夫からのDVなどで家を出たいけれど、新しい住まいが見つからない。住まいを見つけたくても、保証人や初期費用などのハードルが高い。住所がないために、行政の支援が受けられない…。住まいの悩みを抱えるシングルマザーに対し、安全で快適な住まいを提供しながら、NPOとして「つながり」を届けるNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

他団体や他機関とも協力し「安心安全な住まい」を提供

住まい探しに困っているシングルマザーに案内する「LivEQuality物件」の居室。最寄り駅から徒歩圏内で子育てと仕事を両立しやすく、日当たり良好で明るいことが特長。母子家庭限定で家賃値引きをし、初期費用も事情に応じて相談できる

名古屋を拠点に活動するNPO法人「LivEQuality HUB(リブクオリティハブ)」。代表の岡本拓也(おかもと・たくや)さん(46)は、社長を務める「千年(ちとせ)建設」株式会社の物件を、希望するシングルマザー世帯に柔軟な契約条件で提供しながら、一方でNPO法人を立ち上げ、困りごとを抱えた女性が、前向きな気持ちで再出発できるようにと、他団体や他機関と協力して「つながり」を届けています。

「ビジネスかソーシャルかに振り切るのではなく、どちらも諦めず、両方をうまくつなぎ活用しながら、支援が必要な人にどこまでも丁寧に伴走するというしくみを、今後もっと広げていきたい」と岡本さん。

しくみとしては、NPO法人「LivEQuality HUB」で母子のつながりの部分をサポートしつつ、岡本さんが代表を務める「千年建設」株式会社で持っている物件を、必要に応じて賃貸しています。昨年度は電話やLINEで130件の相談があり、そのうちのべ10世帯が、立地等が本人の希望ともマッチしたため、所有する物件に入ったといいます。

お話を聞かせていただいた岡本さん(写真下段中央)、藤岡さん(写真上段左から二人め)。LivEQuality HUBのスタッフの皆さんと

「住まいに関しては、それぞれのご家庭ごとに事情やニーズがあります。住まいに限らず、悩みを伺いつつ、行政や他団体とも協力し、たとえば食糧や教育支援など、必要な支援を届けています」と話すのは、スタッフの藤岡よし乃(ふじおか・よしの)さん(27)。

外国人支援やDV支援、就労や生活支援等、それぞれの家庭が抱える課題に対して、専門性とノウハウを持つ他団体や他機関と連携しながら、伴走支援を行っています。現在は活動拠点である名古屋を中心に、70名以上の支援団体・支援機関の人とのつながりがあるといいます。

「連携してつながることで、できることが確実に増えます」と岡本さん。

「経済合理性や効率性が求められ、役割が細分化している昨今の社会において、人間関係は希薄になりつつあります。その中で孤独を感じている人も少なくありません。我々の活動はシングルの母子が対象ではありますが、『人と人とをつなぎ直す』という点で、今の世の中に必要な活動だと思っています」

住所がないことで、
必要な支援が受けられない

居住支援コーディネーターの神朋代さんは、自身も2人の娘を育てるシングルマザー。離婚を機に「住む家を追われるかもしれない」状況になった経験を持つ。「相談者が一人で抱え込まないよう、丁寧なヒアリングと必要な支援のコーディネートを行っています」

これまで、たとえばどのような家庭を支援してきたのでしょうか。

「外国人のシングルマザーの方で、配偶者からのDV、離婚調停前であるなど、複合的な課題を抱えている方がいました。夫のDVから逃れるために、幼い子どもを二人連れ、親戚の家を頼って他県から来たものの、日本語が流暢ではなく、また住所がないために、行政の窓口では支援できないと言われたそうです」

「日本では、まず『住所』がないと受けられるはずの支援が受けられないし、保育園に子どもを預けることもできません。子どもが預けられないということは、仕事に出ることもできません。そうすると収入も得られず、家を借りることができません」


「住まいという観点でいくと、低所得世帯が入ることができる公営住宅がありますが、人気でほとんど入ることができません。住所がないことで、たとえば仕事を見つける、行政の支援を受けるということができない。たまたまメディアで活動を見た行政の方から連絡をいただき、物件に入ってもらった家庭もありました」

「安心安全な住まいがあることが、
人を元気にする」

定期面談の際に手渡す食品や日用品、児童書などの「おすそわけ」を用意しているところ。「オフィスでの面談の場合は居住者さん本人に好きなものを選んでもらい、家庭訪問の場合は居住支援コーディネーターがそれぞれの好みに合わせて用意します」

「とはいえ、たとえ安全な住まいがあっても、そこで孤立し、孤独でいるとしたら、それは安心安全とはいえません」と岡本さん。「実は私も最初は、『気持ちの良い住まいを用意すれば、前向きに自立に向かっていけるのではないか』と思っていました。でも、それだけではなかった」と振り返ります。

「DVや虐待から逃げてきている場合、多くの方が、もともとあった人間関係、住んでいた地域の関係を断ち切って知らない場所へ来ているわけで、新しく来た土地では、つながりが何もありません。子どもとの生活があって、収入の不安もあるような状態で、自分から地域の輪に加わっていくような心の余裕を持てるでしょうか」

「たまに来て声をかけてくれたり、お茶を飲みに来たり、お菓子を持ってきてくれたりする人がいること、自分のことを気にかけてくれる、見知った存在があるということが、人を元気にするのだと痛感し、つながりの大切さを改めて感じました」

