自分の足で、自分の行きたい場所へ行く。自分の足で、前に進む。当たり前のことができない環境が、アジアの貧困層が多い農村部や、スラムに暮らす障がい児にあるといいます。車いすを届けることで子どもたちの自立を支援するNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)
7000台を超える車いすを
アジアの子どもたちに提供
アジアの子どもたちに、7000台を超える車いすを届けてきたNPO法人「アジア車いす交流センター(WAFCA)」。24年前の1999年、株式会社デンソーの50周年を記念する社会貢献事業の一環として設立され、その後NPOとして活動を続けてきました。
これまでに届けた車いすの数は7078台(2023年3月末)。「本人やご家族をはじめとする介助者にもヒアリングをして、子どもたち一人ひとりの体の大きさや症状に合った車いすを届けるようにしています」と話すのは、スタッフの近藤(こんどう)みなみさん。昨年はタイに170台、インドネシアに240台の車いすを届けました。
届ける車いすの多くは、現地で調達したもの。「たとえば昨年、タイに届けたうち110台は新品、60台は日本から届けた中古のものでした」と話すのは、同じくスタッフの北村翔一(きたむら・しょういち)さん。
「一人ひとりに完全オーダーメイドで製造するのは難しいので、ある程度汎用性の高い車いすをオーダーして、そこから補助具をつけることで、一人ひとりに合わせた車いすを提供することが可能になっています。WAFCAインドネシアが開発した『アダプティブシート』というものがあって、座位を保持するために活用しています」
車いすのほかに、生活の支援も
WAFCAではさらに、「車いすを届けるだけでは、子どもたちが直面している問題を解決することは難しい」と、車いすの子どもたちへ奨学金を届ける事業とバリアフリー事業も行っています。
「活動している地域では、たとえば学校に通うための教材費や制服代を障がいのある子どもたちに出すことが難しいという家庭もあるし、県に一つしかない特別支援学校へのアクセスが悪く、通うことができないという家庭もあります。でも、本人に学びたいという意欲があれば、奨学金で通学できます」
「日本のようにコンクリートで道が舗装されていない地域もあって、車いすに乗ること自体、ハードルが高いということがあります。また、学校がバリアフリーに対応しておらず、それが理由で学校側から断られるということもあります。そこで、自宅と学校のバリアフリー支援も行っています」
子どもたちのより良い暮らしのために、
継続的に支援する
福祉制度が充実している日本では、車いす購入時の本人や家族の負担は原則、価格の1割とのことですが、アジアの貧困層が多い農村部などでは、こういった福祉的な支援がなく、車いすを手に入れること自体が難しい状況があると二人は話します。
「車いすが月収の3倍以上の価格で、手に入れることができず、朝、起きてもベッドから起き上がることもなく、1日ずっとテレビや天井を見て過ごすだけ、という子どもたちがいます」と近藤さん。学校にも行かず、就職もせず、そのまま社会から孤立し、自立することのないまま取り残されてしまうということが起きているといいます。
国のサポートなどが、「全くないわけではない」と北村さん。
「車いすの現物支給もあるのですが、ただ、標準サイズの車いすであることが多いのです。障がいや手足の欠損のために自分で体を動かすことが難しい子どもたちの体には合っておらず、もらっても使えないまま無駄になってしまうということがあるようです。サポートが受けられない部分を、WAFCAが支援しようということで活動しています」
「支援している子の中には、ずっと家の中で過ごし、12歳になってはじめて小学校に入るという子や、20歳を超えて中学生という子もいます。学校へ通うことが障がい児の自立にとても大切だととらえているので、学業に励んでいる方であれば、30歳を超えて支援している方もいますし、卒業までを支援します」
「『自立』といっても、重度の障がいのある方が、自分の力だけで生きていくのは容易ではありません。周りの人たちのサポートも受けながら、本人の中でより良い、より豊かな、楽しみが増える生活を目指してもらえたらと思っています」
現地スタッフと連携して支援を届ける
タイとインドネシアでは現地に事務局を構え、現地のスタッフと連携しながら、子どもたちや親御さんへのヒアリングや車いすのフィッティングを行っています。
