日本全国には600を超える児童養護施設があり、虐待やネグレクト(育児放棄)など、何かしらの理由によって家族で暮らすことが難しい2歳〜18歳までの子どもたちが暮らしています。入所している子どもたちの数は32,605人(2019年11月)。「子どもたちが愛されていると感じられている関係性を築きたい」。1948年からある児童養護施設に話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
「通じる愛」を理念に、家庭的で温かい環境で子どもたちを養育する
東京・赤羽にある児童養護施設「星美(せいび)ホーム」は、1948年から運営している定員100人の児童養護施設です。
「事情があって親と暮らすことができない子どもたちと、家庭的な環境で生活しています」と話すのは、スタッフの伊丹大輔(いたみ・だいすけ)さん(44)。
施設の定員は100人と大規模ですが、生活は6人以下の部屋に分かれ、それぞれ一室で生活が完結するようになっていて、小規模でより家庭に近い環境で生活できるようにしているといいます。
「6人以下のメンバーは短い縦割りのかたちをとっていて、一つの部屋に対し、3人以上の職員が担当し、共に過ごします。子どもと職員の関係性を重視しており、子どもたちが帰ってきたい場所であること、そんな雰囲気の場であることを大事にしています」
「星美ホームの理念は『通じる愛』。大人たちが子どもを大事にしているだけでは足りなくて、それがきちんと子どもに伝わっていること、子どもが『大切にされている』と実感できる支援を大切にしています」
「ただ、どんなに関係性を築いたとて、本当の家族ではありません」と伊丹さん。
「職員の退職もあれば、部屋の配置替えをする場合もあります。子どもたちもいずれはここを退所していきます。ジレンマや難しさを感じることもありますが、それでも『あなたは大切な人、必要な人だよ』と伝え続けながら、共に築いた関係性が、本人の生きる力にもつながっていくということを信じてやっていくしかないと思っています」
「子どもたちと、物理的に同じ空間にいるというのはもちろんそうなのですが、何気ない時にそばにいて、『いつでも頼っていいんだよ』『あなたは一人じゃないんだよ』とそっと伝えられるような存在でありたい。なかなか良い関係ばかり築けるわけではないし、時にはつらい思いをすることもあります。でもそれを乗り越えた時に、本当の意味での強い関係性を築くことができると思っています」
施設にいる間に「どれだけ関係性を築けるか」が重要
児童養護施設で暮らす子どもたちについて、「親からの虐待との関係はわかりませんが、職員を挑発したり、周りが嫌がることをわざとやる、いわゆる『試し行動』をとる子も多く、愛着に課題を感じる子どもが少なくないという事実はあります」と伊丹さん。
「子どもによって出し方は異なりますが、かまってほしくてアピールしたり、非社会的な行為などの問題行動もあります。さまざまな研究から、親から虐待やネグレクトを受けた子どもがその後、脳の発達に影響があることがわかっています。星美ホームで暮らす子どもたちの3割ほどが、定期的に精神科に通院しています」
星美ホームでは、担当職員以外にも心理士や精神科医など専門家が入ってケース会議を毎週行い、状況を多角的に判断しながら一人ひとりと向き合っているといいます。しかしその中でも、「子どもと職員との関係性は非常に重要」と伊丹さんは話します。
「問題が起きることは避けられません。しかし社会に出る前であれば、私たちがSOSを受け止めることができます。なぜそういうことをしてしまったのか、一緒に考える関係性を大切にしています。こうすれば良いという明確な答えがあるわけではありませんが、信じて積み上げていく以外に方法はないと思っています」
「社会に出た後、何があっても頼ることができる家族の存在や、いつでも帰ることができる実家は、誰にとっても心強いものですが、施設で暮らす子どもたちのほとんどが、そのような後ろ盾が何もない状態です」
「親のことをよく思っていなくても、それでも親を嫌いになれない、どこかで期待している自分がいる。『なんで自分はこうなんだろう』というわだかまりが整理されずに心の中にあると、何かあった時にふんばり切れず、崩れてしまうような印象があります」
「施設を出た後、元気に頑張っている子ももちろんいます。しかし一方では、精神的な疾患を抱えたり、仕事が続かない、悪いことをして逮捕されてしまうなど、社会のサイクルにうまく乗っていくことが難しい子が多いのもまた事実です」
「施設にいる間は何の連絡もしてこなかった親御さんが、就職した途端に子どもに連絡をしてきて、経済的な搾取をしようとしたことも過去にありました。うまく関係を再構築できれば良いですが、それが難しいという時には『親御さんとの関係を整理する』ということも一つの選択肢であり、我々ができる支援の一つでもあります」と伊丹さん。