「一人ひとりの変化に立ち会える喜び」

月1回ほどの頻度で実施している定期面談。「雑談をしながら、日々の困りごとや心配ごとを聞き出していきます。お母さんが面談に集中できるよう、面談を担当する居住支援コーディネーター以外のスタッフが、子どもとじっくり遊びます」

支援している家庭とは、定期的にカジュアルな面談を実施し、生活の中での課題やニーズをヒアリング。生活基盤の安定に向け、必要な支援を届けているといいます。

「安心安全な、まずは物件としての住まいを提供するということ自体、行政としてもなかなかできない、難しい部分です」と岡本さん。

「民間のNPOとしてそこに取り組みつつ、さらに行政や他団体さんとの間をつなぎ、統合しながら、つながりも提供するということ。ひとつの企業やセクター、団体だけではなし得ないことに皆で取り組めているのは、すごく意味のある、とても良い事業だと思っています」

「気持ちの良い住まいにご案内した時に、お母さんが『私たち、本当にここに住んで良いんですか』とほっとした表情を浮かべられるんです。まず入り口として、安心安全な住まいを提供できているということを感じられた時は、本当によかったと思いますね」

「一人ひとりの変化に立ち会えている喜びは、それを見るたびに感じます。その人たちの『成長』というと語弊があるかもしれませんが、ポジティブな変化に立ち会えていること、それは安心安全な住まいと、スタッフや他の団体の皆さんの存在がなければ起きなかったことかもしれないと思うと、とても感動します」

「仲間と一緒に、より良い社会を」

バックパッカーで各国を回っていた学生時代の岡本さん。「バックパックを通して、様々な価値観を持った人たちと出会うとともに、今後の自分の人生の軸になる『ソーシャルビジネス』に出会いました」

ビジネスとソーシャル、両方をかけあわせた支援のあり方の背景には、岡本さんの思いがありました。

「私は小さい頃から国連で働くことに憧れがあって、大学時代に1年休学し、バックパッカーをして海外30カ国以上を周りました。バングラディシュでマイクロクレジットに出会い、ビジネスを用いて課題を解決するしくみに感銘を受けました」

「これがやりたい!と思い、会計士になってビジネスを学んだ後、専門性を活かしつつ、ソーシャルの世界にどっぷり身を置いていましたが、2018年に建設会社をしていた父が急逝し、悩み抜いた挙げ句、後を継ぐことを決意しました」

「世の中のおかしいと思うことに対して、ビジネスとソーシャルを使って解決を目指すプロセスそのものが好きだし、それが僕のやりたいことでもあるので、LivEQuality HUBをスタートしたのです」

「僕らの世代は80、90まで生きますが、とはいえもしかしたら明日死ぬかもしれません。スティーブ・ジョブズの名言ではないですが、人生は有限であって、今日がもし人生最後の日だとしたらどう生きるのか、本当に自分がやりたいことができているのかと」

「日中起きて活動している、一番良い時間を仕事に使っているとしたら、自分が心から大事と思えることにエネルギーを傾け、誠実に生きること。それが自分の人生を輝かせるし、この世に生まれてきた意味にもつながると思っています。とはいえ、一人でできることには限りがある。仲間たちと一緒に、社会に貢献していきたいという強い思いがあります」

信じ、挑戦できる循環を

名古屋市の母子世帯を対象に、認定NPO法人「おてらおやつクラブ」と共催で開催した「こどもえんにち」。「地域の支援団体・機関の方々、民生委員、大学生、研究者等まで、様々な人に関わっていただいて開催することができました」

志を同じくする仲間たちとともに、活動を続けている岡本さん。最後に、岡本さんにとって「可能性」とは何かを伺いました。

「『信じる気持ち』でしょうか。おもしろい話があって、ノミはすごくジャンプしますよね。あれは人間にすると300メートルぐらいのジャンプなのだそうです。ただ、ノミを30センチぐらいの箱に入れてしばらく置いておくとそのぐらいしかジャンプしなくなるんだそうです」

「それをもう一度、300メートルジャンプさせる簡単な方法があるというのですが、何かわかるでしょうか。…『300メートルジャンプできるノミと一緒にする』ことです。人の可能性は青天井で、実は果てしなくずっとずっと広がっている。そこに制限をかけているのはその人自身で、そうではないと気づいた時、人は挑戦できるんだと思います」

「人は毎日、ものすごい数の意思決定をして生きています。さまざまな外的な要因から、『自分にはできない』『私にはその価値がない』と制限をかけてしまっている方が、もう一度自分を信じて挑戦したくなるような環境があること。僕がやりたいのはそういうことです」

「さらに人は、ノミとちがってコミュニケーションをとれるわけですよね。『君ならできるよ』って言って、背中を押し合える。『これをやろうって言っちゃったから、やらないとな』とか『自分もサボっていられないな』と、お互いにエンパワメントする関係性や循環が、ここからどんどん生まれていくといいなと思っています」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、7/24〜30の1週間限定でLivEQuality HUBとコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、シングルマザー世帯の支援のために活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインは、広がる気持ちの良い芝生の上で、思い思いにくつろぐ動物たちを描きました。LivEQualityの活動とネットワークを通じて、ここでほっと一息、心から安心と安全を感じ、希望を見出し、生きる力を取り戻していく様子を表現するとともに、同じ志を持った仲間たちが、支援する側・される側を超えて、互いに影響を与え、豊かになれる社会を表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

・住まい探しに困難を抱える女性を支援。安心できる住まいとつながりの中で、生きる力を取り戻す〜NPO法人LivEQuality HUB

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は8,000万円を突破しました。

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