なんらかの事情を抱え、生まれ育った母国を去らざるを得なかった難民。今、過去最大となる7,080万人もの人が故郷を追われているといいます。2019年、日本では10,375人が難民認定申請を行い、同年に難民に認定されたのは44人でした。申請数のうち、難民として認定をされた者はたった0.3%(*)。不安定な中での就労や生活。日本で暮らす難民が抱える課題と、それを打破する可能性とは。難民と共に活動するNPOに話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
(*: 2019年度に処理された難民認定申請数(15,422件)のうち、一次審査での認定者および不服申し立てで「理由あり」とされた者の合計数(44件)を割った数値)

日本にいる難民と共に「新しい風」をつくる

日本で暮らす難民たち。日本にたどり着いた背景はさまざまだが、一人ひとりが私たちと同じように夢や希望を持ち、輝ける存在であることに変わりはない

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NPO法人「WELgee(ウェルジー)」は、日本にいる難民と共に、誰もが活躍できる未来をつくりたいと活動しています。

「日本で暮らしていると、接する機会がほぼ無い難民へのイメージ自体なかなか湧きづらいですが、私たちと同世代で、才能とやる気に満ち溢れた金の卵のような人、多様性やグローバルな視点、高いコミュニケーション能力を持つ人がたくさんいます」と話すのは、「WELgee」広報の林将平(はやし・しょうへい)さん(25)。難民の中には、自分の意志や正義を貫いたがために母国を去らざるを得なかった人や教育やビジネスの分野で活躍し、母国のために貢献してきた人も多くいると話します。

お話をお伺いした林将平さん(写真左)

「WELgee」は難民として日本にやってきた人の強みやスキルを生かし、人材として企業とつなげることで、難民の就職だけでなくその先の定着、安定した法的地位への切り替えまでをサポートする事業を行いながら、同時に広く一般の人たちに難民について認知を広げ、理解を深めるための啓発活動も行っています。

「私たちが2019年に400名の日本人を対象に『難民と聞くとどんなイメージを思い浮かべるか』というアンケート調査を行ったところ、迫害やテロ、戦争や貧困といったネガティブな回答が多くの割合を占めました。多くの日本人が、難民に対して『戦争や貧困によって行き場を失ったかわいそうな人たち』という印象を抱いています」

2019年に400名を対象に行ったアンケートの調査結果

「メディアでは難民のセンセーショナルなニュースが報道され、そういった面からしか難民を知ることがないということも影響しているかもしれません。また、『まさかその難民が日本にいる』という事実も、未だ多くの人が知らないと感じています。しかし、難民は本当にかわいそうな人なのでしょうか」

「一括りにされてしまいがちな難民という言葉の先にある、ユニークな個性と出会ってほしい。そんな思いから、『WELgeeサロン』という交流サロンを継続して実施してきました。これまでに参加してくださった方は1,200人以上、難民の方は100人以上になります」

日本で暮らす難民が抱える課題

WELgeeが毎月開催している「WELgeeサロン」の様子。「『難民について話すのではなく、難民とともに語る』をモットーとし、日本人と難民の両者が双方向的な対話を行っています」(林さん)

そもそも「難民」とは、どのように定義されるのでしょうか。

「難民の定義としては『人種・宗教・国籍・特定の社会的集団の成員資格・政治的意見を理由に迫害されるという十分に理由のある恐怖のために国籍国の外におり、かつ、その国の保護を受けられないか、そのような恐怖のためにそれを望まない者』のこと」と林さん。日本にいる難民の方たちは、具体的にどのような背景でやってきたのかを尋ねてみました。

「WELgee」が携わっている難民の8割は、コンゴ民主共和国、カメルーン、チュニジアといたアフリカ大陸出身の人たち。その多くは宗教や政治的な背景などから日本に逃れてきた人たちだといいます。

