障がい者やLGBTなど多様な人を受け入れるインクルーシブな社会をつくるためには、どうすればいいのか。障がい者の就労支援の草分けであるゼネラルパートナーズの進藤均社長と、「ショウガイ」をテーマにしたクラブイベントを主催するNPO法人Ubdobe(ウブドべ)の岡勇樹代表が話し合った。障がい者の差別・偏見をなくすことに取り組む2人は、この領域でイノベーションを起こす秘けつを明かした。(聞き手・オルタナS編集長=池田 真隆)

対談を行ったゼネラルパートナーズの進藤社長(左)とUbdobeの岡代表

ゼネラルパートナーズは2003年に進藤社長が創業した。障がい者への差別や偏見に問題意識を抱えていた。差別・偏見の解消には、まずは「知る」ことが重要だと考え、活躍する障がい者を身近に感じられる状況をつくるため、就労支援に取り組むことを決めた。

NPO法人Ubdobeは岡代表が2010年に設立した。岡代表は20歳のときに母親をガンで亡くし、祖父は認知症で精神病棟に入院した。このことがきっかけで、福祉の道に進むが、そこで障がい者が隔離されて生活している現状を知る。医療に関する情報や福祉の現状があまりにも知られていないことに疑問を持ち、若者などが自然にそれらの情報に触れられるようなイベントを企画運営している。

今回、福祉の領域で革新的な取り組みを起こしてきた2人に、「イノベーションを起こすポイント」や「イノベーションを起こす人材の条件」などについて話し合ってもらった。

――インクルーシブな社会を実現するうえで、それぞれが感じていた問題意識は何でしょうか。

:ぼくの場合、どんな取り組みにも言えるのですが、社会問題を解決したいからこの活動を始めたわけではないんですね。自分自身の後悔に決着をつけるため、またはすごく困っている友達が身近にいたから始めたんです。

例えば、設立した頃から開催しているSOCiAL FUNK!というクラブイベント。これはクラブで音楽やダンスを楽しんでいる最中に、医療福祉の関係者や障がい当事者が登壇し、彼らの声に耳をかたむけるというもの。こうしたイベントを開こうと思ったのも、自分が母を亡くした時にあまりにも医療福祉の情報に疎く、家族が死にゆく中で何もしてあげられなかったという後悔からです。

クラブイベントで福祉関連の情報を伝える

同じ頃、訪問介護の仕事で出会った60代の男性がいました。彼は自宅で一人暮らしをしていて、初めて家を訪問したとき、直近2カ月で外出したのは、眼科と耳鼻科に行った2日間しかないことが分かりました。病院の検診なので、外出といっても、わずか短時間です。

外に連れて行きたいと思い、ぼくは料理が苦手だったこともあって、「一緒に外食しよう」と誘いました。それから週に1回の頻度で訪問していたのですが、毎週そんなふうに外食するようになると、彼から「今度は温泉にも行きたい」とリクエストが出るようになりました。

温泉に連れていき、一緒に浸かりながら「温泉に来たのはいつぶりなの?」と聞いたら、「40年ぶりだよ」という答えが。これを聞いたときには、40年間、誰からも「温泉に行こう」と誘われたことがなかったのだと知って、ハッとさせられましたね。

そこで彼の自宅に戻ると、介護記録用のノートに思っていることを書き連ねました。ほかの事業所のヘルパーにもこのことを知らせたいと思ったからです。彼はずっと家にいて、排泄と食事と入浴を繰り返す毎日でしたが、実は外に出たいと思っていたし、いろいろな物事に興味を持っている。

支援の対象者として彼を見るのではなく、一個人として、その気持ちを考えた結果、ぼくは外に連れていくことができた。だから、みんなも彼に何をしたいかを聞いて、行きたい場所に連れて行ってほしいと書きました。

そして、それを毎週続けていたところ、ほかの事業所のヘルパーから徐々にノートへ返事が来るようになりました。「今週、私も一緒に外出しました。こんな変化がありましたよ」と。

ただ、彼は外出できるようになったからいいものの、ほかの人はどうなるのか。同じような状況の人はたくさんいるはずで、そのような人のために何かできることはないか。そう思い、当事者が外に出るきっかけになるようなイベントを企画するなど、Ubdobeの活動につながっていきました。