「設立からしばらくは、事務局長が日本人でしたが、今はタイ、インドネシア、それぞれ現地人スタッフ4人で運営しています。地域の教育支援センターなどとも連携しながら、丁寧な支援を届けています」
「また、自分の力で前に進むことができる」
これまでに支援した方について、お二人に聞きました。
「タイで暮らす21歳のカリンさんは、脳性麻痺があります。小さなお店を開いているお母さんと二人暮らしで、彼女が中学校に入る年齢の時に初めて学校に通っていないことがわかり、WAFCAとつながって支援をスタートしました」
「親御さんが出稼ぎのために出て行ったり、子どもに障がいがあることを理由に離婚したりするケースも少なくありません。車いすを届けるだけでなく、自宅のバリアフリーと奨学金の支援も行い、留年したりお休みしたりということもありましたが、今も頑張って学校に通っています」
「インドネシアで暮らす7歳のシャーナズさんは、先天性の障がいで両足が欠損しており、手の指も両手で3本しかありません。車いすは高くて買うことができず、2歳の頃からお母さんが買い与えたスケートボードに乗って移動していました」
「7歳でWAFCAと出会い、車いすを届けると泣いて喜んでくれました。本人の学習意欲も、またお母さんの教育への思いも強く、今はスケートボードから車いすに乗り換えて、元気いっぱいに学校に通っています」
「タイで暮らす20歳のファーストさんは、小学生の時に筋ジストロフィーを発症し、徐々に筋力が衰え、立つことや歩行が困難になりました。国から支給された標準の自走式(自分の手で車輪を動かして進む)車いすに乗っていましたが、徐々に手の筋力も衰え、自分で前に進むことが困難になりました」
「学校では『障がいがあるんだから、勉強しても意味ないじゃん』『なんで学校に来るの』と言われたりといじめに遭い、つらい思いをしたそうです。たった一人、親身になってくれる友達に、毎日ごめんねと言いながら過ごしていたそうです」
「彼女が中学生の時、指先だけで動かせられる電動車いすをWAFCAからお届けしました。『また、自分の力で前に進むことができる』。それは彼女の中でも大きな力になったそうで、その後、WAFCAの奨学金も受けながら、数々の困難を乗り越えて大学まで進んだ、数少ない方です」
「今年、支援してきた方の中で初めて、就職する方が出ました。私たちは日本事務局として、普段は広報や寄付の活動をメインに行っていますが、そうやって一人ひとりの成長を見守らせていただけることが、すごく嬉しいです」
「自分の望む場所に、自分の力で」
「現地の子どもたちだけでなく、日本でご支援してくださる方たちからも、『今まで知らなかったことを知ることで視野が広がった』や『役に立てて嬉しい』という喜びの声をいただきます」と近藤さん。
「自分で移動できること、自分が望む場所に自分の力で行けるということは、人として当たり前のことだということを、活動を通して感じます。まだまだ車いすを待つ子どもたちはたくさんいます。さらに多くの障がい児の笑顔のために、私たちは活動を続けていきたいと思います」
「学校に通う、好きなところへ行くという基本的なことが日常の中でかなえられていない子どもたちがいるということを知ってほしいと思いますし、ぜひ仲間に加わってもらえたら嬉しいです」
団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、7/17〜7/23の1週間限定でWAFCAとコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。
JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、アジアの子どもたちに車いすを届けるための資金として活用されます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインには、車いすの上に、たくさんの花が元気に咲く様子を描きました。必要としている人に車いすを届けることで、その人の可能性が花開いていく様子を表現しています。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!
こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・「移動の自由をすべての人に」。アジアに暮らす歩行に困難のある子どもたちに車いすを届け、自立を支援〜NPO法人アジア車いす交流センター(WAFCA)
「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は8,000万円を突破しました。