「ある女性は、母国で工場経営やマーケティングコンサルタントとして活躍していましたが国教であるイスラム教を支持できず改宗をしたところ、その行動自体がタブーで結果として迫害を受けました。そして、無宗教の国だからという理由で日本に逃れてきました」

林さんがWELgeeの活動に関わるきっかけとなったのは、難民と職員が共に暮らすシェルターでの共同生活だったという。「年齢や国籍の異なる13名の難民の人たちと暮らした経験を、今でも鮮明に覚えています」(林さん)

「東アフリカから逃れたある男性は、難民として今でも母国に残した家族と離れ離れで暮らしています。出国当時、奥さんが出産を控えていましたが、緊迫した状況の中、一人日本へと逃れてきました。生活や収入、滞在できるビザの面でも安定が得られないことには、扶養を受けることとなる家族を呼び寄せることも容易ではありません」

日本では難民認定申請をすることで「特定活動」という在留資格を得ることができ、難民認定申請者は半年に一度、この在留資格を更新しなければなりません。

「半年に一度の更新が必要という法的にも不安定な状況下では、彼らが安定した生活、職や住まいを得ることへのハードルは非常に高くなる」と林さんは日本で暮らす難民の生活の難しさを指摘します。

なぜ、日本は難民認定率が低いのか

「WELgeeの活動理念は難民と『ともに』。支援者・被支援者という関係ではなく、対等なパートナーとして難民の彼らと共に活動を行っています」(林さん)

一方で、ドイツやスウェーデン、カナダなどいわゆる「難民受け入れ先進国」と呼ばれる国では、たとえばドイツは申請者に対して41.2%(2016年)、カナダでは67.3%(2016年)が難民として認定されています。日本の難民認定率は2014年以降1%を切っており、冒頭でも書いた通り、2019年の実績ではたった0.3%。なぜ、日本の難民認定率は低いのでしょうか。

一つは「立証の難しさ」だと林さんは指摘します。

「日本では難民認定を下すにあたり、たとえば『テロリストグループから指名手配を受けている』『指名手配されて、新聞に名前が載った』など、その人が迫害主体から個別的に把握をされ、狙われていることを証明する『具体的かつ客観的な証拠』が必要になります」

現在、9名の職員と10名以上のインターン・プロボノが在籍。チームの平均年齢は26歳という若い団体だ

「しかし、難民の人たちは、必ずしも皆がテロリストから指名手配されていたり、個人的に迫害や攻撃を受けていたりするわけではありません。『紛争の中で不特定多数への無差別な迫害がある』という理由から着の身着のまま国を逃れてきた難民も少なくありません。こういった方たちにとっては『難民であることを立証する』ことは非常に難しくなります」

さらにもう一つが「日本政府の難民条約に対する厳格な解釈」だといいます。国際社会では1951年に「難民の地位に関する条約」が、1967年に「難民の地位に関する議定書」が策定されました。この二つはあわせて「難民条約」と呼ばれています。

「これらの条約が締結された時代的な背景を考えると、当時、冷戦下でドイツの東西分断(第二次世界大戦後、資本主義の西ドイツと社会主義の東ドイツに分断された。1990年に統一)があり、東ヨーロッパの共産主義国から西ヨーロッパの自由主義国に逃れる政治難民や亡命者を保護することを意識して策定されたものでした」

「今でも政治難民は存在しますが、一方で、紛争や気候変動などの理由から、個別具体的に目をつけられているわけではなくても国を追われる人々も存在します。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は難民条約の解釈を広げる新たなガイドラインを発行しており、国際基準として徐々に定着しつつありますが、一方、日本政府は『ガイドラインは法的な拘束力をもつものではない』という姿勢を貫いています」