「友達」の困りごとを解決していくことで、多くの人の悩みの解決につながっている

進藤:困っている友達を見ると問題意識が出てくるのですね。

岡:はい、一度困っている友達の話を聞くと、気になってしょうがない体質なんです。訪問介護をしているときも、「利用者さん」とは思えなくて、ぼくのなかでは「友達」として接していました。だから、友達が困っているとほうっておけなくなってしまい、勝手に何かを始めています。どうにかしてやんぞって気持ちで。

進藤:私も事業を起こしたきっかけは、障がい者に対する見方をなんとかしないといけないという問題意識でした。

例えば地域にある障がい者施設などに目を向けても問題は見られました。人が増えて移転の必要が生じても、障がい者が出入りすることを嫌がる物件オーナーが多く、移転先が見つからない施設が多くありました。「怖い」「あぶない」など変な目で見られてしまい、中には「地価が下がる」と言う人までいました。

当事者は何もしていないのに、むしろ、片身の狭い思いをして生きてきたのに、世の中の彼/彼女らに対する見方はこれでいいのかと問題意識を強く持ちました。

ただ、社会に目を向けると、もう一つの事実も分かりました。ある新聞のアンケート調査で、駅のホームで車イスの人を見かけたらどうしますかと聞いたところ、7割が「手伝いたいが何をすればよいのか分からない」と答えていました。

もともと社会は冷たいと思っていたのですが、この調査結果を見たことで、実は「怖い」とか「あぶない」と言っている人たちも「知らないだけ」なのではと思い直しました。つまり、差別や偏見が生じるのは知らないからなんです。

このことを知ったとき、ぼくには希望が見えた気がしました。当事者のことを伝えていけば分かってくれる、と期待が持てたからです。障がいのことを知ってもらうには、直接会って話すことが重要。ようするに、隣にいる状態をどうやってつくれるのかを考えたときに、一緒に働くことが効果的だと考えました。そうして、障がい者の就職を支援する事業を始めたんです。

障がい者の就労支援で実績を上げたゼネラルパートナーズの進藤社長

岡:そうなのですね。実はぼくも同じような思いで始めたイベントがあります。進藤さんの場合は一緒に「働く」場をつくりましたが、ぼくの場合は、子どものときから一緒に「遊ぶ」場をつくりました。

「Kodomo Music & Art Festival」というイベントがそうなのですが、小学校に通えている子どもたちや、施設に通っている子ども、入院している子どもが一緒になって曲やアート作品を作ります。そのアウトプットを野外フェスで行うのですが、フェスには有名なミュージシャンが出てきて、子どもたちは曲に合わせてライブペインティングをします。半年から1年かけて、会場の装飾物を子どもたちが絵具で製作するのですが、最初はコミュニケーションもなく、たまにケンカすることも。ただ、だんだんと個性を受け入れて仲良くなっていくんです。
 
普通に遊ぶ時間を過ごすだけで、すべてが変わる。もはやイノベーションでもなんでもないと思っていて、仲良く遊ぶ場をつくっているだけなんです。

進藤:ハンセン病などがそうですが、日本の政策は当事者を隔離し、健常者と「分けること」が根本にあります。私たちの活動というのは、それを一緒にさせてきただけなのかもしれないですね。

岡:そうですね。ただ、障がいがある子どもを持つ親御さんに聞いたのですが、分けられることが必ずしも悪ではないと思っていて、支援学校で良かったと思うこともあるとのことでした。

大事なのは、一緒に何かをすることよりも「選べること」だと思っていて、一緒にいたいと思う人どうしが勝手に一緒になれるような場をつくってあげることを常に心掛けています。

こちらが一方的に「障がい者と触れ合いましょう!」と叫んでも、どんな人かも分からないし、「いきなり言われても困る」となるでしょう。

一緒に何かをすることがインクルージョンではなく、誰でもこの人と一緒に何かをしたいと選択できることがインクルーシブな社会だと思っています。

選択ができないと強制になってしまうので、うちのイベントでは、とにかく細かく選べるようにしています。

――進藤社長は2003年に創業し、障がい者の就労支援を始めましたが、当時の周りの反応はどうでしたか。

進藤:事業として成立しないという反対の声が多かったですね。なかには、「訴えられるぞ」なんて言ってきた人もいました。その当時は、障がい者の就労支援を民間でしている事業者自体がなく、障がい者を利用して金儲けしている会社とでも思われていたのかもしれません。

