたちも

「シェルターで不登校、摂食障害を乗り越えた親子。新たな道を歩むことになり、スタッフや学校関係者とともに小さなあたたかい卒業式を行いました。幸せな思い出です」

シェルターには、親からの虐待から逃れて来る人たちもいます。「幼い頃から親の虐待を受け、『児童相談所に相談したけどダメだった』と連絡をくれて、保護した方もいます」と山本さん。

「18歳未満の場合、本人がどれだけ助けてと訴えても、児童相談所は本人だけではなく、必ず親と話をします。見た目がアザだらけでよほど暴力があることが明らかでもない限り、親権者である親が絶対権力なのです」

「親が『しつけのためにやっただけで、反省している』とか『子どもが精神的な病気で、勝手にそう言っているだけ』と都合よくその場を切り抜けると、本人のSOSは届きません。そのまま20代30代になり、意を決してやっと逃げてきた方もいます」

心理カウンセラーとして被害者と関わっている山本さんは、「長年の虐待は、本人の発達や人間関係、社会性に影響を及ぼします。虐待やネグレクト(育児放棄)などの環境で育った子どもたちの多くが、発達の問題を抱えていると感じます」と指摘します。

ある時、ネグレクトの家庭で育った子どもに「卵を描いて」というと、真四角の形を描いたことがあったといいます。

「その子の家庭は、お母さんがほとんど一日中家におらず、ご飯はいつもコンビニのお弁当が一つ、テーブルに置いてあるだけだったようです。お母さんが料理しているところを見たことがなく、四角の形、つまり卵焼きが、その子にとっての卵だったんです。一般的に私たちがイメージする丸い卵を完全に知らない、見たことがなかったのです」

「家庭で会話はなく、その子は周りの話に反応したり、うまく返すということができませんでした。毎日お風呂に入るとか歯を磨くということも教えてもらったことがなく、何日も同じ服を着ています。ネグレクトを受けた子どもの場合、社会復帰はその他の虐待と比べて遅いと感じています」

「自分のことを信じて。あなたは素晴らしい存在」

「お母さんが仕事の面接に行っている間、赤ちゃんをお預かりしました。知育玩具に興味津々です」

山本さんは心理カウンセラーとして、一人ひとりにどのようなサポートが必要なのか、見立てをして支援しています。

「誰が悪いのか、何が悪いのかという犯人探しではなく、なぜDVが行われたのか、背景に何があって、今、それがどう本人に影響しているのか、ゆっくり話を聞きながら分析し、原因を探り、解決法を見立てます。精神的な問題であればそこを、発達や障害の問題、病気であればそこをサポートしたり連携先に紹介します」

「DVや虐待の問題だけではない、他にも理由があるかもしれないうとことを意識して支援をしないと、支援する立場の人たちも『なぜ、これができないの』と、余裕を失ってイライラしてしまうことがあります。一人ひとりに合わせ、行政や他機関とも連携しながら、専門的な支援をする必要があります」

「DVや虐待を受けた人への物理的な支援はたくさんあっても、精神的な支援はまだまだないのが現状です」と山本さん。

「再被害に遭い、繰り返しシェルターに入る方もいます。でも最後は、自分で生きていかなければなりません。再び虐げられることがないよう、依存せず、自分の力で生きていく知識や知恵を身につけてもらえるような支援がしたいと思っています」

「自分の外ではなく、自分の中にある声を聞いて、ありのままの自分を認め、信じてあげることができたら、人は本当に望むものを手に入れることも可能だと思っています。しんどい立場にある方たちに『自分のことを信じて。あなたは素晴らしい存在だよ』ということを、もっと広く伝えていきたいと思っています」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、3/27〜4/2の1週間限定で「オリーブの家」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、シェルターに入居している女性や、シングルマザーとして子育てする女性とその子どもたちの生活に必要な物品の購入のために活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(左・700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、オリーブの葉を加えて空を飛ぶ鳩の姿を描きました。困難を乗り越えて、希望に満ちた新しい大地を見つけてほしいという願いが込められたデザインです。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

・「自分の声を聞き、信じて」。虐待やDVを受けた女性が親子で入れるシェルターを運営、自立を支援〜NPO法人オリーブの家

https://jammin.co.jp/charity_list/230327-olivenoie/

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は8,000万円を突破しました。

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