「爆弾は降ってこないが、人間として生きている心地がしない」

多国籍な難民の若者たちと作業するWELgeeのメンバー

「日本にいて爆弾は降ってこないけれど、人間として生きている心地がしない」。難民の一人が、林さんたちにこぼした言葉です。

「日本に逃れて来たけれど、心の壁、言葉の壁、制度の壁がハードルとなり、思うように働くこともキャリアを積むことも、安定した収入を得ることもできない。戦争や迫害こそ逃れられたかもしれないけれど、自分らしく生きることや自分の夢を実現する道筋が途絶えたことへの葛藤や苦悩が滲んでいました」

「『キャリアを積み直したい』『ただ生き延びるだけでなく、成長できる環境で働きたい』という思いを抱きながら、そしてそれだけの能力を持ち合わせていながら、不安定な短期の仕事や簡単なライン作業に従事している方も少なくありません。社会から断絶され、法的にも不安定、かつ将来の見通しのつかない日々の中で、若者たちの心が腐っていく現実があるのです」

「難民だから能力を発揮することができないのでしょうか。日本では、彼らはただ難民として支援されるだけの存在なのでしょうか。住む場所や食べるものがなかった時、そこへの支援は確かに非常に大切です。しかしその支援を積み重ねた先に、問題解決の糸口はあるのでしょうか。彼らが活躍できないのは、それまでの人生で培ってきた貴重な経験やその人ならではの強みが生かせる環境を、私たちが提示できていないだけとは考えられないでしょうか」

「かわいそうだから」ではなく、本人の能力が評価され、選ばれるしくみを

WELgeeでは月に一度、顧問行政書士を招いて外国人の在留資格に関する勉強会をオンラインで開催している。「難民認定申請者に伴走するには、一人ひとりのスタッフが外国人の法的な専門知識を持つことが必要不可欠だと考えています」(林さん)

難民として日本にやってきた彼らとだからこそ、できることがあるのではないか。日本や世界を変える「チェンジメーカー」として、共に価値を生み出し、未来を築いていくために「WELgee」が取り組んでいるのが、人材紹介サービス「JobCopass(ジョブコーパス)」です。高い能力と情熱を持つ難民と企業とをつなぎ、これまでに8名の難民が企業に正式採用されました。

「日本で暮らす難民が抱える課題に対して、果たして難民認定を待つことしか方法はないのか。難民としてではなく『人材』として問題解決の糸口がつかめるのではないか。そんな仮説からスタートしたのがこのサービスです。難民の最低限の生活を補助するのではなく、現状を変え、彼らがチェンジメーカーとなるような事例を一つでも多く作るのが、今の私たちの役割。『かわいそうだから』ではなく、彼らが持っている能力を生かし、日本の企業にとってもプラスになるしくみをつくり、お互いWin-winな環境や価値を生んでいきたい」

難民と日本の未来の可能性を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「WELgee」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×WELgee」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、「JobCopass(ジョブコーパス)」運営に必要な資金として使われます。

「難民認定申請中の若者に対し、キャリアコーディネーターがマンツーマンで伴走し、就職活動から企業とのマッチング、企業への定着、法的地位の安定化まで一貫してサポートしています。難民の活躍は同時に、私たち日本の未来の可能性をも広げると考えています。ぜひ、チャリティーアイテムで応援いただけたら」(林さん)

「JAMMIN×WELgee」6/15~6/21の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はベーシックTシャツ(カラー:ブラック、価格は700円のチャリティー・税込で3500円))。他にパーカー、トートバッグやキッズTシャツなども販売中

JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、向かい合う二人のシルエット。難民と対話しながら進める「WELgee」の活動を通じ、社会が難民の抱える課題としっかりと向き合い、解決に向けて動き出す様子を表現しています。シルエットの中には瞬く星を描き、無限に広がる難民の方たちの可能性と、その能力が生かされることで新たに生まれる社会の可能性を表しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、6月15日~6月21日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

「難民認定」以外にも希望の道を。難民が自らの境遇にかかわらず活躍できる社会を目指して〜NPO法人WELgee

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は4,500万円を突破しました!

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