だからこそ、世の中のこのような見方を変えるためには、事業として取り組み、私が実績を持って証明するしかないと思いました。

ただ、そうは言っても、起業したときは崖から飛び降りる覚悟でした。全財産を投資したのですが、子どももいたので、不安を抱えながらも失敗は許されないと言い聞かせていました。

*この対談の続きはこちら

進藤均(株式会社ゼネラルパートナーズ代表取締役社長):
立教大学社会学部卒業。メーカー、人材サービスのインテリジェンスを経て、2003年、社会問題をビジネスで解決することを目的として株式会社ゼネラルパートナーズを創業。雇用・教育・就労訓練・ライフスタイル・調査研究を手掛けている。2017年よりETIC.MAKERS UNIVERSITYサポーターに就任。趣味は、「新規事業創出」。

岡勇樹(NPO法人Ubdobe代表理事):
1981年東京生まれ。3歳から8年間アメリカ合衆国・カリフォルニア州・サンフランシスコで生活し、帰国後DJ・ドラム・ディジュリドゥなどの音楽活動を始める。21歳で母を癌で亡くし、後に祖父が認知症を患ったことをきっかけに音楽療法を学びながら高齢者介護や障がい児支援の仕事に従事。29歳でNPO法人Ubdobeを設立し代表理事に就任。医療福祉がテーマのクラブイベント、障がい児や難病児とつくる野外フェス、医療福祉系企業や行政のイベント・デザインのプロデュース事業などを立ち上げる。31歳の頃には音楽事業を展開する合同会社ONE ON ONE、その3年後には一般社団法人国際福祉機構を設立。これまで厚生労働省 介護人材確保地域戦略会議 有識者、東京オリンピック・パラリンピック競技大会推進本部 ユニバーサルデザイン2020関係府省等連絡会議 構成員を歴任し、2017年には日本財団ソーシャルイノベーターにも選出される。ハードコアとヒップホップ経由のエレクトロニカ好きである。

【SOCiAL FUNK!】
誕生から7年目を迎える『SOCiAL FUNK!』が渋谷のVISIONで開催決定!「踊るだけなく学べるクラブイベント」として2010年に始動したSOCiAL FUNK!が、ディープな医療福祉の世界をエンタメとテクノロジーで表現。今年のテーマは、「SHOWGUY」。フェス常連大物アーティストのライブ・DJから、最新テクノロジーを駆使したデジタルアート、五感をフルに活用してイベントを楽しめる体験型アトラクションなど、多彩なコンテンツに大人から子どもまでがブチ上がる。医療福祉、エンタメ、テクノロジーが融合するこの非日常空間で「未来のヒント」を見つけに行こう。
*公式HP:https://www.social-funk.com/
*FBイベントページ:https://www.facebook.com/events/383830382018293

<日時>
2017年11月26日(日)
13:30 OPEN 21:00 CLOSE
<会場>
SOUND MUSEUM VISION
〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂2−10−7
http://www.vision-tokyo.com/


【編集部おすすめの最新ニュースやイベント情報などをLINEでお届け!】
友だち追加


オルタナ50号ではミレニアル世代を特集

第一特集は「ミレニアル世代を動かす6つの法則」

オルタナ50号(9月29日販売)では、「ミレニアル世代」を特集しました。ほかの世代と比べて価値観が異なるこの世代を企業はどう見るべきなのか。6つの法則にまとめました。詳しくはこちら

[showwhatsnew]

お知らせ オルタナSでは、社会問題の解決につながる活動を行う若者を応援しています。自薦・他薦は問いませんので、おすすめの若者がいましたらご連絡お待ちしております。記事化(オルタナS/ヤフーニュースほか)に加えて、ご相談の上、可能な範囲で活動の支援をさせていただきます。お問い合わせはこちらから