もうすぐ七夕ですね。毎晩、私たちの頭上で輝く星。ずっとずっと昔から、どんな人にも、どんな時にも、同じように等しく輝いてきました。「本物の星を見ることが難しい人たちにこそ、星空を届けたい」と、これまでに1000を超える場所を訪れ、プラネタリウムで星空を届けてきた団体があります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

病院や療育施設、支援学校など、さまざまな場所でたくさんの人たちに星空を届ける

出張プラネタリウムの様子。「7メートルのドーム内で、満天の星に包まれる子どもたち。ドームでのプラネタリウムが最も臨場感がありますが、天井投影やスクリーン投影などさまざまな方法で、星空・宇宙体験をしていただいています」

山梨を拠点に活動する一般社団法人「星つむぎの村」は、「すべての人に星空を」というミッションを掲げ、出張プラネタリウムや星空観測会、ワークショップなどのかたちで、いろいろな人に星空を届ける活動をしています。

「プラネタリウムというと、多くの方はドーム状の建物をイメージされるかもしれません。しかし学校や地域のホール、病院、子ども食堂など、映し出せる場所さえあれば、どこでも星空を見て、皆でシェアすることができます」と話すのは、共同代表の跡部浩一(あとべ・こういち)さん(60)と髙橋真理子(たかはし・まりこ)さん(52)。

お話をお伺いした跡部さん(写真左)と髙橋さん(写真右)

「病院がプラネタリウム」というプログラムでは、重い病気や障がいのために本物の星空を見ることが難しい子どもたちやその家族に星空を届けてきました。コロナ禍で病院訪問が難しくなってからは、天井に星空を映し出す機材を直接病院や自宅に送り、オンラインやオンデマンドで星空を届ける「フライングプラネタリウム」というかたちでプログラムを続けています。

星空を見上げることが、今を生きる実感につながる

フライングプラネタリウムを初めて体験した「しょうちゃん」とお母さん(2019年撮影)。「満天の星が映し出される時、しょうちゃんのお誕生日星座であるおとめ座が映し出される時、宇宙に飛び出していく時…、お母さんによると、『ふだんはほんとに喜ばないと声を出さない』はずのしょうちゃんが、何度も声を出して嬉しそうにしていたそうです」

「きっとどんな人にも、生きていくために星空や宇宙が必要なのではないか」と髙橋さん。

「138億年前に宇宙が始まり、時が重なって今、ここに自分が存在していること。数千億ある銀河系の中の、太陽を中心にした地球という星に生まれ、出会い、生きている奇跡。星空を見上げることは、自身の存在やいのちの奇跡、尊さを感じることでもあると思います」

「世界的なコロナの流行やウクライナでの戦争…。分断の時代にあって、星空を見上げたからといって全てが解決するわけではありません。だけど、『とにかく星を見ようぜ』じゃないけれど、人種や世代や文化を超えて宇宙から地球をみる視点、遠くから自分を見つめる視点を持つことが、何か一つ、共に生きる社会への足がかりになるのではないでしょうか」と跡部さん。

「その時に、自分で動ける人は外で自然の星空を見て感じることができるけれど、病気や障がい、環境によってそれが難しい人もいます。こういった方たちに、たとえ直接見ることはできなくても、誰にも等しく輝く星空を届けたい。そこに大きな意味があると感じて活動をしています」

星を共に見上げることでフラットな関係性が生まれ、コミュニティとなった

特別支援学校での、7メートルドームプラネタリウムにて(2019年撮影)。「満天の星が映し出される時、お誕生日星座があらわれる時、宇宙に飛び出していく時、宇宙の果てから地球に帰ってくる時、そして朝を迎える時…、20~25分程度の短い時間の中で、子どもたちの驚きや感動、さまざまな感情が表出されます」

団体として星空を届けるだけでなく、星を通じた人とのつながりやコミュニティを大切してきた「星つむぎの村」。全国に200人いる「村人」と呼ばれる会員たちが、さまざまなかたちで活動に携わっています。