「こういったことも含め、やはり子どもたちが施設にいる間に、私たち職員とどれだけ関係性を築けるかが重要になってくると感じています」
過酷な自然体験の中で気づきや自信を得る野外活動
このような課題がある中、星美ホームでは子どもたちに「挑戦や、やり遂げる経験でしか得られない自信を得てほしい」と毎年夏に野外活動を実施してきました。2005年からスタートし、代々受け継がれているのが、中学生男子を対象に実施している「星美ホーム百名山」です。
「これまでに45の山を制覇しました。約8日間の旅で、その年の参加者がチームとなって道中は徒歩で移動し、宿泊はキャンプ場などを使い、食事も自分たちで用意します。すべて計画通りに進むとも限らないので、道の駅や私有地、公園などに許可をとってテントを張らせてもらうこともあります」
「日常生活だったら嫌になったり面倒くさくなって逃げてしまうようなことに最後まで向き合ってみること、挑戦してみること、苦しくてもやり抜いてみることで、何か得られるものがあると思います」
「自然と対峙する過酷な旅を進んでいく中で、しだいに子どもたちの顔つきが変わっていくんです。参加するまでは『行きたくない』といっていた子たちが、やりはじめると本気になって、引率するスタッフも驚くほどの力を発揮するようになるんです」
「道中を共にするメンバーや職員が、一人ひとりの努力やがんばりを具体的に伝えていく中で、本人の中にも『自分って、がんばれるのかもしれない』『やればできるんだ』という気づきや自信が育っていくのです。終わってからも、『あれキツかったよね』『がんばったよね』と共通の話題が生まれて、職員との関係性の構築にもつながります」
「ここにいる子どもたちが精一杯、一生懸命生きていることを知ってほしい」
19年前に星美ホームの職員になった伊丹さん。
「施設にいる間はまがいなりにも生活できます。だからこそ、社会に出て何か問題が起きてしまったということを聞くと、『もうちょっと何かしてあげられることはなかったのか』『できることがほかにもあったのではないか』という問いは、正直ずっとあります」と話します。
私たちが何かできることはあるのか、尋ねてみました。
「児童養護施設という場所があるということを、まず知っていただけたらと思います。そこにいる子どもたちは悪い子なんじゃないか、暗い子なんじゃないかというイメージで見るのではなく、中には本当に『その状況の中でよく生きてきたね』という子もいて、ここにいる子どもたちが精一杯、一生懸命生きていることを知ってほしい」
「偏見なく、こういう世界があると知ってもらえたらと思います。ひと昔前に比べて減りはしましたが、それでも施設出身者であることが否定的に受け止められることがあって、一人暮らしのためにアパートを借りる際、施設の出身であることがわかると、大家さんから『施設出身者とわかっていたら貸さなかった』などということを言われることもありました」
「理解を示してくださる方がいる一方で、『施設はよくない子が行くところ』というようなイメージがまだあると感じます。そんな部分が払拭されたら、子どもたちにとっても、今よりも少し生きやすい社会になるのではないでしょうか」
星美ホームを応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、星美ホームと5/23〜5/29の1週間限定でコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。
JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が星美ホームへとチャリティーされ、子どもたちに新しい経験や世界、自分を知るきっかけを届けるための野外活動費として活用されます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインには、月にかけたハシゴに手をかけ、今まさに月に向かって登ろうとする人とそれを助ける友達を描きました。
「あなたのいのちは尊く、あなたが思っている以上にあなたは可能性に満ちた存在だよ」、そんなメッセージを表現しています。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!
・児童養護施設で暮らす子どもたちが「愛されている」と感じられる関係性を〜児童養護施設「星美ホーム」(社会福祉法人扶助者聖母会)
山本めぐみ(JAMMIN):
「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,000万円を突破しました。