その原点には、髙橋さんが勤務していた山梨県立科学館のイベントから生まれたボランティアグループ「星の語り部」があります。

「山梨県立科学館では、『プラネタリウムを、市民の皆さんにいかに自分ごとにしてもらえるか。いかに主体的に関わってもらえるか』をテーマに、いろんな企画を開催していました。その中で、星空が好き、星や宇宙について語り合うことが好きという人たちが集まり、つながりやご縁が生まれていきました」

「そこに星があることで、たとえ初対面の方同士であっても、共通する言葉や共有できる世界を持つことができました。そうして人のつながりがどんどん広がっていきました。星には人をつなぐ力があるように思えるんです」

「地上を飛び出し、宇宙空間に出た時、私たちが最初に目にするものはこの美しい地球です。この小さな星に、皆でへばりつくようにして、あらゆる生命が共に生きている。ここに過去から未来まで、あらゆる人生がつまっているということに想いを馳せることができたら、この世界はもう少し美しくなるのにな、と」

「なぜ、そのような力があるのか。それは星が、『すべての生命にとって、共有の風景』だからだと思うんです。誰にとっても、どんな生き物にとっても、等しくそこにあり、等しく輝いている。これは圧倒的に、他のものとは異なる点です」

「星の下でコミュニティが生まれていった時、不思議とそこで紡がれていく関係性も、フラットになっていきました。自分が生まれた日、我が子が生まれた日、亡くなられたご主人と初めて出会った日…。思い出の日の星空を見た時、その星空の下で、参加者の皆さんが、自分の人生について赤裸々に語り始めるのです」

「プラネタリウムのプログラムには、宇宙の果てのようなところから、地球に帰っていくシーンがあります。それまではワクワクの宇宙旅行で、その場は見ている人たちの高揚感でいっぱいになるのですが、地球に帰る時には水をうったように静まりかえり、言葉通り皆、『吸い込まれるような』表情になります」

「プラネタリウムの中は暗いので、自分の顔や表情をまじまじと見られないからにしても、ここまで自分の人生のことを初対面の人に語るなんて、これは白い壁に囲まれた会議室では起こらないことだと思いました」

その後、さまざまな出会いから「星空が見たくても見られない人がいる。星空を待っている人がいて、かつ我々の星空を届けたいという思いがあるならば、やるしかない」と感じた髙橋さんたち。2013年、髙橋さんは16年勤めた科学館の職員を辞め、最初は個人事業として、その後2017年には法人を立ち上げ、星空を届ける活動を続けてきました。

入院中の子どもたちに星空を届ける「病院がプラネタリウム」

NICU(新生児集中治療室)で行ったプラネタリウムの様子(2019年撮影)

入院中の子どもたちやそのご家族に星空を届ける「病院がプラネタリウム」のきっかけは、山梨大学附属病院の小児科医である犬飼岳史先生との出会いでした。

「犬飼先生は、小さい頃の夢は天文学者というほど星が好きで、『病室でプラネタリウムをやったらどうだろう』というこちらの提案に、すぐに『やりましょう』と言ってくださいました。この出会いがきっかけとなって初めて病院に足を踏み入れ、入院中の子どもたちやその家族が置かれている現状を知ることになりました」

「重い病気のために一年も二年もずっと入院している子どもがいる。頭ではわかっていても、初めて出会う世界でした。プラネタリウムを開催した後に、『普段はあまり表情を出さない子が、星空を見てとても喜んでいた』といった感想も聞き、『自分に一体何ができるのか』を考えながら、後々の活動へとつながっていきました」

「病院がプラネタリウム」は、2014年1月から、髙橋さんの個人事業「星空工房アルリシャ」として始まった。写真は「病院がプラネタリウム」を初めて開催した長野こども病院にて。「子どもたちの『明日も来る?』という言葉が、胸にささりました」

「苦い経験もあります。余命宣告を受けた男の子のもとへ、訪問して星空を届ける予定でしたが間に合わず…、彼は亡くなってしまいました。日時を決めてこちらが出向くのではなく、プラネタリウムの機材一式をお届けして、好きな時に好きなように、好きな場所で星空を見ることができる『フライングプラネタリウム』は、この経験も踏まえてスタートしたプログラムです」

「社会課題ありきではなく、星が紡いでくれたご縁の中で、出会いが生まれ、この人と一緒に何かやりたいという思いが生まれ、今の活動へとつながっています」

「星空には、何かある」

闘病中のさちちゃん。「『毎日必ず笑う』ことを、信念にもっていたさちちゃん。つらい治療にも文句を言わず、少しでも楽しいことを考え出していました。最期まで感謝の気持ちを持ち、『自分らしく生きる』ということを、命をかけて教えてくれました」

「病院がプラネタリウム」で出会い、9歳で白血病で亡くなった「さちちゃん」。

「病室の天井いっぱいに輝く星空を届けた際、彼女は『これで一年、生きられる』といいました。その後、毎月オンラインのワークショップにも顔を出してくれて、体調がすぐれない中でも本当に楽しんで参加してくれていた姿が印象に残っています」

「さちちゃんは生前、同じ病棟に入院していた『りちちゃん』と二人で、いつか私たちの活動拠点であるここ八ヶ岳に、本物の星を見に行きたいと言ってくれていました。亡くなった後、さちちゃんのお母さんから『りちちゃんも状態が厳しいから、八ヶ岳に行きたい』と連絡がありました」

八ヶ岳を訪れたりちちゃん家族。「りちちゃんたちが来てくれた日は雨でしたが、翌日は素晴らしい青空が見え、皆でソフトクリームを食べにいきました。ソフトクリームを食べるのが、今回のりちちゃんの旅の一つの目標だったのです。さちちゃんが応援してくれていたのでしょう、空には彩雲が見えていました」

「山梨での緊急受け入れ体制を整え、亡くなったさちちゃんのご家族と、りちちゃん、りちちゃんのご家族が、八ヶ岳まで6時間近いドライブをして来てくれました。りちちゃんは動いたり食べたりすることが難しい状況でしたが、夜には家族水入らずの時間を過ごし、二日目には外出してソフトクリームを舐めることもできて、自然の中で穏やかな時間を過ごしました。そして八ヶ岳から帰った三日後、息を引き取りました」

「八ヶ岳の大自然の中で撮った、りちちゃんの家族写真が本当に素敵で…、りちちゃんが精一杯生きた、その最期の時間を、星が紡いでくれたのだと思います」

「ご家族が滞在中、あいにく天候に恵まれなかったのですが、亡くなったさちちゃんのご家族と夜中に起きて一緒にしゃべっていた時、外に出ると、雲の切れ間からふと一つだけ、輝く星が顔を出したんです。『さちちゃん、やってくれたね』と思いました」

「星を見上げるということは、あらゆる境界線を乗り越えていくこと」

「誰の上にも、天井の上にも、必ず星は輝いています。そんな星空の下では、私たち一人ひとりの違いはとても小さく、一人ひとりの力も小さい。だからこそ、お互いに手をつなぎあっていきたい。同じ星空の下で」

「活動の中で出会ってきた人たちに、星の持つ力を教わってきました。人生を変える人もたくさんいます」と跡部さん。


「単に星空を眺めるだけでなく、共に生きていることを感じられるからこそ、私たちはそこから、生きるエネルギーを得られるのではないでしょうか」

「星を見上げるということは、あらゆる境界線を乗り越えていくこと」と髙橋さん。


「宇宙の視点でものごとを見た時、私たち一人ひとりの違いはあまりにも小さい。多様性を包み込む大きな宇宙の存在を感じずにはいられません。そしてまた、星空を見上げることは、大いなる自然の中の一部として、この大地に足をつけて生きている実感を与えてくれるようにも思います」

皆さんも今夜、星空を見上げてみませんか。

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、7/4〜7/10の1週間限定で「星つむぎの村」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、在宅で療養する子どもとその家族へ、「フライングプラネタリウム」を届けるための資金として活用されます。

1週間限定販売のコラボアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもパーカー、バッグなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、雄大な星空と自然を閉じ込めたスノードームを描きました。いつでもどんな時も、誰にもどんないのちにも、私たち一人ひとりの頭上には、星が輝いている。星が輝く壮大な宇宙がある。そんなメッセージを表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

「すべての人に、星空を」。必要とする人に星空を届け、人と人、思いと思いをつなぐ〜一般社団法人星つむぎの村

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,000万円を突破しました。

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